第13話 教室バトル

 言うなり、奴は高々と武器を上げた。

 持ち上げた時、小さなナイフぐらいだったそれは、下から上へと金属音を立てて変形し、RPGに出てくるような巨大な剣になった。


「おま! それズルいぞ。せめて俺にも武器をよこせ!」

「武器を渡せと言われて素直に渡す奴がいるか! せめてもの抵抗に机でも投げてみろ」


 シノヤマに言われた時には俺はすでに机を持ち上げようとしていたところだった。


「そんなに欲しいならくれてやる、よ!」


 いったん膝をまげ、勢いをつけて投げつける。

 正直学校の机なんて持ちにくいしたいして飛ばないと思っていたが、まっすぐにシノヤマに向かって飛んでいった。


「へ! どうだ」


 だが奴は振り上げた剣でその机を真っ二つにしやがった。

 その衝撃はで俺は吹き飛ばされ、黒板に背中を叩きつけた。


「ぐぅ!」


 息ができないほどの痛みが体中に走る。

 と同時に、窓ガラスも割れて粉々になった破片が校庭に飛び散った。


「きゃーっ」

「爆発か!?」

「いったいなんだ?」

「おい、全員もっと校舎から離れろ!」


 悲鳴に交じって様々な声が飛び交うなか、教室内はいっそう危険地帯と化した。

 天井の照明器具が床に落ちたり、机やいすが俺の方に吹っ飛んできたからだ。

 俺はとっさに教壇を盾にして難を逃れた。


「てめ、何しやがる。その武器にそんな威力があったのか?」


 めちゃくちゃな威力だ。

 それに風圧や衝撃まで感じるなんて、このリアルな感覚は本当にゲームなのか?


「なんだお前、知らなかったのか? コイツは相手を殺せば殺すほど威力が増すんだよ」

「聞いてないぞ、そんなこと」

「それは残念だったな。だが安心しろ。どうせお前はすぐに楽になるんだから」


 くそ、一人も殺せず、正規の武器を一度も使うことなくゲームオーバーかよ。ジェニファーに言っておかないとな。もう少しプレーヤーに優しいゲームにしろって。


「ああ、それと言い忘れてた。お前が死んだあとは俺が優菜を可愛がってやる」


 心臓がドクンとはねた。怒りと冷や汗でその鼓動を最後に心臓が止まりそうになった。


「なん、だと?」


 シノヤマ、シノヤマ……。

 思い出した。

 こいつもたしか同窓会にいた。

 優菜と他の女子の間に無理やり座り、やたらと優菜のスカートの膝のあたりに触れていた。周りの奴に気づかれないようにしていたみたいだが、俺にはお見通しだった。


 何度席を立ちあがってテーブルを乗り越え、そいつを殴ろうと思ったことか。


「あんないい女が男のおもちゃだったなんてよ。知ったときは震えたぜ。あいつ、小声でそっと脅してやると、男に逆らえねえんだ」

「やめろ……」


 はらわたが煮えくり返る。

 腸がドルんと回転してるみたいだ。


「お前さ、実は優菜んことスキだろ? あいつに命令しといてやろうか? お前のも抜いてやれってよお。ははははは。わははははは」


 シノヤマはこみあげてくる可笑しさに耐えきれないとでもいうように、武器を高々と持ち上げたままフラフラとよろめいた。


「くっそー!」


 俺はチャンスは今とばかり、机の足を持って天板をブルドーザーみたいにして散乱するイスや机を羽飛ばしながら進んだ。

 そんなヤケクソみたいなやり方でも、俺はシノヤマにどんどんと近づいていった。


 シノヤマは俺が間近に迫っても、まだ笑い転げていた。

 何がそんなに可笑しい。

 二度と笑えないように思い切り顔を殴りつけてやりたかった。


 その瞬間だ。

 あの声が廊下に響いたのは。


「烏丸くーん! 烏丸大輝くーん!」


 優菜の声だった。

 なんて間の悪い。

 注意をそらした瞬間、奴は俺の手の届く範囲から飛びのいていた。


「はっはっは。惜しかったな。女なんて星の数ほどいるんだ。一人の女に固執しても足をひっぱられるだけってのが分かったか」

「へっ、お前がどんだけ女で痛い目を見たか知らないが、優菜に手を出すなら俺が痛い目に合わせてやるぞ」


 そうだ。こいつは優菜に手を出した。

 ゲームのルールも勝敗も関係ない。

 こいつだけは八つ裂きにしてやる!


「おおこわ! あいにく俺は男と遊ぶ気はねえ。お前を殺したあと優菜と遊んでやらあ!」


 シノヤマがもう一度剣を振り上げると、にぶい光が剣先をまとった。そしてあろうことか、窓際に散乱していたガラスの破片が奴の剣を中心にハリケーンみたいに周りはじめた。

 そして奴が剣を振り下ろすのとほぼ同時だった。

 優菜が教室に飛び込んできたんだ。


「くるな! 優菜!」

「え!?」


 気づけば俺はシノヤマを八つ裂きにする決心も奴の攻撃のことも忘れ、優菜を守ろうと彼女に向かって飛んでいた。

 俺が盾になれるように。

 優菜の肌をあのガラス片が切り裂いたりしないように。


「ぐは!」


 優菜に抱き着くより先に、背中に衝撃が走った。

 次の瞬間、俺は優菜に手が届き、彼女の背中と頭を抱えていた。



「ちょっと、大輝くん? 大輝くん!?」

 一瞬だが気を失った俺は、優菜の声で意識を取り戻した。

 校庭や校舎に反響した消防車のサイレンの音が、優菜の声をかき消すと、俺は再び意識を失っていた。

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