第22話 むごい仕打ち

 廃工場に入ってきた連中の声には聞き覚えがあった。

 さっき俺が優菜の後を追っていたときに、彼女と一緒にいた男子生徒たちだ。俺はイヤな予感がして背筋に冷気が触れた気がした。


「ここがその心霊スポットなんだってっ」

「まじでなんかいるんじゃねえの?」

「いいじゃん、ちょっとだけだから」


 三人のばらばらという足音に混じって、地面を擦るような不揃いな足音が聞こえる。

「ちょっ、引っ張らないでよー!」


 優菜の声だ!

 俺の背中は凍り付いた。

 奴ら、優菜をこんな場所に引っ張りこみやがった。

 奴らのうちのひとりはゲームの参加者だ。

 何をしでかすか分からない。

 

「幽霊なんか怖くないって。なんなら俺たちに抱き着いてもいいからさ」

「ちょっ、怖いのは幽霊じゃなくって……」


 男たちのうちの一人はしゃべっていたが、残りの男たちはカバンで股間を隠すように歩いていた。

 顔は上気して赤く、優菜に顔を見られないようにしていた。


 俺が声を上げようとすると、黒川の奴が後ろから俺の口をタオルでふさいだ。

「おおっと、お前は大人しくしとけー。これから面白いことが始まりそうじゃないか」

「ううっ」

 黒川に文句を言おうにも声が出せなくなかった。


「うぐっ」

 黒川は俺を引っ張り、下の連中が見えない奥まで引きずっていった。

「お前はここで静かにしてろ。心配しなくても下の状況は俺がたっぷり見といてやるから」


 なにが見といてやる、だ。お前は面白がってるだけじゃないか。俺が優菜をどんなに心配し、心痛めているかなんてお前にはわかるまい。この人殺しが。


 下の方から女の子の悲鳴と抵抗する人を押さえつけようともみ合う音が聞こえてきた。

 奥へと引っ張られたおかげで周囲に音が反響し、何をしゃべっているのか分からないが、とにかく優菜が窮地に立たされているのは確かだった。


「くそっ」

 俺は後ろ手で縛られたロープをほどこうとした。

 だが黒川は俺を引っ張る際、ゆるみがないようにもう一度引っ張りなおしたせいで、また固く縛られてしまっていた。


「おお、すげー。奴ら本当に溜まってたんだな」

 部屋の反響のせいか、下の連中の声が聞こえないかわりに、なぜか黒川のつぶやきだけはハッキリと聞こえてきた。

「仮にもクラスメイトの女だぜ。それをあんなに迷いなく押さえつけるとはな。奴ら、手慣れてやがるぜ。それに対して残りの一人は腰がひけてるが、なに、それも行為が始まるまでの話さ」


 行為が始まるだと?

 優菜に何しようってんだ。

 彼女は、あの子は毎日のように男に押し倒され、弄ばれて、怖い思いをしてきたんだぞ。同窓会でも写真で脅され、スカートに手を入れられても抵抗さえできないでいた。辛くても泣き言一つ言わず、クラスじゃ彼女の明るさや気遣いで俺も腐らず登校できてたっていうのに。


「へえ、こりゃいいおかずが出来そうだぜ」

 黒川はスマホを取り出して撮影をはじめた。

 息を荒げて、下半身をもぞもぞと床に押し付けている。

「ああ、何やってる。パンツは片足だけ脱がして、あとは太ももにかけとくんだよ。全部脱がしてどうすんだ。

 ああ、そりゃ入らねえよな。ローションぐらいだれか持ってねえのか?

 唾液か。そりゃそうなるよな。たっぷり舐めてやれよ。自分のものにもたっぷり付けときゃなんとかなるだろ。


 黒川のおぞましい実況は続いた。

 優菜がそんな目にあってるっていうのに、奴は平気なのか。


 興奮しつつも撮影してるスマホだけはしっかりと支え、一瞬ももらさず撮影するつもりらしい。


 俺はそうしている間にもロープをほどこうと必死だった。

 最初は痛かったが、黒川の解説のあまりのホラーぶりから、もう痛みなど感じなくなっていた。


 黒川が男どもを皆殺しにするまで待ってなどいられない。

 俺が奴らを皆殺しにしてやる!


 ようやく片手をロープから抜くことができると、傷口から流れる血で汚れた手で、近くにあった鉄パイプを持ち、ゆっくりと近づいて黒川を殴りつけた。

 その手からスマホが落ちると、奴は床に顔を伏せて動かなくなった。


 そのスマホから、録画を写真フォルダに保存したというメッセージが出た瞬間、俺はそこをタップしてしまった。

 同時に、黒川が録画した映像が流れる。

 最初音が大きくて慌てたが、ボリュームを絞っている間、下の連中は気づかなかったようだ。


 そのおぞましい映像から、俺はしばらく目が離せなかった。

 まるでアダルトビデオのレイプシーンだ。

 あれは作り物だが、本物のレイプは思ったよりもずっと静かだった。女の子がキャーキャー言ったり、途中であんあん言ったりしない。まるで作業のように、男が腰を振り、後悔と恐怖で絶望した女の子の顔があった。

 いや、それは優菜だ。

 俺が大好きで、ずっと憧れていたあの優菜だ。


 優菜にのしかかる男が腰を振る間、他の男が優菜の足を両側から引っ張る。ちぎれそうになるほど開き、人形のようになった優菜に、乱暴に出し入れしている。それは狂気に満ちたサディスティックな快楽の儀式だった。


 黒川が言った通り、三人の男は今や誰も腰が引けてなどいない。ただ目の前で行われている行為の順番が、自分に来るのを期待している目だ。


 俺は目の前で行われている非現実的なできごとの恐怖に、脳内で勝手に分泌された麻薬の虜になっていく。まるで優菜をレイプしている男と同じ精神状態になっていくようだった。

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