16.手合わせ、一戦目(その1)


 暫しの後、花畑を移植して剥き出しになった土の地面。

 

「さぁ、各々準備は宜しいか。己が価値を、輝きを、我が城に示せ。勝利条件はどちらかの降参や行動不能、若しくは死亡だ。我が子らをクロウ殿達が殺そうが止めぬし、その逆もまた然り。我が子らが勝利した暁にはそうさな、我が手ずから二つ位階を上げてやろう。死力を尽くして闘うが良い。」


 そう女王が言った瞬間、周りに居た蜂達の羽音が煩くなった気がした。エイティア女王、そんなことまでできるのかよ!制限やデメリットはあるだろうがめちゃくちゃ有用じゃん!

 

 俺達からの一人目、ボロボロのローブを纏った灰色の骸骨、骸骨錬金術師スケルトンアルケミストのリオが槍を片手に身の内にアイテムを潜ませその場に立つ。あいつのローブ、なんか変なんだよな。スペアの体を出し、リオが接続して動かせるようになるとどこからともなく湧いて出る。蛇型でもお構い無しに。脱ぐ事はできるが捨てることは出来ない呪いの装備みたいなものだ。


 対するカルチュアビー側には、お前ほんとに蜜蜂かよと言いたくなるような大きく強靭な顎を持ったカルチュアビー・リーパー

 ワーカーよりも小柄だが魔法に長けていると聞いたカルチュアビー・キャスター

 そして腹袋が異常に大きく発達しているカルチュアビー・タンカー


「確認です!本当に、全力でいいんですね?」


「ああ、道中でやってみせたように消し飛ばしても構わんぞ。無論、できるのであればな。」


「トーリ、嫌な予感がするから少し下がろうな。」


「同感です。巻き込まれたくないですもんね。」


 ジリジリと5メートルほど後退し、遠目にリオの立ち会いを眺める。まぁ、びっくり箱みたいな奴だし大丈夫だろ。


「では宜しいな。始めよ!力を示せ!」

 


〜リオside〜


 うんうん、クロウさんもトーリちゃんもしっかり離れてくれたね。さてと、どうしよっかな?正直近づかれるとやりづらいんだよね。でもお相手は私の《分解ディ・コンポース》を警戒してるのか一定距離を保って様子見してるからまずは大丈夫、と。あれ燃費悪いからあんまり使いたくないからね。ラッキーラッキー!何しても大丈夫って言ってたし、ここはみんなを使ってあげようか。


「センテモラウ!トケロ!」


 なんて考えているとタンカーが腹袋から蜜を飛ばしてきた。エイティアさんの声は聞き取りやすいけどお子さん達の声、ガラスを引っ掻いたような音がして苦手なんだよねぇ。


「うわっ!危ないですねぇ!当たったらどうするんですか!」


 口ではそう言いながら余裕を持って回避。べちゃり、と音を立てて地面へと落ちたそれは少しして煙を上げはじめる。


「は!?粘度が高い上にその蜜、もしかして強酸性?勝ったら後で少し分けて下さいね!お返しにこちらをどうぞ、つまらないものです――がっ!」


 お返しに槍と私用・・のポーションの蓋を開けて投げ付ける。タンカーはその見た目通り動きは他の2匹と比べて遅い。槍はしっかりと避けたが飛び散ったポーションの中身を少し浴びてしまった直後。


「ツメタイ?アツイ!イタイイタイイタイイタイカラダガ!」

 

 地面に落ちて苦しそうに転がるタンカー。あれを生き物が浴びればそうなる。だってあれは――


「どうです?私が私用に《錬金魔法》で濃縮した特製ポーションの効果は。効き目が良すぎて昇天しちゃいそうですね?」


 他2匹はいきなり苦しみ出したタンカーの様子を少し見て、助からないと判断したのかリーパーが前衛に、キャスターが後衛に位置取りしこちら警戒している。


「何故だ!?何を使った?いくら錬金で作ったアイテムとは言えタンカーは種族の中でも各種耐性が高いのだぞ!」


 エイティアさんが野次を投げてくる。まぁ種明かししてもいいかな?あそこまで効果高いのあと1本しかないし。


「はい蜂さんちょっとターイム!やだなぁエイティアさん、言ったじゃないですか。あれはポーション、れっきとした回復薬ですよ?但し、私専用のですが。クロウさんやトーリちゃんが間違って使っても死ぬでしょうね。」


「おいそんなもん絶対他と混ぜるなよ!後で全部検品して貰うからな!」


「大丈夫ですよ。私が貴方達を殺す訳ないじゃないですか。」


 分かってますって。だからこれはクロウさん達にも知らせてない、ローブに隠してるんですから。いつもどこからともなく現れて装備されるこのローブ、クロウさんの影と比べるのもおこがましい程小さいスペースだけどポーションが少しと槍が2.3本程度なら収納出来る。


「だが少し腹にかかっただけだ。それであの効果とは……骸骨、いやリオ殿、私は貴女を見くびっていたようだ。」


「いえいえ、私はクロウさんに助けて貰ってばかりの、ただの素材大好きな錬金術師ですから。それにその評価はこの戦いが終わってから改めてして貰ってもいいですか?この後大ポカするかもしれないじゃないですか!」


「はははっ!それもそうだ。止めて済まなかった。それでは続きを頼む。もう何が出てきても驚くまいよ。」


「それはどうかなぁ.......。」


 クロウさんの呟きが聞こえたけど無視無視。まだ動きの鈍い盾役を倒しただけだ。油断はできないし、正直私ができる事ってそんなに多くない。まだまだアイテムはあるけど事前に準備した物が尽きたら《灼熱の魔眼》頼りになっちゃうし。即席で土の槍とか作ってもいいけど耐久性がねぇ?あれは《分解ディ・コンポース》前提じゃないと使えないよ。……よし、折角だから大盤振る舞いといこう!


「ねえ、蜂さん。私思うんですけど、1対3ってフェアじゃないですよね?今はもう1対2ですけど。全力を見るなら確かにギリギリまで追い込めばいいと思います。でも私、痛いの嫌だし近接は苦手なので私らしい全力で行きますね!……呪われた錬金術師の本領発揮と行きましょう!」


 肋骨に引っ掛けていた蔦でできた小さな人形を2個とクロウさんの抜け落ちた羽を取り出す。クロウさんの羽って面白い。含まれる魔力が高いほど明るく澄んだ青色に近づくから、眺めてよし、使ってよしな素材だ。少しもったいないけど全力だからね、また今度翼の手入れって名目で明るい羽貰おう。


 大顎をカチカチ言わせながら突撃してくるリーパーをいなし、キャスターが放った水弾と土弾を即席の土バットで相殺し、距離をとる。


「ぶっつけ本番だけどトーリちゃんにクロウさんの力も借りて諸々全部乗せで行きましょう!今の私ができる全てをここに詰めます。これを突破されたら《大失敗ファンブル》引くまで目の前で錬金しまくってやりますよ!」


 手に持っていた蔦人形を地面に置き、瑠璃色や天色の羽をその上に置く。ついでに自分の骨も2本ずつ横に置き、準備完了。


「何してもいいって言ってましたからね、もう止められませんよ!」


『参ろうか、参ろうか。ここは何時いつでも丑の刻。人を呪わば穴二つ。その身に刻む備忘録。己に釘刺す芻霊すうれいは、その身を焦がし思いを馳せる。地駆け空駆け貴方の傍へ、熱い思いを届けましょう。』


 詠唱を始めると共に《灼熱の魔眼》、《呪法》、《錬金魔法》が起動する。今まで感じたことの無い負荷に頭が割れそうだ。体からどんどんと力が抜けていく感覚。あぁ、くらくらする。思い付きでやるんじゃなかった。胃もないのに吐き気がする。羽が燃え尽きその灰が蔦人形へと降り注ぎ、青白い炎を纏うと70センチほどまで大きくなる。傍に置いた骨は《錬金魔法》で片側を削られ釘のような形へ。起き上がった蔦人形はその釘を両腕に取り込みカルチュアビーを向く。

 

 最後の仕上げに《呪法》の出力を上げる。自分が作る武器道具に自動で付与される《呪法》、最初はクロウさんやトーリちゃんが使うのだからとなるべく変なものが付かないように意識しても上手くいかず、半ば諦めていた。博打のようなものだと。少し性能が上がるのだからなるべく安全なものを使ってもらえばいいと。


 ――違う。安全な呪いなんて無い。のろいもまじないもあちらを立てればこちらが立たぬように、メリットが欲しいならデメリットを享受する。どうせ自分が使うんだ。よりピーキーに、より危険に。使いやすいが弱いものより一つの場面で絶対に力を発揮するものに。近接は苦手で一撃当てられれば上等ならば限界まで耐久性を削れば良い。状態異常が効かない自分しか使わないポーションならばいっそ毒物にしてしまえば良い。そうすればより強くなるのだから。


「宣言通り、これが私の全力です!《呪法錬金》―『抱炎自壊の蔦人形スーサイド・ウィッカーマン』」

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