17.手合わせ、一戦目(その2)


〜リオside〜


「さぁ、これで私はMPもSPもスッカラカンです。これを越えられると出来ることはもう……いや少しありますが、正直めちゃくちゃ調子が悪いので降参します。時間も無いのでさっさと終わらせましょうか。」


 青白い炎に包まれた蔦人形はジリジリとその身を少しずつ灰にしている。持って3~5分といったところかな。MPとSPだけじゃ足りなくて少しHPまで持っていかれたから大分具合が悪い。早く終わらせて素材の山に埋もれたい。


「行ってらっしゃい《抱炎自壊の蔦人形スーサイド・ウィッカーマン》。私に勝利を持ってきて下さい。みんなの力が合わさったあなた達なら簡単ですよね。支援はするので存分に暴れて下さい。」


 釘を取り込んだ手でこちらに敬礼をした後、それぞれリーパーとキャスターへ向かっていく。いいね!心強い。2匹とも距離を取り、キャスターは水を辺りに撒いて蔦人形ウィッカーマン近づけんとするが青白い炎は勢いを弱めることが無く、むしろ蔦が水を吸って生き生きとしているみたい。リーパーは更に大きくした最早クワガタのようにも見える大顎でヒットアンドアウェイ。蔦を確実に切り裂きながら高速で離脱し、炎で少しダメージを受けながらも捕まらないように立ち回っている。むーん、あっちの方が少し厄介かな。


「方や劣勢、方や優勢ですか。まぁ3人の素材合わせたとは言え皆Fランクだから仕方ないですよね。もっとランクが上がればさらに強くなるでしょう!という事でここでバフ撒いちゃいますよ!観客の皆さんお気をつけて。毒も薬も、用法用量を守って使いましょうねー。」


 私や蔦人形ウィッカーマンと彼らの違いは色々あるが極論は生きているか呼吸をしているか、これに尽きる。正直最初に毒を撒けば勝てた気がするけれど、それだと面白くないよね。私も折角だから色々使いたかったし。キャタピラー以外の相手にもちゃんと効くか実け……ゴホン、検証しないといけなかったからね!

 

 そんなことを考えながら取り出したるは2本の透き通った赤と青の瓶。それぞれ赤が攻撃力、青が防御力を強化するポーションだがこれも自分用な訳で、《状態異常無効》か《毒無効》辺りが無ければまぁ普通に毒。蔦人形ウィッカーマンがどんな扱いなのか分からないからバフが入るかは微妙だけど、少なくとも蜂には効くよね。


「という訳で!すろーいーんぐ!ハイハイ頑張って蔦人形ウィッカーマン!火力足りてませんよ!もっと熱く!更に激しく!」


 それぞれが戦っている近くに落ちてパリンと割れた瓶から零れた液体は直ぐに霧となり混ざり混ざって辺りへ立ち込める。蔦人形ウィッカーマンの炎は青紫に変わり、より激しく燃え上がる。場外は大丈夫かなと見てみればエイティアさんが何かしてくれたようで土の地面より外に被害は無かった。よかったよかった、沢山被害出しちゃうと怒られるもんね。


 リーパーとキャスターはと言えば、リーパーは上空へ退避。キャスターは自分の周りを風で覆い、壁を作って霧の侵入を阻んでいる。


「リーパーは放っといていいでしょう。降りてきたら毒に蝕まれるでしょうし。さて、キャスター。もうそこから動けませんよねぇ?せめてリーパーと一緒に上へ逃げていれば良かったのに。でも曲がりなりにも魔術師。水、土と来て風まで使えるなんて凄いですね。それが仇となった訳ですが。いよいよもってそろそろ時間も無いので終わらせちゃいましょうね!蔦人形ウィッカーマン、ゴー!」


 号令を出すと青紫の炎を上げながら風壁へ突撃する蔦人形ウィッカーマン。だが風が強く一定より前へ進めないようで、体が削られ炎も消えかかる程。流石格上、正面からの力比べだとこっちが負けちゃうね。


「タイアタリナンゾニマケルカ!コノママケズリトバス!!」


「流石魔法の専門家!魔法力高いですねー。でも面がダメなら点でどうですか?」


 蔦人形ウィッカーマンは釘を取り込んだ腕を伸ばし、回転させながら風の壁を殴りつける。骨も筋肉も無いからできる芸当だよね。風に細かな砂が混ざっているのかギャリギャリと音を立てて釘が壁を貫き、そのままキャスターの体を掠る。――パキリ。


「グッ!コノテイドデ!」


「あー、こうなっちゃいますか。釘で攻撃するとこっちにもダメージのフィードバックと。まぁ、人体ってたくさん骨があるし大丈夫!足りなくなったら足せばいいだけだし、これが終わったら骨の数増やしとこ!さぁ、蔦人形ウィッカーマン!熱〜いハグでもしてあげましょう!」


「クソ!ナメルナヨアンデッド!サワルナ!」


 魔法を四方八方に乱発しながら近づいてきたキャスターを蔦人形ウィッカーマンの体から伸びた蔦が補足する。もがき暴れて抵抗するキャスターを絡め取り、叫び声を上げるそれをそのままゆっくりと燃え盛る自身の体の中へ。それこそ抱擁でもするかのように優しく優しくキャスターを自分の中へ押し込み、取り込む。


「ヤメロ!クルシイ!アツイアツイアツイ!ワガオウ!コウサ……」

 

 毒に蝕まれ、炎に巻かれたキャスターのくぐもった声が中から聞こえるけどあと数十秒もすればそれも聞こえなくなるでしょう。でもまぁやるなら徹底的に。


「これで2匹目も詰みです!蔦人形ウィッカーマン、お疲れ様です。《自壊スーサイド》」


 《自壊スーサイド》の言葉をスイッチに蔦人形ウィッカーマンは再び動き出す。

 

 その体の内にキャスターを仕舞いこんだ蔦人形ウィッカーマンは釘を取り込んだ腕を長く長く伸ばし、そのまま自分へと振り下ろし体の中心に打ち込み地面へと縫い付ける。瞬間その身はより激しく燃え上がり、瞬く間に灰へと姿を変えてボロボロと端から崩れ落ちていく。燃えた後に残ったのはひと握りの灰の山のみ。


「むう、やはり釘で攻撃すると私の体が……。しかもさっきは砕けたのに今度は灰になったんですけど!痛みとか熱さとか感じない体で良かったー!しかしまぁこれで終わり、と。どうしますかリーパー?残りは貴方だけですが、この毒に侵された空気でまだ私と戦いますか?貴方用の蔦人形ウィッカーマン残ってるのでいつでもいいですよ!さぁカモン!」


 暫く上空をブンブンと飛び回り葛藤するリーパー。早く、早く降参して!蔦人形ウィッカーマンが燃え尽きちゃう!


「……ムリダ。ドウアガイテモオレダケデハカチノメガナイ。ナサケナイカギリ。コウサンシヨウ。」


「良かったー!私ももうヘトヘトなので助かります!対戦ありがとうございました~!」


「よかろう、そこまでだ。一戦目、骸骨錬金術師スケルトンアルケミストのリオの勝利!」

 

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