第11話 クラス内の犯人捜し
翌朝、俺は自分の体に戻っていた。
といっても現実に戻ってきたわけではなく、ゲーム内の世界、高校生の俺の体に戻っただけだ。
目が覚めた俺がまず最初にしたことは、ゲームマスターであるユズキに断って朝食をとったことだ。
ゲーム内でも、その世界観を崩さずに現実同様の空間をマッピングすることができるようになっている。そのおかげで、俺は高校生の姿のまま、大人の俺がストックしておいた食事をとることができた。
なんとも不思議な感じだ。
これまで無意識にしていたことだが、さすがに教室間の移動や通学路の道すべてをVR空間で再現することはできない。だから長距離の移動はコマンド入力と視線移動で行う。
実際に歩くことなく移動ができるわけだ。
この方法だとフィットネスとしては役に立たないが、ランニングマシーンを利用してひたすらまっすぐ歩くのも興覚めである。
だから移動はコマンドで、時間経過もそれに応じて進むのが基本だ。
教室に到着した俺は、出席した奴を見回した。
どいつもこいつも思い出にあるクラスの連中にそっくりな気がする。
正直ほとんど話したことさえないのだから、数人入れ替わっていても気づかないかと思っていたが、実際にはそんなこともなかった。
あいまいな記憶の中でも、ちゃんと彼らの顔は記憶に残っていたのだ。
これも卒業アルバムから彼らの連絡先まで、すべてをジェニファーに管理させてるおかげだろうが、こんな完璧なVR空間を作り上げるあたり、何もかもこいつに学ばせるのも考え物だと思い始めた。
これまでもそう思うことはあったが、すべて一か所で管理する便利さを体験してしまったら、もう後戻りできないというのは人間のさがというか何というか……。
まあいい。
完璧なら完璧で、俺は現実とのギャップにしらけたりせずにゲームに集中できる。
さて、今日の欠席者は昨日と同じ四人だった。
男子三名、女子一名。
ゲームの参加者は男子だけだから、女子一人は除外する。
この三人のうちの一人が昨日の襲撃者であることはほぼ確実だが、今この教室内にいる連中の中にも、まだ参加者がいるかもしれない。
まず目についたのは優菜と委員長だ。
この二人が会話しているのを見た時、俺は昨日の委員長の言動が矛盾していることがバレたらまずいんじゃないかと思っていたが、どうやら二人は学校行事の話に忙しいらしく、昨日の事など頭にないようだ。
安心したのもつかの間、俺に向けられた鋭い視線に気づいた。
教室の左最前列の席。
そこに座る眼鏡をかけた男だ。
眼鏡にしては体格がいいが、人畜無害な大人しい奴だ。
俺は気づかないフリをして鞄から教科書を取り出し、奴の視線をうかがった。はたしてその視線は俺か、俺の後ろの誰かに向けられたものか。
俺は奴との対角線上に誰がいるか確かめようとしたが、すぐに先生が来てクラス中が自分の席へと移動を始めてしまった。
「ちっ」
まあいい。
後ろに誰かがいるのか確かめたところで、それでどうなるものでもない。
奴が窓の外に目を向けたところで、俺はノートに目を落とした。
席順表を張り付けたページで例の男の席を見つけ、俺はそこにシャーペンでチェックを入れた。
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