第15話:凶龍連合

「うわぁ!」


 ドアを開けた肥田が俺を見るなり叫び声をあげた。


「いきなり大声を出すとは失礼な奴だな」


「な……なんで……なんでてめえがここにいんだよ!」


 俺が今いるのは工場地帯の奥にある肥田たち不良グループの溜まり場だ。


「なんでって……お前に会うために決まっているだろう。……封錠ロック


 踵を返そうとした肥田の目の前で扉が閉まる。


「クソッ開かねえ!なんでだ!」


「無駄だよ。その扉はどんな鍵を使っても開かない。爆弾を使っても無理だ。俺が許可しない限りはな」


「なんだよ……お前、一体何なんだよ!本当に人間なのかよ!」


 肥田が目に涙を浮かべながら叫ぶ。


「質問をしてるのはこちらだ。別に取って食おうというわけじゃない、答えてくれたらすぐに開放してやる」


「本当かよ……」


 肥田は信じられないというようにそろそろとこちらに近づくと対面のソファに座り込んだ。


「俺に何を聞きたいってんだよ」


「吐影 龍という男について知ってることを全て教えろ」


「吐影 龍!?」


 その言葉を聞いた肥田の顔から一気に血の気が引いた。


「な、なんであんな男に……っ」


 そこまで言って肥田はその意味に気付いて言葉を飲み込んだ。


「そういうことだ。お前がよこした龍二と龍三の件でずいぶんと怒っていたぞ」


「あ……ああ……なんで……なんで……」


 肥田は膝から崩れ落ちると頭を抱えた。


「もう終わりだ……凶龍連合に目をつけられたら生きていけねえ……なんでこんなことになっちまったんだ……」


「まあ自業自得だな」


「ふざけんなよ!お前のせいじゃねえか!お前が……お前が龍二と龍三をやっちまうからこんなことに……」


「勝手なことを言うな。元は敗北を認められなかったお前が悪いのだろうが」


 食ってかかる肥田を片手で払いのける。


 肥田は壁まで転がってその場でうずくまり、さめざめと泣きだした。


「もう駄目だ……俺もお前もおしまいだ……」


「まあそう泣くな。それにお前は幸運だぞ」


「何が幸運だってんだよ!今この世で一番不幸なのが俺だぞ!」


「俺がいるからだ。あの吐影 龍という奴を俺がなんとかしてやる」


「はあ?お前が?いやいや無理だっての!お前が幾ら強くたって敵うわけねえよ!」


 肥田が首をブンブンと横に振る。


「そんなことやってみなくてはわからないだろ。それにこのままだとお前が奴らに狙われるという未来は変わらないのだぞ?」


「そ、それは……そう、だけどよ……かといって俺がお前に協力したなんて知れたら……それこそ俺は終わりだよ……」


「優柔不断な奴だな。いいか、今のお前には2つの選択肢しか残っていないのだぞ」


 そう言って肥田の前に人差し指と中指を立ててみせる。


「1つは俺に協力すること。吐影 龍について知っていることを包み隠さず話せ。そうすれば協力の見返りとして身の安全くらいは守ってやろう。そしてもう1つは何もしないことだ。お前の協力がなくても俺が負けることはないが、その場合はお前がどうなろうと知ったことではない。さあどうする?今この場で決めろ」


「う……うう……」


 顔に脂汗を浮かべて悩んでいた肥田はやがて力尽きたようにうなだれた。


「……わかった、全部話す。その代わり絶対に俺のことを守ってくれ。約束だ」


「ああもちろんだとも。俺は約束を破ったことがないからな」





    ◆





「吐影 龍ってのはこの街で一番でかい半グレグループの頭なんだ」


 肥田が話し始めた。


(半グレってなんですか?)


 エレンシアが不思議そうな声で話しかけてくる。


(この国で犯罪組織に属していないが悪事を働く者たちを指す名称らしい)


(それって結局犯罪者であることに変わりはないってことですよね?)


(そういうことになるな。それよりも口を挟んでくるな。こいつの話を聞けないだろ)


「そのグループの名前は凶龍連合といって、構成員は1000人とも2000人とも言われてる。噂じゃこの街の半グレの9割は凶龍連合のメンバーらしいんだ」


「お前らもそうなのか?」


「ばっ……馬鹿言うんじゃねえよ!あんなところに入ったら人生終わりだってえの!つっても先輩が何人も入ってるから関わらねえわけにはいかねえんだけど……」


 肥田は恐ろしそうに頭を振ると話を続けた。


「つっても凶龍連合はただの半グレグループじゃねえんだ。オレオレ詐欺から強盗たたき、恐喝、ドラッグ売買まであらゆる犯罪に手を出してんだよ。そうやって手に入れた金でクラブや風俗なんかに出資して莫大な利益を上げてるって話だ」


「なるほどな、ただの血の気の多い若造の集団というわけではないというわけか」


「それどころじゃねえよ。最近じゃ企業恐喝までやってるなんて噂もあるんだ。それでも逮捕されねえのは警察の中まで入り込んでるから、なんて言う奴もいる。はっきり言ってちょっと腕に覚えがあるだけじゃ太刀打ちできねえ組織なんだよ、凶龍連合ってのは」


「面白い、ますます興味がわいてきたぞ。それで、その凶龍連合とやらの本拠地はどこなんだ?」


「わからねえ」


 肥田が頭を横に振る。


「わからない!?そこが重要なんだろうが!」


「しょうがねえだろ!それが半グレってもんなんだよ!連中には本拠地なんてもんはねえ。色んな場所を常に移動し続けてんだ。だから警察も手を焼いてんだって!」


「なんだそれは。それがわからないんじゃお前に聞きに来たのはまるきり時間の無駄ってことになるじゃないか」


 思わずため息が漏れる。


「だから言っただろ、連中と戦うなんてどだい無理な話なんだよ。大人しく逃げた方があんたのため……」


 肥田の言葉は突然ドアを殴りつける音に遮られた。


「おうこら肥田ァ!そこにいんだろうが!さっさとここを開けねえか!」


 ドア越しに響く怒号に肥田の顔が引きつる。


「や、やべえ、さっき言った凶龍連合に入ってる先輩だ!この場所知ってっから俺を攫いに来たんだ!どどど、どうする?どうすんだよ?俺を守ってくれるんだろ?」


「そうだな……」


 呟きながら指を鳴らす。


 ドアにかけていた封錠魔法が解除されて男たちがドカドカと乗り込んできた。


「ななな、なにすんだよぉ!?」


 肥田が泣きそうな顔で叫ぶ。


「何って、こいつらはその凶龍連合なのだろう?だったら直接話を聞くのが一番じゃないか」

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