第1話 秒針は音を立てた
道にはふわふわした雪が積もっている。まだ17時30分を少し過ぎたところだというのに街には店や街灯の明かりが眩しかった。
「早いな。もう空が真っ暗だ」
俺がそう独り言を言っていると郵便局員の方がやって来て一言。
おつかれー今日はもう上がっていいよ
とのことなので俺は帰ることにした。郵便局の中に入り郵便鞄の中にある大量のハガキを仕分けボックスに入れる。それから休憩室に行き郵便局指定のコートを脱ぎハンガーに鞄と一緒にかけた。局員の方々にあいさつをした後外に出る。そして今朝自宅から着て来た深いグリーンのロングコートを黒いジャージの上から羽織り木倉鷹平は郵便局を後にした。
冬の冷たい風が流れた。俺はポケットに手を突っ込んで歩く。前に進むたびに足元で雪がサクサクと音を立てた。
「ブーツを履いてきて正解だったな」
俺はそう呟きながらもジャージにブーツは少しダサいかも。いや一周回ってかっこいいのかなどと考えながら苦笑した。まぁ周りのバイトもジャージで来てるしカッコつけた服で来てもコートで見えなくなる。それに外でハガキを受け取る仕事だから濡れても汚れてもいいジャージが最適だろう。
木倉鷹平は幼い頃に両親を亡くし今は祖父母と共に暮らしている。彼が通っている高校は基本的にはアルバイト禁止なのだが、なぜか冬休みの間だけはバイトをすることができた。
バイト代が入ったら日頃の感謝として、祖父母に何かプレゼントを送ろう。
そう考えながら街灯が少ない暗い道を歩く。日は完全に落ち辺りには人の姿は見当たらない。
突然どこからか声が聞こえた。低く唸るような嫌な声だ。不気味だ早く帰ろう。そう思い俺は少し足早になる。しかし誰かに操られているように体が言うことを聞かない、俺の歩みは近くの路地裏に吸い込まれていった。
そこは行き止まりだった。室外機の重低音がゴウゴウと響いている。一瞬眼の前で何かが光った気がした。
「なんだ…俺、疲れてんのかな?」
ため息をつき路地を出ようとする、途端に誰かに腕を掴まれた。即座に振り返るが俺はそれを見て固まった。空間が割れているとでも言うのだろうか、光の穴がぽっかりと口を開けている。そしてその穴からシワだらけの異様なほど長く細い腕が伸びていた。
「ヴアアアァ……アア、カミヨ、コノワタシニジヒヲ、スクイヲオオオォ………!!!」
苦しそうな声が穴の奥から這い出る。
は……………!?
俺は為す術もなく腕が千切れそうな力で光の中に引きずり込まれた。
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