第16話:緒戦
「おいコラ肥田ァッ!てめ、なんでさっさと開けねえんだ!」
「てめえがここにいるのはわかってんだよ!」
荒々しい声を張り上げながら男たちが入ってくる。
その数は5、いや6人か。
肥田が男たちを見て青い顔をしている。
「ゴ、五味原先輩……」
「おうコラ、いんならさっさと開けろや。まさか逃げようとしてたんじゃねえだろうな」
五味原と呼ばれた男が肥田の胸ぐらを掴んだ。
「てめえ、龍二さんと龍三さんがブチ切れてっからな。ただで済むと思うんじゃねえぞ」
「で、でも、俺はただ頼んだだけで……」
「ああっ!?んな言い訳が通用すっと思ってんのか?てめえがしっかり伝えてねえのが悪いんだろうが!てめえのせいでこっちまで要らねえ苦労をしてんだよ!とにかくてめえのことを連れてくるように言われてっからよ、大人しくついてこいや」
肥田が今にも泣きそうな顔でこっちを見た。
「も、森田さぁん、なんとかしてくれよ!あんた俺を守ってくれるって言っただろ?」
やれやれ、そのくらいの人数も相手にできないのか。
それでよく学校の不良少年たちをまとめられたものだ。
「……森田?どっかで聞いたことがあるような……」
肥田の言葉に1人の男がこちらを見る。
そいつは何かを思い出したのか突然叫んだ。
「五味原!そ、そいつあれだ!りゅ、龍二さんと龍三さんをやった森田って奴だ!」
「「「「なにぃ!?」」」」
その言葉に男たちが色めき立った。
「こいつが龍二さんたちをやったってのかよ?こんなひょろい陰キャが?」
「マジかよ!にわかには信じられねえぜ!」
「こ、こいつ、確か見つけ次第ボコれって言われてなかったか?」
男たちが俺の周りを囲む。
「肥田ァ!てめえなんでこいつとつるんでんだ!」
五味原と呼ばれた男が叫んだ。
「い、いや……俺だってこいつには……」
「そうか!てめえがこいつに龍二さんたちを売ったんだな!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!それは誤解だ!」
肥田が必死になって弁明するが五味原には聞こえていないようだ。
血走った眼で俺の方を睨み付けてきた。
「おい!どうなんだ!てめえは肥田の仲間なのかよ!」
「仲間?仲間のつもりはないが確かに守ってくれとは言われているな」
「やっぱりかよ!」
「違うぅぅぅぅっ!」
五味原と肥田が同時に叫ぶ。
なんだか面白くなってきたぞ。
「おいこらぁ!」
五味原がこちらを睨みつける。
「てめえが凶龍連合に歯向かってる森田ってえ野郎で間違いねえのか!?」
「だったらどうした」
「どうした、だとぉ!てめえには懸賞金がかけられてんだよ!その額はなあ……100万だ!」
「100万?」
俺は思わず頭を抱えた。
「おうよ!そんだけ出させるなんざてめえは吐影さんをよっぽど切れさせちまったみてえだなぁ!もうこの街で生きていけると思うんじゃねえぞ!」
五味原が何か言っているが全く耳に入ってこない。
「この俺が100万?魔界の王と恐れられたこの俺が……たったの100万だと?」
この世界の100万といえば元の世界ではせいぜい金貨10枚程度だ。
そんな額はゴブリンの小グループを討伐したらすぐに手に入る。
数年分の国家予算を費やして向かってきた人間どもを歯牙にもかけなかったこの俺が金貨100枚?
「この俺がゴブリンと同じ……ハハ……ハハハ……」
もう乾いた笑いしか出てこない。
「な、なんだこいつ、突然笑い出したぞ?」
「なんかヤクでもやってんのか?」
男たちが冷や汗を浮かべながらこっちを見ている。
「う……うるせえ!とにかくやっちまったもん勝ちなんだよ!お前ら行くぞ!」
「「「「お、おうっ!」」」」
五味原の掛け声とともに男たちが手に手に武器を持って襲い掛かってきた。
◆
「……それで、お前らも凶龍連合の本拠地はわからないのか」
「ハイ……すいません」
顔をボコボコに腫らした五味原がうつむきながら答える。
襲ってきた6人の男たちは今や全員同じように顔を腫らして正座していた。
「す、凄え……本当にやっちまったのか……」
肥田がその様子を見て目を丸くしている。
「当たり前だ、この俺がこの程度の連中に後れを取るとでも思っているのか」
(あなたは彼を倒した後で記憶を消したでしょう。だから覚えていないんですよ)
エレンシアが呆れたように割って入ってきた。
「そういえばそうだったな」
「なにがそうなんですか?」
肥田が不思議そうにこっちを見る。
「何でもない。それよりも本当に知らないんだろうな。俺に対して隠し事ができると思うなよ」
「そうだぞ!てめえら森田さんに洗いざらいしゃべらねえとどうなるかわかってんだろうな!」
いつの間にか俺の横にいた肥田が怒鳴る。
調子のいい奴だ。
「ほ、本当に知らねえんだ!俺たちはスマホに来たメッセージ通りに動くだけなんだ!誰が送ってきたのかも知らねえんだよ!」
五味原が必死に弁解する。
「メッセージというのはこれか」
五味原が持っていたスマホの画面にはメッセージアプリのアイコンが表示されている。
メッセージを暗号化して送受信できてサーバーに履歴も残らないと人気のアプリだ。
「メッセージは……一定期間で消去される設定になっているのか。念入りだな」
どうやら凶龍連合がただの半グレ組織じゃないというのは間違いではないらしい。
組織の全容を掴ませないために二重三重に手を回している。
「凶龍連合ってのは色んなチームがいるんだけどチーム同士は全く連絡を取らねえし誰がどのチームに入ってるのかもわからねえ。連絡を取ってるのはチームリーダーだけなんだけど俺たち下っ端にはチームリーダーすら誰だかわからねえようになってんだ」
五味原が媚びを売るようにこちらを見てきた。
「なあ、これでわかっただろ?俺たちは何も知らねえんだよ。あんたのことは吐影にも言わねえからさ。だからもう開放してくれよ。いや解放してくださいよ」
「ああ、そうだな。これ以上お前らに聞いてもしょうがないみたいだしな。それはそうとこれに見覚えはないか?」
そう言いながら男たちにスマホの画面を見せた。
「?なんだそ……」
スマホに目をやった男たちは言葉を終えるよりも先にカクンと頭を落とした。
「んな?」
「催眠魔法アプリだ」
驚く肥田に説明してやる。
この世界の人間に精神魔法が効きにくいのは先の肥田たちとの抗争でわかっていた。
なのでスマホにあらかじめ魔法を仕込んでおいたのだ。
これならスマホ内部で使われている水晶や希少金属を魔法の触媒として利用できるし詠唱の必要もない。
「これでこいつらは催眠状態になった。どんなに質問にも嘘偽りなく答える」
「凄え!そんな便利なアプリがあるんですか、俺のスマホにも入れてくださいよ!」
「後でな。それよりも尋問を開始するぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます