14.対話、そして謎
「これはこれは、お目にかかれて光栄だねエイティア女王。いやなに、盗られたもの返してもらいに来たんだ。返してもらえればすぐにでも帰るさ、なぁ?リオ。」
「はい、返してもらえるのならそれ以上は望みませんし、危害を加える気もありません。」
来る途中に上半身消し飛ばしながら歩いてた奴がなんか言ってら。
「……盗る、だと?我らカルチュアビーに必要なのは花の蜜。宝なんぞに興味は無い。必要な蜜もここで栽培しておるし、何かを献上してきた子らも居らん。」
「宝ねぇ、まぁ似たようなもんだが、あんたらが連れ去った仲間を返してもらいたい。」
「そうです!トーリちゃんを返してください!一本道だったからここに居るはずなんです!」
「何を言うかと思えば、仲間?我らは肉など食わぬし毛皮も着ぬ。そこの骸骨なんぞ殺す価値すらも見いだせんわ。第一、鳥と骸骨の仲間か?狸や狐かなんかがここに迷い込んでいたら我が子らに駆除されておるだろうが、連れて来るなど有り得ん。我が子らに命じておるのはここに無い珍しい植物の収集じゃ。どこぞの生き物を間違えて持ってくる筈がなかろうよ。」
「俺らの仲間はその植物だよ。植物モンスターだ。蔦草の羊がここに運び込まれてる筈だ。確認してくれ。」
「植物モンスターを仲間と?何を言う。あれは言の葉を持たぬ。ここでも栽培しておるが、栄養を得て増える事への本能しか持たんぞあれは。《念話》で語りかけても反応もせん。」
「そこら辺俺らは特別なんでね。ここに連れてこられた植物モンスターもあんたらの言葉を理解する筈だ。
「……ふむ、暫し待たれよ。子らよ、子らよ。庭に持ってきた植物をここに。」
そう女王が告げると後方に並んでいた蜂達の一部が下の花畑を飛び回り、どこからか球体になり凍った蔦を運んできてゆっくりと地面へ降ろす。
「はて、羊の形をしておると言っておったではないか?」
「防御形態にでもなってるんだろ。おい、トーリ!聞こえるか!もう大丈夫だぞ!」
何度か呼びかけると、ゆっくりと外側の蔦が解かれてゆき土の球が姿を現す。その球もボロボロと崩れたら20センチほどの大きさの兎がぴょんと飛び出してきた。
「クロウさん!リオ!」
「ようトーリ。元気そうで何よりだ。今度は兎か?リオより趣味いいな。」
「心配したんだよトーリちゃん!全部凍らせれば良かったのに!」
「数が多すぎて無理だったから守る事だけ考えてたんだ。何とかしてくれると思ってたしね。ほんとありがとう!」
再会を喜ぶ俺達に声が投げかけられる。
「ほう、植物モンスターが言の葉を操るとは真であったか。貴様らは特別、と言っていたな。……ふむ、少し話を聞かせて貰いたい。歓待する故、我が城へ参れ。」
「え、俺らもうここに用無いんだが……帰っていい?」
「却下だ。そもそもその植物モンスターを返す等一言も言っておらん。それはまだ我等の物であり、奪われたのは貴様らの落ち度だ。だがまぁ、貴様らのその特別とやらを教えるのであれば考えんでもない。さぁ、来い。」
「はーい!ちょっとタイム!」
(おい、どうする?)
(正直ここから逃げるだけなら何とかなるかもですけどこれから先、蜂さんにも狙われるの嫌ですよ。大人しく着いてきましょう。)
(攫われちゃった僕が言うのもなんだけど、今は逆らわない方がいいと思います。それにここら辺の情報も持ってそうじゃないですか?)
「早う来い。秘蔵の花粉団子も出してやる。」
「ああ、分かったよ。お呼ばれされましょうかね、お手柔らかに頼むよ、エイティア女王。」
天井から垂れ下がる巣はさながら高層マンションの様で、綺麗なハニカム構造の中には黄金色の蜜がたっぷりと詰まっている。リオとトーリは飛べないので女王の配下の蜂に運んでもらっていて、何棟も垂れ下がる巣を通り過ぎ最奥下部、雫型にぷくりと膨らんだ王台へと誘われた。
中はつるりとした淡黄色の壁で覆われており、部屋の片隅にはボール状に固められた蜜や花粉が積まれている。
「さぁ、よくぞ参った客人よ。早速だが蜜でも舐めながら話そうではないか。子らは下がってよいぞ。」
そう言い、蜜や花粉を転がしてくる。
「ああ、ありがとう。それで何を聞きたいんだ?こちらからも聞きたいことがあるから答えてくれると嬉しいね。」
「答えられることであればな。で、貴様らどこから来た?」
「どこから、とは?俺は生まれも育ちもこのアレイオス大森林、だったか?ここの上だ。ちなみに生後一週間くらい。バブちゃんだから甘やかしてくれよな。」
「私もここの森出身です!気付いたら
「僕もだね。この森で
「ああ、違う。私の言い方が悪かったな。――貴方達も送られて来たな?」
「ッ!それは――!」
「リオ、ストップだ。それを聞くと言う事は、エイティア女王、貴女も似たような境遇という事で間違い無いか?」
「それは分からない。まぁ、人に聞くなら先ずは自分からがマナーか。恐らくは貴方達もだろうが、私は前世が人間だ。ようやく同胞に会えて嬉しいよ。クラスメイトと共に転生させられたがここに飛ばされたのはどうやら一人でね、クラスメイトとはあれから会えていない。確か私を転生させた神とやらは「二グラ」と名乗っていた。お願いされたのでね、この広大なアレイオス大森林から出た事も無い。」
二グラ、ねぇ。邪神ちゃんそんな名前だったのか。
「……俺達も元人間だ。体はともかく心までモンスターになったつもりは無い。先程も言ったが、俺達はまだここに来て間も無い。正直スキルの使い方だって危ういくらいだ。俺達の情報は好きなだけくれてやるから、代わりにここで生きていく上で必要な事を教えてくれ。」
「勿論だ、私も情報が欲しい。ここで200年程生きているが何せ引きこもりなものでね。せめて前世のように魔導端末や陸型汎用魔導車があれば良かったのだが……まぁ、この手足では運転する事もままならないか。」
「ん!待て待て、待ってくれ、200年も生き抜いたのには驚きだが、魔導端末って何だ?」
「陸型汎用魔導車だってトーリちゃん!凄い凄い!エイティアさんが居た世界には魔法があったんですか!胸が膨らみます!」
「君、膨らむ胸が無いだろう……?なんか僕達には難しい話だから黙って聞いてようね。」
「魔導端末を知らないとは……貴方達もノアの世界から二グラに飛ばされて来たのではなかったのか!?」
触覚をぐるぐると回し困惑するエイティア。俺だって困るわ。
「俺達は地球の人間だよ!どこだよノアって!あと俺達はここに飛ばしてきた奴の名前は知らない。自分で「邪神ちゃん」って名乗ってただけだ。」
「その神の見た目は?目的は?」
「私覚えてます!玉虫色の傘と触手を持った大きな海月でしたよね!傘にたくさんの目玉が付いてました!」
「目玉も色んな種類があったよね。人間みたいなまん丸の瞳孔に、爬虫類の様に縦に裂けてたり、タコや羊みたいに横長もあった。複眼もあったし、ひとつの目玉に複数の瞳孔、なんてのも。」
「そうだな、そんな感じだ。目的は……亜人を目指せ以外になんか言ってたか?事故に巻き込まれた可哀想な俺達にもう一度チャンスを〜って言ってたのは覚えてるが。」
「この世界に発展を!って言ってましたよ。地球が羨ましいから、連れてきちゃった〜って。なら技術者とか攫えばよかったのに!二グラって人もそんな感じですか?」
「いや、全く違う。なんだその気持ちの悪い見た目は……そうだな、単眼の黒山羊、かな。あいつはしわがれた声でこう言った。」
『私は二グラ。君達の母となり、姉となる者の名です。決して忘れないで。我が子よ。』
『この世界は、乏しい。故に、欲する。皆が潤い、豊かになる事を。我が子らへ使命を与えます。殖える事。この世界を命で満たす事。命のサイクルを、子らが支えるのです。その為の力を与えましょう。私が司るは豊穣。この力を、子らに。』
「で、生まれたのが私って訳だ。」
「邪神ちゃん以外にも変なの居るのかよ!やべえだろこの世界。え、つまりエイティア女王は亜人を目指せとも言われてなくて、産めや増やせやして群れを大きくする事を頼まれたのか?俺そっちの方がいいんだが?今からでも代わらね?」
「手がかりは強くなる事しかないですからねぇ。ましてや本当に亜人になれるかどうかの確証も無いですし。」
「ふむ、情報は増えたがそれ以上に謎が増えたな。よし、貴方達、暫くここに住まないか?情報の整理に時間が必要だろう。ここはアレイオス大森林の中でも安全だし我が子らには言い聞かせるから襲われることは無い。あぁそうだ、上半身を消し飛ばすのは遠慮して欲しい。どんどん増えるとは言え我が子は可愛いのでね。」
「リオ、道中の蛮行バレてるぞ。俺なんもしてないから知らないからな。」
「見捨てないで下さい!トーリちゃんが攫われてるんだから手段選んでられないでしょうが!でもエイティアさん、ごめんなさい……。」
「よいよい。数十匹の犠牲で大きな縁を得た。必要な犠牲だったろうよ。だがまぁ、見た所魔法師か錬金術師だろう?何か役立つアイテムでも作ってくれ。我が子らが扱えずに棄てていた素材が無駄にならなくて済むしそれでチャラにしよう。さぁ、我が子らに客室を作らせねばな。少し出てくる故、暫く待っていてくれ。」
そう言うとエイティア女王は部屋から出ていき、集めた蜂に指示を出している。
エイティア女王の言う通り、情報は増えたが分からないことが増えたから一歩進んで三歩下がった感じだ。ここならイトナからの襲撃に備えて精神を張り詰める必要は無いし、束の間の休息をしながら情報整理といこう。
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