第23話 復讐と快楽

 俺はフラフラと階下に降り、優菜の体をもて遊ぶだけもてあそんで床にへたり込んでいた二人の男を正面から蹴りつけた。

 利き足での蹴りはクリーンヒットした。

 相手が呆然として反撃できない間に、俺は奴の首根っこをつかんで顔を殴りつけた。


 武器を使わずに素手で殴るのは、こぶしが壊れそうなほど痛かった。だがその痛みも、脳内に放出され続けるドーパミンによって、今は快楽に近い。


 俺の背後では起こっていることに気づかず彼女を犯すのに必死な男が腰を振っている。暴力とそれがもたらす快楽は、もしかしたら奴と同じかもしれない。

 本当なら俺はまっさきに彼女を助けるべきだろう。

 だが暴力という快楽に身を焦がした俺はあらがえなかった。


 こんな俺はこいつらみたいな最低の犯罪者と同じなのだろうか?

 いいや、冗談じゃない。

 俺は彼女を救ってヒーローになるんだ。彼女はお前みたいな奴らが指一本でもふれていい相手じゃない。

 優菜は俺の天使なんだから。


 俺は優菜にのしかかっている男の背中を服ごと引っ張って彼女から引きはがした。


「何する! お前……烏丸、烏丸大輝か。なんでこんなビルの中に」

「お前こそ、誰に暴力振るってやがる!」

「この女が、いいや誰かが俺を誘いだしたんだ。乱交パーティーがあるからって。入り口に変な薬を飲まされて。避妊薬とかなんとか……。だからいくらでも生でやっていいってよー」

「それが本当だとしても、どうして望まない相手を抱こうなんて思ったんだ! お前の――」

「望まないだって? こいつはクラスメイトの男を誰でもくわえ込む悪魔みたいな女だったんだぜ。それがどうして、ぐわっ!」


 俺は奴の頬を殴りつけた。


「なにしやがる!」

「話を最後まで聞く義務が俺になるか?」

「お前が聞いたんだろうが! ふ、ふふっ、そうか。お前が言いたいことが分かったぞ。お前は自分がこの女を抱けなかったから、自分がみじめで仕方なかったんだな。だからやりまくった男を見ると嫌悪するんだ」

「ち、違う! 俺はただ優菜を、彼女を助け――」

「いいや、違わねえよ。だいたいお前いつから見てた? 最初から見てたんだろう? 人がやってるの見てて自分の番がこないのがガマンできなかっただけだろう? あの時もトイレの前で見てたよな? 奴がトイレの前で優菜のスカートに手を突っ込んでた時もよー」

「なにを、言ってる?」


 目の前の男は勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 ズボンをあげながら立ち上がる。


「同窓会の時だよ」

「同窓会? お前、そうか中村か!」

「何を今さら! お前が優菜を好きだったとしたら高校生のときだろう? その時からこいつを思い浮かべてオナニーしてやがった。可愛そうになあ、お前がシコってるころ、他の男にやられてたってのによお」

「あ、あああ」


 こいつ、何を言ってるんだ。

 同窓会? 高校のころ?

 ここはゲームの中で、設定は高校時代だぞ。


「さあお前も脱げよ。俺がやってる間、こいつの口を貸してやるよ。もうビンビンなんだろ。さっさと優菜の口でたっぷり出しちまえよ」

「くっそー!」

「うわ、よせよせよせよせ!」

「何を今さら! 許してもらいたきゃ、あの世で彼女に謝れ」


 俺は奴に突進すると、ゴールキックのように思い切り奴の腹部にケリを入れた。

「ぐっはっ!」

 奴は鈍く短い悲鳴をあげると、床に倒れる。その後も俺は奴の腹を何度も蹴った。奴のその耳障りな言葉が聞こえなくなるまで。

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