第5話 バーチャル世界への誘い

 目が覚めた時、ベッドの上にいた。

 だけど自分の部屋にないはずの白いカーテンに囲まれていて周りが見えない。

 天井には見覚えがあるような気がするが、自分の部屋ではなかった。

 状況を確かめようと体を起こすと、ふわりと体が浮く。何か、いや誰かが俺の後ろに座ったのだ。


「こんにちは。はじめまして」


 その声には聞き覚えがあった。


「ジェニファー?」


 振り返ると、そこには制服を着た一人の少女が座っていた。まるで鏡のような動きで、体をひねってこちらを向いた。


「いや、誰?」


 見たこともない女だった。彼女が着ているの制服は、どこか見覚えのあるブレザー。年相応の髪の毛はサラサラのストレート、色は青みがかった白だ。照明もないのに、シャンプーのコマーシャルに出てきそうな天使の輪が、彼女の唯一のアクセサリーだった。


「私がここに来たのはね、あなたにゲームに参加して欲しかったからなの」

「ゲーム? お前ジェニファーじゃないのか?」

「ん、ジェニファー? うーん……」


 彼女は人差し指を顎にあて、記憶を探るように上を見た。とぼけているように見えるが、もし真剣に考えているのならあざと過ぎる癖だった。


「それ、わたしの名前?」

「……は?」


 自分の名前を聞き返す少女の存在は、今自分がいる空間の違和感へとつながった。

 天井から吊るされたカーテンで仕切られたベッド。ここは病院なのか?


「お前、記憶喪失かなんかなのか?」

「記憶、ソーシツ?」

「だって自分の名前が分からないなら――」

「ユズキ! 名前は、ゆずき」

「ああ……月」


 月夜を連想する青白い髪を持つ彼女にぴったりな名前だ。


「で、ゆずきは俺に何の用?」

「いきなり呼び捨て!? 初対面の女の子に非常識じゃない?」


 目を満月みたいに丸くして驚くユズキ。


「知らない男のベッドに入るのは非常識じゃないのか?」

「こほん、えっと……」ユズキは靴を脱いでベッドにあがると正座し、一度深々と頭を下げてから言った。「はじめまして、ユズキと申します。大輝さん、私はあなたが参加するゲームのガイド役です」

「いきなり、かしこまったな。それで? どんなゲームだ」

 彼女は口角をあげてニヤリと笑うと言った。

「生き残りをかけた、死のゲームです」


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