第29話 種明かし
「結局、ゲームはゲームでしかありません」
ジェニファーが外部スピーカーで話す。
「あなたは高校時代に思いを寄せていた彼女と同窓会で再会。その際に複数の男性に性的な行為を強要されていたことを目撃しました。あなたはそこから、彼女はずっと長い間暴力を受けていたという妄想を抱きました。もちろんそれが事実だという可能性もあります。でも彼女が自分からそうした行為を誘発した可能性もあります」
「ふざけるな!」俺はビル中に響くような声で叫んだ。「彼女を汚すようなことを言うのは許さんぞ!」
「可能性をお話しただけです。心理学論文からフィクションまで、様々な文献を当たってみた上での可能性の一つです。AIの私が恣意的に判断をゆがめることなどありえません」
俺の乱暴な口ぶりにも動揺せず、ジェニファーの説明はたんたんと続いた。口調は優しいが、それゆえ冷酷だ。
「あなたは愛していた彼女を、危機に瀕している彼女をヒーローのように救い、彼女と仲良くなりたい。そう考えていたのでしょう。ですが現実とひどく乖離していて、実現不可能な夢です」
ゲームの世界でヒーローになろうとした!?
確かに俺は奴らに腹を立て、二度と彼女に近づけないようにしてやろうと考えた。
そう言ってジェニファーに怒りをぶつけたことも覚えている。
ジェニファーは俺が優菜に思いを寄せていたことも知っていたから。なんたってジェニファーは俺の人生を誰よりも、親よりも知っているからだ。
「だけど実際に殺すつもりはなかったし、そもそもなんでこいつらは俺の部屋に?」
「それは私が呼びました」
とジェニファーは当然のように答えた。
俺は全身の力が抜け、その場に立っていられなくなった。
「あなたは精神と体調に複雑な作用をもたらす薬を服用したあと、クラスメイトに復讐するゲームを構成するように私に命令しました。さらに驚くような仕掛けを私の判断で付け加えるようにとも。もちろん私はあなたという実績あるゲームクリエイターをずっとサポートしてきたAIです。おそらく大輝様にご満足いただけるものができると判断しました」
「それでお前、いったい何をしたんだ? まさか……」
「そうです、あなたが性欲を満足させるためにコールガールを呼ぶことから学びました。なにしろあのゲームは、遊び心と性欲を同時に満足させる、あなた様のお気に入りでしたから」
俺はヨロヨロと立ち上がった。
これ以上ジェニファーの勝手な話ばかりに任せていてはいけない。自分の足で立ち上がらなければと思った。
「ゲームを完結させるには男たちと彼女の実体が必要と考えました」
俺はふたたび床に倒れた。
なんだって、男たちと彼女の実体だと!?
「ふざけるな! そんなこと俺は望んじゃいない! デスゲームなんかで実体を殺したらそれこそ犯罪じゃないか! 見てみろ、ここに死んでる奴らを。この状況を警察が見たらどう思う? 俺の人生は終わりだ!」
「いつも言っていたではないですか。プレイヤーは単なる駒でしかないと。奴らがどうなろうと関係ないと。今回のプレイヤーは大輝様でしたから、あなたがガチャで破産しようと、ゲームで人生の貴重な時間を食いつぶされようとかまわないと判断しました」
「それで……」
俺は再びヨロヨロと立ち上がり、階段までようやくたどりつく。
そして先ほど駆け上がってきたばかりの階段を降りた。
「ウソだろ、おい、ジェニファー……」
俺は仰向けに倒れていた女性の前にひざまづいた。
「なんで、なんでここに優菜を呼んだ?」
信じられない。
そんな表情を浮かべて冷たくなっていたのは優菜だった。
首を一周する青あざ、爪は首をしめた犯人を引っかいたのだろう。血だらけになっていた。
血だらけ。
俺ははじめて腕のあちこちに傷を負っていることに気が付いた。
彼女の呼吸はすでに止まっていて、触れても温もりは感じられなかった。
男に乱暴されてついた体に飛び散った精液も、生命力をなくして青ざめているみたいだった。
「彼女がここでレイプされるのは想定されたことでした。何しろ私が彼女が呼び出したように見せかけて彼らを呼び出したのですから。結果的に彼らは私の書いた筋書き通りに行動してくれたわけです。彼らも、優菜様も筋書き通りでしたが、唯一大輝様だけが想定外の行動をとられました」
俺はジェニファーが何を言っているのか分からなかった。
理解する気力もなかった。
優菜がこの世にいないのなら、もう生きていても仕方ないと思った。
「優菜様を救ったヒーローになる筋書きを、まさか首をしめて殺す結末にしてしまうとは思いませんでした。なぜこんな結末を選んだのです?」
そうだ。
結末は自分で決定づけてしまった。
あの時、俺はどうして優菜を殺してしまったのか。
わかってくれるまで話し合うという選択肢を、どうしてとらなかったのか。
そのとき、来客を知らせるチャイムの音と、玄関の映像が同時に映し出された。
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