5月42日(雪)
志穂には2年ほど前から日記をつける習慣があり、毎日欠かさずそれを行っていた。
旅行に行ったり誕生日だったりの日記はもちろん長文で、逆にたわいない日の日記は短い。元々読書感想文で賞を獲ったり、小説を書いてサイトに投稿したりと文字を書くことが好きな志穂は、後者のような日に物足りなさを感じた。
そのうち充実した長い日記を付ける事が生きがいとなっている事に気付いてからは、自ら日記のネタになる刺激的な出来事を求め始める。
最初はSNSを駆使して、流行りのスイーツ店やドラマの撮影現場を訪れる程度だった。
しかし日記の内容がマンネリ化すると、だんだんと更なる刺激を求め、近くで起きた事件や事故現場を訪れたり、心霊スポットへ赴くようになっていく。
その日は、インフルエンサーの女子高生が自殺したという廃墟を訪れた夜だったらしい。
まだ4月だというのにまるで熱帯夜のような暑さを感じ、寝苦しさで目を覚ましたという。これも日記のネタになるかもしれないと枕元のスマホに手を伸ばし、起きたことを忘れないためにメモを開く。
そこで、その異常に気が付いた。
記憶にない、わけのわからないメモが一番上に増えている。
タイトルは完全に文字化けしており、タップして内容を見てみても同じように全く読むことが出来ない。寝起きでメモをとった際、たまに寝ぼけてフリックミスなどを頻発しており、何を残したかったのか分からない時があった。
これもその類だろうか?
その時はそんな考えでとりあえずメモを消去した。
戦慄したのは、翌日だ。
同じように妙な暑さで目を覚ますと、消したはずのメモがまた作成されていた。寝る前にしたメモより上にあるので、消し忘れたということは有り得ない。内容は全く同じに見えたが、今回は冒頭の文字だけ判別することが出来た。
数字の5。
他はやはり文字化けして読めないが、これだけははっきり入力されていたらしい。
それからも志穂が睡眠をとると、数回に1度のペースで同じ事が起こりメモが作成されている。
そしてその度、1文字ずつ鮮明になっていく。
今は冒頭の【5月42日雪の日】という不気味な文言まで読めるらしい。
ちなみに志穂は不眠症に陥り、現在は日記を付けることすらままならないようだ。
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