15.把握、そして手合わせ
エイティア女王に客室を用意して貰った俺達はあれからまた情報交換を行い、アレイオス大森林の地理と種族分布について学んだ。
アレイオス大森林はおおよそ五つ、鳥モンスターが跋扈する空を入れると六つの支配圏に分かれているらしい。
北は俺たちの居るここ、カルチュアビー等の虫モンスターが覇権を握り、動物を圧倒する高木エリア。
東は過去の都市を飲み込んだ樹海遺跡が広がるエリア。ここはアンデットが多い。
南は荒野と接していて一番の激戦区との事。荒野の蠍やそれと争う蛇が主。
西は獣が多く、各地に亜人の集落が点在するエリア。集落同士の諍いも多く、言葉は通じるが俺たちの方が遥かに知能は上らしい。
そして中央、ここは死にたがりが行く場所、だそうだ。アレイオス大森林の中で一番の大樹がそびえ立つ地。アレイオスの守護者、古の獣が座す地。その獣は九本の尾を持つ狐だとも、九つの命を持つ山猫だとも言われているらしい。
「地理と分布はこんなものだ。私も細かいところまでは知らないがな。」
「いや、十分に役に立つ情報だ。助かるよエイティア女王。で、だ。本題はここからなんだが、お互いの神について。」
「明らかに別人……別神であり、目的もバラバラです。他の神に送られてきた人達も居ると思った方が現実的ですよね。」
「ああ、その神からの頼み……仮に『使命』とするか、それによってどうしても敵対する者が現れる可能性を頭に入れて置いたほうがいい。私が二グラより命じられたのは『この世界を命で満たす事』『命のサイクルの一部を担う事』自分の種族をどんどん殖やし、このアレイオス大森林で繁栄する事だろう。故に私は地下で子らを殖やし、広大な花畑まで作った。他にすることも無かった上、与えられた力や種族もそういう系統なのでな。……カルチュアビーとは、耕す蜂だ。兵は居るが、基本争いを好まずに自分達の植物を育てる。食虫植物を育てている馬鹿者も居たな。その過程で花の受粉を助けるし、自分達は対価に蜜を貰う。私は200年、200年だ。ここで静かに繁栄してきた。今更他の『使命』に私の城を崩されては堪らん。」
「俺達が邪神ちゃんから頼まれたのは……なんかあの海月ごちゃごちゃ喋ってたから細かいことは分からないが、『エリュシオンの発展』、『亜人になる事』くらいか。名前も知らないし、二グラが豊穣を司ってて実際にエイティア女王にその力が渡されたという事は……。」
「邪神ちゃんが死と輪廻を司ってる可能性、疑ってもいいのでは?転生させる時、何に転生させるか選べないって言ってましたよね?」
「あと、恐らくだけどもう一つあると思います。『どうか、どうか僕を楽しませておくれ。可愛い我が子達よ。』って……。」
「俺らは見世物でもコメディアンでも無いが!?そう考えると俺の【邪神ちゃんお気に入り】の称号スキル超怖い!」
「とにかく、私達に与えられたのは各人に適合する魔法属性が一つ、魔眼も一つ、あとは謎の空欄称号スキル、の三つですね。」
「エリュシオンの発展は一番最後に達成すべき『使命』だと思う。とりあえずは今まで通り亜人を目指して強くなろう。空欄称号は……そのうち何とかなるだろ。なんともできん。」
「でもでも、一応魔眼も魔法も役立ってる訳ですし、いいものになると期待していいんじゃないでしょうか!」
「バッカお前、神なんて自分勝手なんだよ!神話って知ってるか?ギリシャ神話辺りなんかは人間だったら性犯罪者だらけだぞ。まともな神の方が少ない。」
「ふむ、今後私の『使命』とぶつかり合うような事がなければ相互不干渉、若しくは協力が望ましいな。地を命で満たせとの命を受けている以上、悪戯に争うのは好かん。」
「エイティア女王はあれだろ?現状維持でも問題無いくらいだもんな。いいよな、繁栄……。俺らなんて真逆だ。下手すりゃ蠱毒だぜ?魔眼のLvが同じ転生者を取り込まなきゃ上がらないんだから。強くなる為にはあの電車に居た奴らと潰し合いが必ずどこかで発生する。現に今リオとトーリは命を狙われている訳だし。」
「そうなのか?だがこのアレイオス大森林で一度見失えばそう簡単に見つかる事はあるまい。ましてや地下だ。ここまでは一本道な上、いざとなったらソルジャーが逃げ道を掘れる。安心するといい。……だが、ふむ、魔眼か。参考までに何を持っているか聞いても?」
「僕が《凍結の魔眼》、リオが《灼熱の魔眼》、そしてクロウさんが《重力の魔眼》です。それぞれ簡単に説明すると見た範囲を凍結させる、燃やす、力場を発生させる、といったものです。」
「成程、どれもこの大森林で生きる上では有用だ。特に《灼熱の魔眼》はな。どいつもこいつも火に弱い。まるで誂えたかのような魔眼だ、名もしれぬ邪神に感謝するといい。」
「ああほんと、その点は感謝だよ。《重力の魔眼》のお陰で皆で逃げられたしな。」
「それでだ。突然ではあるが、我が子らと立ち会いをして貰いたい。なに無論、殺してしまったとしても構わぬ。こちらも殺す気でかかる。結果として貴方達の糧となるのなら必要な事だ。」
「「「えっっ!」」」
その突然なバトルの申し込みに俺達は固まった。
「待て待て待ってくれ!なぜにいきなり立ち会い?てか殺し合い?俺達、『使命』で対立してないよな?協力か不干渉でいこうぜ?」
「知ってしまった以上、元が別世界の人間だとしても見捨てるのは夢見が悪くなる。これから敵対勢力が現れるとも限らぬから出来れば協力をしたい。が、荷物は要らん。上からで申し訳ないが、貴方達の価値を我が城に証明して欲しい。相手はきちんと選ぶ故、善戦若しくは勝利すれば盟友と認めよう。カルチュアビーは戦闘能力の低い種族だが、舐めていると痛い目を見るぞ?」
「舐めてない、舐めてないから!くそっ二人ともどうする?三人でまたどこかに穴掘って拠点作ってもいいんだぞ?」
「いえ!私、いつまでもクロウさんに頼ってばっかじゃないって所、見せてあげますよ。どの子使おっかな〜♪」
やべぇ、リオは実戦でアイテム使えるから喜んでやがる。そうだ、トーリは?
「すーっ……やります。大丈夫です。やらせて下さい。女王、武器の持ち込みは?」
ナンデ!?
「問題無い。死力を尽くして、貴方達の今の全力を見せて欲しい。さぁ、クロウ殿は如何する?よもや女二人を戦わせて自分は逃げ帰るなど……あるまい?」
はい、詰み。
「はぁー……あぁ、いいぜエイティア女王……そっちこそ、鳥舐めてるといつの間にか餌になっちまうぜ?丁度頭使って小腹がすいてきたところだ、ちょいとつまみ食いしてやろうじゃん。」
「はははっ!……よろしい!では30分後にでも始めよう。各々準備を怠るなよ?こちらも舞台の準備をしよう。では。」
そう言い残し女王はその場を後にする。
「はい集合!」
「もうしてます。」
「分かっとるわ!お前らほんとに大丈夫か?特にトーリ。」
「大丈夫、だと思います。ワーカーなら10匹を超えなければ何とか。あの時は武器が無くて防戦一方でしたからね、リベンジしてみせます。」
「武器の方は任せてね!トーリちゃんにはなるべく癖がない、大人しい子を渡すから!という訳でクロウさん!工房と素材一式、あそこに出してください!調整と武器作成に入ります!」
「分かった分かった……《
「私の心配はしてくれないんですかー?」
「喧しい。信頼だ信頼。お前なら想定外の事があっても多少は大丈夫だろう。スペア要るなら言え。」
はーい、と答え、リオは工房へと向かっていく。
「クロウさん、あの……。」
「どうした、トーリ?辞めたいなら代わりに俺が二回戦ってもいいからな。任せとけ。」
「いえ、僕は、正直あの蜂に価値を見せるのはどうでもいいです。貴方の、リオの、お荷物じゃないって事だけ見せてあげます。自分だけじゃ逃げ切れもしないような僕ですが、いつまでも守られる側じゃない。」
そう言うトーリが擬態した兎の目はとても静かに俺を見つめていた。
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