逢魔時パーキングエリア

「俺さ、先月結構長く続けてたトラックの仕事辞めたじゃん?」

「あぁ。持病の腰痛が限界でやめたんだろ」

「実はあれ、本当の理由は違うんだ」

「そうなの? なんで嘘吐いたんだよ」

「なんか不気味で言えなくて。もちろん上司にも同僚にも言ってない」

「なんだよそれ? 気になるじゃん」

「俺さ、その日はたしかに三重のパーキングエリアに停車して仮眠を取ったはずなんだよ」

「おう」

「夜中1時に入ったんだ。それなのに目を閉じてから数分で、めちゃくちゃな眩しさを感じた」

「車のハイビームでも当たったのか?」

「目を開けてみると、そこはどう見ても俺の入ったパーキングエリアじゃなかったんだ。窓の外はまるで真夏の真昼間みたいに明るくてさ」

「はぁ? 昼まで寝ちまってただけじゃなくて?」

「さらに喫煙所とかトイレの看板の文字がおかしくなってて、俺のトラック以外は1台も停まってなかった。慌ててスマホを開いたんだけど、これも文字化けしてて全く操作出来なかった。外を見てみると体の一部が骸骨みたいな人間が数人歩いててさ、手が骨だったり、足が骨だったり。少しだけ窓を開けて会話を聞いてみたけど、なんの言語を喋っているのか分からなかった」

「はは。途中までは面白かったけど、さすがに最後ら辺は盛り過ぎ。じゃあお前そんなところに迷い込んだとして、どうやって戻ってきたんだよ?」

「俺はきっとまだその場所から戻れていない。だって今もお前の頭部が剥き出しの頭蓋骨に見えるし、喋っている言葉が理解出来ないんだ」






「ねぇ、このあとの全校集会さ、絶対2組の谷口たにぐちの話じゃんね?」

「うん、絶対そう! 夏休みの終わりに自殺しちゃったんでしょ?」

「マリが同じアパートに住んでるんだけど、警察が来たときの母親の取り乱し方すごかったって。あそこってシングルマザーで相当な親馬鹿とマザコンだったらしくてさ、『うちの子が自殺なんてするわけがない! 職場から帰る途中にアプリで居場所を確認したら、間違いなく家の近くのコンビニから家に向かって歩いてたんだから!』とかずっと叫んでたみたい」

「げぇ、高校生の息子にそんなアプリ入れさせてんのちょっとやばいね。……って、あれ? 母親がそんなこと言うってことは、谷口が死んだのってここら辺じゃない?」

「うん、なんか東京の高速道路脇でぐちゃぐちゃになってたらしい。ちなみにスマホはポケットに入ってたって」






「お父さん、おしっこ漏れるー!」

「え!? だからさっきのサービスエリアでしておけって言ったのに!」

「ごめんなさいー!」

「次まで10分はかかるぞ」

「無理無理、無理だよー! ……あ。お父さん、あそこ!」

「え?」

「あの横に矢印がついてる緑色の看板! あれってトイレあるところじゃないの!?」

「ずいぶん傷んでるな。どれどれ? 文字がかすれて読めないけどたしかに、パーキングエリアの看板か? ……ただ、どうしてナビに映らないんだ?」

「トイレあるなら入って! お願い!」

「うーん、潰れたパーキングエリア? けど道は繋がってる」

「はやくはやく!」

「まぁ通れるなら工事中だとしても、トイレくらい借りられそうか」

「ねぇ!」

「分かった分かった。とりあえず寄ってみよう」

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逢魔時パーキングエリア タカサギ狸夜 @takasagiriya

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