窓の外の親友
子供の頃に重い心臓病を患ったという亮司は、当時の不思議な体験を話してくれた。
手術をしなければ回復は見込めず、その手術の成功率も決して高いとは言えない。亮司の両親は子供だからと言葉を選ぶことなく、そう真実を伝えてくれたそうだ。
当然、手術を受けるしか選択肢はなかった。しかし頭では理解出来ても、九歳の子供の心がそれに追い付けるわけがない。
二週間後に予定された手術を待つ間、亮司はどんどん元気を失っていき、半分の一週間が経つ頃には、毎日通い詰めてくれる両親にも八つ当たりをしてしまうほどになった。
このままではいけないと分かっていたが、病室に一人でいる時間の寂しさと、手術に対する恐怖がどうしても拭えない。
そんなある日の昼下がり、見知らぬ少年が自分の病室を覗き込んでいるのを発見した。
個室の開いた窓の縁に手をかけ、組んだ両手に顎を乗せ、朗らかな表情でじっとこちらを見つめている。見た目は九歳だった亮司と同い年くらいだ。
おそるおそる話しかけてみると、少年はニコっと笑い、嬉しそうに返事を返してくれた。
そこから少年は毎日、亮司が一人の時に現れては相手をしてくれる。
大好きなサッカーの話や、流行っているゲームのこと。クイズなどの言葉遊び。
少年は決して病室に入ってくることはなかったが、亮司にとっては病気や手術の事を忘れられるかけがえのない時間だった。
そして瞬く間に時は過ぎ、ついに訪れた手術の日。
看護師が少しだけ離れた際に、少年はまた現れた。
亮司は、今日まで自分の心を支えてくれたお礼を言う。
「君のおかげで毎日が楽しかったし、手術をする覚悟が出来た。本当にありがとう」
「うん、僕も楽しかった。手術はきっと上手くいくよ。じゃあ、もう行くね」
少年の言う通り手術は無事成功し、亮司は今も元気に毎日を生きている。
それ以降、その少年は一度も亮司の前に現れていない。
ちなみに亮司は最後まで少年の年齢や病名はおろか、名前すら聞かなかったらしい。
分かっていたからだそうだ。
六階の病室の窓から現れた少年が、自分と同じ存在ではないことを。
少年は今もどこかの病院で誰かの力になってくれているのかもしれないと、亮司は嬉しそうに語る。
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