13.蜜蜂、そして女王
「急げ急げお前の体出すから!トーリ見てみろ!あれ
影からリオのスペアボディを出しながらトーリの方へ飛ぶ。
「やだぁトーリちゃんモテモテ!働き蜂って確かみんな雌なんですよね?わぁお、百合の園だ……!」
「馬鹿な事言ってないではよ来い!虫ならどうせ火が苦手なんだからお前の魔眼でなんとかなるだろ。トーリに燃え移ると拙いから、いい感じに熱々で頼む。」
「お弁当温めるんじゃないんですよ!?私の事電子レンジだと思ってますか?調整難しいんですからねこれ!」
リオが加減して放った《灼熱の魔眼》が群がる蜂の表面を撫でる。やはり狙い通り熱は苦手なのだろう、幾匹かが翅や体を焼かれ、丸まりながらポトポトと地面へと落下する。
だがそもそもの母数が多く、トーリを包む蜂球は小さくならない。それどころか、どこからか追加の蜂がやってきて仲間に加わる始末。仲間をやられたというのに、俺達には目もくれずどんどんとトーリの周りに集まってその球を大きくしていく。
「リオもっと火力上げていいぞ。減る数より増える数の方が多いからトーリの安全云々言ってる場合じゃ無くなる。多少焦げても許してくれるさ。思いっきりやっちまえ!」
「トーリちゃん生きててね!虫さん達ごめんね!《灼熱の魔眼》!」
巻き込まれないようリオの後ろに下がった瞬間、魔眼が発動する。範囲最大にすると視界全体に作用するため、リオの前方の熱せられた空気がゆらゆらと揺らぎ、蜂球が表面からボロボロと崩れる。
俺も前に軽く体験したが、見られているところが炙られているような感覚になるんだよなあれ。あの空間に入ったら真夏のアスファルトの上で寝転がってるような気分になるだろう。
「進化したばかりでMP足りないのでもう無理です!クロウさんっ……!」
「分かってる!分かってるが空飛ぶ相手に《影魔法》は相性悪すぎるんだよっ!《重力の魔眼》で崩したところで増援も来る。くそ!打つ手なしってやつか?おいトーリ!聞こえるか!」
「蜂の羽音が大きすぎて多分聞こえてないですよこれ!どんどん集まってますしどうしよう!」
減らした数以上に増援が来る、焼け石に水の現状。どうにかトーリを救出するべく頭を悩ませていると
「「「「ヴヴヴヴヴヴ」」」」
「はっ!?え、その状態で飛べるの!?嘘だろおい!」
「待ってよ!トーリちゃん返して!どこ連れて行くの!!」
蜂球状態のまま宙へ浮かび、どこかへトーリを連れ去っていく。この場合、十中八九奴らの巣だろう。
「追うぞ!頭だけ持ってくから分離しろ。」
「また後で体出して下さいね!」
バラバラと崩れる骨から頭蓋骨を拾い上げ、飛び去っていく蜂球を追う。にしてもあの蜂、俺らには敵意すら向けてこなかったがどういう事だ?普通敵対生物が現れたら何かしらの反応はするだろう?とりあえずさっきはステータス見損ねたから今のうちに見とこう。
―――――――――――――――――――――――――――
種族:カルチュアビー・ワーカー
Lv:4/15
HP:15/15
MP:5/5
SP:16/20
攻撃力:5
防御力:3
魔法力:2
抵抗力:4
素早さ:10
ランク:F-
パッシブスキル
《飛行Lv2》《群れの意思Lv2》《火属性脆弱Lv9》
アクティブスキル
《決死の一撃Lv2》《フェロモンLv1》《採蜜Lv3》
称号スキル
《働き蜂Lv3》《軍勢Lv1》
――――――――――――――――――――――――――
なんか俺と同ランク帯なのにめっちゃ弱くね?ワーカーって事はやっぱ働き蜂だよな。群れで動く前提だから個々は弱いとかそういう……?名前的に物騒な《決死の一撃》だけ警戒してれば言っちゃなんだが雑魚だよな。弱い分、数はとんでもないから囲まれてボコられたらやばい訳だが。
にしてもカルチュアビー……文化的な蜂?教養ある蜂?文化はともかく教養無さそうなんだが。
「どうするよ。巣に着く前に何とかしないとさっきの調子だと下手すりゃ万単位いるぞ。」
「でも現状決定打が無いですよ?空飛んでるから影は無いし、多少燃やしてもすぐ補充されちゃいます。ビーって事は蜜蜂系ですよね?ならトーリちゃんがむしゃむしゃされるのは無いと思いますし、巣の入口前で生木燃やして燻しちゃいましょ。煙でわたわたしているその隙にトーリちゃんを奪還!」
「そう上手く行くかぁ……?トーリがあの中で暴れてくれたらいいんだけれども。」
暫くそのまま蜂の後を追う。20分ほど森を蛇行しながら飛行した後、地面にぽっかりと開いた穴へと降りていく。蜂球が巣の中へ消えていくのを確認し、俺も近くの地面に降り立ち、リオの体を出す。
「さぁリオさん。作戦どうするよ?巣が地面の下じゃ煙焚いてもダメな訳だが。」
「地面の中ならクロウさんの《影魔法》使えますよね?じゃあ一人でいいじゃないですか。早くトーリちゃん助けて好感度上げてきてくださいよ!私ここで待ってるので。」
「は?アホかお前も来るんだよ!俺だけ影渡りしてもトーリ連れて帰って来れねえよ!さっきまでの勢いは!?ねぇ君めっちゃやる気だったよね!?」
「だって私出来ることないですもん!閉所で《灼熱の魔眼》なんて使ったら私は大丈夫ですけど酸素吸って生きてるならクロウさん死にますよ?炭鉱のカナリアになりたいんですか?あと《錬金魔法》は使い方によるけど下手したら自滅します。」
「じゃあリオの作ったアイテムは?新しく掘った穴に移すからって工房の物全部持ってきてるけど。」
「さすが!ならいくつか出してもらえれば貢献できます!任せてください!武器と体の替えが効くのが私の強みなので!」
「お前絶対カミカゼアタックするやつじゃん……。」
リオが指定するアイテムを影から出す。それをリオは蔦で編んだ籠に入れ肩に担ぎ、入り切らないものは肋骨に引っ掛けたりしている。
「さぁ参りましょうか!いざトーリちゃん奪還へ!」
「お前これから地下に入るんだからな?崩落とかさせるなよ分かってるか?」
「トーリちゃん助けたら《土魔法》あるんですから大丈夫ですよ。それに私も《錬金魔法》で穴掘れますし。」
「掘れるからって埋めていい訳じゃねえよ。戦闘は最低限かつ迅速にだ。接敵したらMP温存しつつ仲間呼ばれたりする前に処理な。」
「スニーキングに爆発は付き物ですよね……。」
「カルチュアビー界隈のヒエラルキー最底辺であろうワーカーさんが俺等と同ランクなんだぞ?ジェネラルさんとか出てきてみろよ。何も出来ずに俺はつくね、リオは骨粉だぞ。爆発は最悪逃げる時だけな。」
「りょーかいです。そろそろ行きましょうか。意外とトーリちゃんが周り全部凍らせて迎えに来るの待ってるかもですよ?」
地下へと続く穴は直径約2.5メートル程。ワーカーは人の頭程だったから20~25センチだとすると最悪あれの10倍の大きさの蜂が居るのは怖すぎる。出くわさないように祈るしかないな。
警戒しながら下り坂になっている穴をゆっくりと進む。曲がりくねりながらも有難いことに一本道だから迷う心配はないが、撤退する時に帰り道の個体がいると確実に挟み撃ちを食らうのは頂けない。
「はーい、クロウさんストップです。3匹くらい来ます。」
撤退プランを考えながら進んでいるとリオがそう囁いた。どうやら接敵したらしい。
「俺行ってこようか?3匹ならすぐだろ。」
「いえいえ、ここは私に任せて下さい。
「いいけど迅速にな。遊んでる場合じゃないんだ。」
「はい。大丈夫ですよ。では行ってきますね。」
そう言ったリオは木で出来た短槍を3本担ぎ、カルチュアビーに向かっていく。スタスタと無防備に近づくと、向こうも気付いたのかこちらを向き羽を震わせる。
「おいリオ!気づかれてるぞ早く――」
「だーいじょうぶですってば。ほら、《
そう呟いたリオは短槍をそっと突き出し、カルチュアビーに触れる。
その瞬間、蜂の上半身と短槍の上半分が消し飛んだ。
「――は?」
「ね?ほら、ちょんちょんっと。《
残る2匹は突如上半身を無くした仲間に困惑したのか動けず、そのまま先程のように短槍ごと消えた。
「なんだよ今の!?お前あれは――」
「はい、しーっですよ。応援が来ちゃうじゃないですか。今のは《錬金魔法》です。ね?自滅しちゃうでしょ?ですがこの子達も役に立てて喜んでいることでしょう。さ、どんどん行きましょ。歩きながら説明しますから。」
ただの木の棒へと成り下がったそれを放り投げ、事も無げにリオは言う。
「今のなんだったんだ?《錬金魔法》怖すぎるだろ。」
「そのまんまですよ。《錬金魔法》の
「一撃必殺って……錬金術師ってもっとこう、後方支援な感じじゃねえの……?前線に出て敵を消し飛ばす系なの?」
「仕方ないじゃないですか!魔眼はここじゃ使えないし、魔道具も威力高いものは使えないんですから。多分これが一番早いと思います。」
「そりゃ早いが……まぁさっさとトーリ見つけて帰ろう。」
「どんどん行きましょう!最悪、土の棒でも作ればリスク低めに《
その後も何度か接敵したが、俺の《重力の魔眼》で押さえつけている間にリオが上半身を消し飛ばすというイージーモードで突き進んでいく。
そして進む事体感15分程。かなり深くまで潜ってきたと思うが、未だトーリが連れ去られたであろう部屋などは無く通路が続くばかりだ。一本道だったから迷う筈がないのだが、些か不安になってくる。
「あの、クロウさん。結構歩きましたよね。遠いし深くないですか?もう800メートルは歩いてますよ?いくらなんでもこれは……。」
「ああ、いくらなんでも
「見逃しようがないですよ。代わり映えもしない前も後ろも暗い穴です。せめてこう、光る鉱石とかあれば面白いのになぁ。……ん?クロウさんクロウさん!なんかこの先明るくないですか?」
「やっとどこかの部屋に出たか!トーリがいてくれるといいんだ……が……!?」
「「でっっっか!!!」」
ようやく狭苦しい穴から出たと思ったら、地下にも関わらず明るく、広い空間へと行き着いた。その空間の殆どを天井から垂れ下がる巣が圧迫し、地面には花畑が広がっていた。
前脚が鍬のような形に発達した蜂が地面を耕し、腹袋の大きな蜂が水を撒き、その上を俺達が遭遇したワーカーが飛び回っている。壁にもびっしり張り付いていて、侵入者であるこちらを警戒する視線が突き刺さる。
「おい、やばくね?」
「思ってたより多いですね。ドーム超満員って感じ!」
「あの中からどうやってトーリ探すんだよ無理ゲーじゃね?」
「んー、とりあえず炙ります?MP回復してますし、見えてる範囲ならとりあえず全滅いけそうですよ?確か《火属性脆弱》持ってるんですもんね。」
「あれ全部こっち来るだろうが!蜂に埋もれて死ぬのは御免だわ。あの花畑に草でできた羊とか居ねぇ?」
とかなんとか話しながら何とかトーリを探そうと眼下に広がる花畑を眺めていると、奥から一際巨大な蜂が現れ、ゆっくりとこちらへ向かってきている。遠目に見てもまぁデカい。具体的に例えるとそう、ワーカーの約10倍、どう見てもこの巣で一番大きい方ですねありがとうございます。少し後方にはその半分位の大きさの蜂が規則正しく並んで飛んでいる。
「どうする?一番でかいって事はあれ十中八九女王蜂だろ。」
「ランク高いなら言葉通じませんか?ダメならもう仕方ないからここ全部焼き払ってからトーリちゃん探しません?【土魔法】あるからドームでも作って中に隠れてくれますよ。」
「それワーカーは倒せても残った奴らにボコボコにされるだろ却下。とりあえず対話な。」
ある程度近づいて来たところで声をかける。
「なぁあんた!ここの女王だろ?アポ無しで済まないな。何分急ぎだったもんで。」
「ほう?如何にも。我はカルチュアビーが女王、エイティアである。野蛮な骸骨と鳥よ。何用で我が城へ参った。」
よっしゃ言葉が通じる!《言語理解》が通じても半分くらい問答無用で襲いかかって来ると思ってたが話するつもりあるならいけんだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます