宇宙人じゃない証拠

「おはよモモ! あれ、カラコンしたんだ? 紫って珍しいね」


「おはよう。サエはどうしてこれがカラーコンタクトだって思ったの?」


「え? だって人間は朝起きたらいきなり瞳が紫になってたりしないでしょ」


「うん、人間ならね。じゃあ仮にさ、私が宇宙人に入れ替わられていたとしたら?」


 げ、始まった。

 モモの宇宙人入れ替わり議論。

 しまったな、カラコンに気付くのも地雷だったのか。


「あー。そうだとしたらそこまでの技術を持ってるのに、瞳だけ黒くするのを忘れたりしないでしょ?」


「人間の瞳ってものすごく複雑な造りだから、そこだけは色が調整出来ないのかもしれない」


「じゃあさ、さっきのモモの返事はおかしいよね? そうだよって、カラコンだってことにしておけば宇宙人だと疑われないはずだから」


「宇宙人が私とサエの関係性までトレースしていたら、こうやって議論するほうが自然じゃない?」


 駄目だこれ、終わらないわ。 

 モモはこれさえなければ素直で優しいし、とてもいい子なんだけど。

 自身に変化があった時や、普段と違う行動をとった時。それを指摘してきた相手へ宇宙人入れ替わり説を唱える。

 どの話題が地雷になるかはモモにしか分からないが、高2にもなってこんなことをしていれば、当然周りから人は去っていく。

 

「結局何を言っても、モモが宇宙人と入れ替わっていない証明なんて出来ないじゃん」


「そうなの。だから私は誰に対しても、もしかしたら宇宙人かもしれないって思って接してる」


「それはもう1年以上一緒に居る私も含まれるの?」


「もちろん」


 私は大きなため息を吐くと、不毛な議論から遊びの約束へ話題を変えた。


「で、土曜は6時半に駅前集合でいいんだっけ?」


「うん。昨日の帰り、駅の近くに新しくクレープ屋が出来てるの見つけたんだ。楽しみ」


 やっぱりモモは、宇宙人の話題さえ出なければ甘いもの好きな普通の女子高生だ。




 いつもモモと集合する時の目印に使っているモニュメントに着いたのは、6時10分。

 今日は部活が少し早く終わったから、20分も早く着いてしまった。モモはいつもギリギリだからな、仕方ないけどここで待つか。


「サエ、お待たせ」


「……え?」


 聞こえた声に反応して振り返ると、そこにはモモが居た。

「はやっ! あんたいつもギリギリなのに、なんで今日はこんなに早いの?」と口にしかけたが、また宇宙人だからかもしれないよ議論が始まる可能性があったので、慌てて口をつぐむ。

 てか、髪切ってる。ずっとセミロングだったのに、いきなりショートになってんじゃん。

 あれ? カラコンも紫だったのに緑になってる。よく見ればピアスも付いてるし。

 しばらく前から穴開けてたけど、髪で見えてなかっただけなのかな?

 それとも、最近開けた?


 ――なにこれ、めちゃくちゃ気になる。


 あぁあ! 指摘したい!

 というかこんなにたくさん変化が起きてて、つっこまない方がおかしいでしょ。でもダメだ、我慢しないとまたあの議論が開催されてしまう。


 つっこみたい衝動をなんとか抑えながら、新しく出来たというクレープ屋へ到着した。

 メニュー表の写真を見ると、一気に食欲をそそられる。

 なにこれ、めっちゃ美味そう。

 しかもこれで全品385円? マジ?


「モモ、よくやった! 美味かったら絶対通おう」


「うん」


「あんたはどうせこれでしょ、イチゴスペシャル。イチゴ系スイーツに目がないもんね」


「すみません、キャラメルシナモンください」


「うわ、マジ? イチゴがラインナップにある状態であんたがそれ以外選ぶの初めて見たわ。あ、私はチョコバナナで!」


「なんか美味しそうだったから。ところで、サエ」


「ん?」


「私髪切ったしカラコン変えたしピアス開けたんだけど、似合うかな?」

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