第18話 殺し再び
殺しと性的な満足で心地よい疲労を感じながら、俺はベッドに大の字になって寝転がっていた。
まどろみながら、ハルキを殺した時の感触を右手で感じた。
ハルキがトイレから出てきたとき、奴は一瞬驚いたような顔をした。それは殺されようとする奴にしては、いささか緊張感のない間の抜けた挨拶と共に。
俺のために、とか、突然どうした、とか言ってた気がする。
優菜のことで頭にきていた俺は奴と世間話をする気などさらさらなかった。物語ならシーンを盛り上げるためにやりとりがあるところだ。悪人なら悪人らしいふるまいをしてから殺されるべきだし、不可抗力の悲劇なら視聴者が共感できるまで会話が必要だ。
だが俺にはすべて分かっている。
そんなやりとりは無用だ。
ハルキを殺した直後からゲームを再開した俺は、優菜の後を追った。
「た、大輝くん!? どうしてここに!」
優菜の驚きようを見てようやく思い出した。
俺がここにいることは優菜に秘密にするべきだった。
これじゃ俺が優菜を追ってきたみたいじゃないか。
「いや、それは……。に、優菜こそ……。まさかこんな場所で会えるなんて思わなかったよ」
「そ、そうだよね。いやあ、偶然だね……」
「大丈夫?」
「え、ど、どうして?」
「少し、辛そうに見えたから」
それは本当だった。
優菜は明らかに狼狽している。
それはそうだろう。同じようなことが二度連続で起きたのだ。あたかもそれは優菜には今後も同じようなことが起きると、神様が決定付けるようなものだった。
「う、ううん。最近予備校の宿題が多くなっててね。怖い先生がいるの。宿題忘れると、頭をガーンってやられるんだあ」
「ま、マジかよ。そんな奴、俺がどうにかしてやろうか? いや、どうにでもできるぞ」
「え?」
俺の剣幕に少し怯えた様子の優菜は答えた。
俺はすぐに誤魔化した。
「いや、昔俺にも怖い先生がいてさ。そいつのこと思い出しちゃって、つい」
「そうだよねえ。怖いだけの先生は先生やっちゃダメだよねえ。あははー」
目の下のクマや、こわばった笑顔は、なにも勉強が忙しいとか宿題が多いだけじゃあるまい。
彼女は制服姿のまま、その場をぐるぐると回りながら土をこするように右足をブラブラさせている。
時々強く地面に蹴りつけるときの振動が、彼女自身が気づかない不安やストレスを表してるみたいだった。
「俺がなんとかするよ」
「え?」
「キミが抱えている問題がどのくらいあるかは知らない。けれど、そのひとつくらいは解消してあげられると思うんだ!」
「どうしたの? 大輝くん。最近なんかオトナっぽくなった? ううん、違う。話したことはあんまりなかったけど、きっと私なんかより大人っぽいんだろうなあって思ってた」
「いや、大人っぽいんじゃなくて、老けてるだけだよ」
自分の実年齢を思って苦笑いする。
それが優菜には自嘲と取られたようだ。
「謙遜しなくてもいいよ。大輝くん、今、すっごく私の心の支えになってるもん」
俺は震えて言葉が出なかった。
強い電流で感電したみたいに、再び声が出るようになるまで何秒もかかった。
「お、俺が? ほんと?」
「うん、すっごく頼もしいって思ってるよ。えっと、急にそんなこと言われても気持ち悪いよね? ごめ――」
「そんなことないぞ! うん、嬉しくて叫びたいくらいだ!」
「そんな大げさな」
携帯メールでハルキの死体の処理が終わったとユズキから届く。
俺はそのメールの件名を横目で確認しながら、優菜の嬉しそうな姿を目に焼き付けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます