22作品目「あの子はでんき質」

連坂唯音

あの子はでんき質

 彼女はとても刺激的な女の子だ。彼女って言っているけど、べつに私のガールフレンドってわけじゃない。とにかく、彼女は刺激的なの。

 この前、学校で修学旅行に行ったときね、あることが起こったの。で、その話をする前にいっておかなきゃいけないことがある。

 

 中学三年生になって彼女と初めて同じクラスになった私。彼女はとてもピリッとしているって学校で噂になっていたから、どんな性格をしているのか気になってたの。で、その子に勇気をだして話しかけてみたけど、とくに怒ってる感じはなかった。どちらかというと、とっても明るくて女子ウケもいい感じだったな。すぐに彼女と意気投合した私は、化粧品を東京まで買いに行ったり、彼女の家に遊びにいったり、逆に私の家に招待したりして、いっぱい遊ぶようになったのよ。

 そしてある日、クラスで彼女と話している時のことだった。休み時間に彼女とアニメの話をしていたらね、男子がその子にぶつかってきたの。普段からしょっちゅう悪ふざけをしている男子どもが、たぶん彼女の気を引きたくてちょっかい出してきたのね。彼女、イスから落ちて床にこけてしまったの。私は男どもにぶちぎれて罵詈雑言の嵐をとばしてやったわ。

 そしたら、近くにいた別の男の子が彼女に手を差し出して、「大丈夫?」って彼女を立たせてあげたの。私は『イケメンね』って勝手に思っちゃった。そしたら、男の子は急に手を引っ込めて、「いたっ! びりびりってきたんだけど」と言って彼女から一歩引いたのよ。そのとき私は、彼女が静電気をまとっていたのかなって思ったけど、どうやら静電気のせいでびりびりきたわけじゃないみたい。

 後で知ったんだけど、彼女、電気を発する体らしいの。

 

 その次の日、彼女は私に言ったの。

「あたし、樋尾くんに一瞬惚れちゃった」

 すこし顔をあからめて彼女は告げた。樋尾くんってのは、さっき登場した転んだ彼女に手を差し伸べて起こした男の子ね。

「え、一瞬?」

 私がそう訊くと、彼女は少し目を伏せたわ。

 どうやら、樋尾くんが彼女の手に触れた瞬間に「いたっ」って言われたことが気がかりらしいの。手を差し伸べてくれた樋尾くんに一瞬だけ恋心が芽生えたらしいけど、静電気のせいで嫌われたんじゃないかと自分が惨めに感じたらしいのね。

「静電気っていうけど。今、夏よ。それでも静電気ってできるものなの?」

 私が訊くと彼女はこう答えたわ。

「私ね、ときどき人に電気を流してしまうことがあるの。かってに電流が発生するんだけど、その場合ってだれかに恋したときなの」

 はっきりいうと私は混乱した。

「え? どういうこと? 体が電気を生むってこと? 人の体ってそんなことできるものなの? しかも、恋したときに電流が流れるってどういう原理? え? 一目惚れして、『ビビッときた』みたいなこと? え? そういうこと? え? え?」

「落ち着いてよ。アニメとかによくある特異体質ってやつでしょ。雷を放つみたいなことはできないけど、ときめくと体を電気が駆け巡るの。比喩じゃないからね。人に触られると、流れてしまうの。だからいつもこの体のせいで恋を逃してしまうんだけれど………」

「はあ………。特異体質だったらそういうこともあるかもね。特異体質か分からないけど、私だって骨折しても、通常の人が治るのに三ケ月かかるところを一ヶ月くらいで治っちゃう体質だし」

「それもすごいね………」

 結局、彼女の電気が流れる体質のことについては、すぐに忘れてしまった。


 そして修学旅行で京都に泊まったとき、私は人生最大のショックを受ける。

 初日の夜のことだ。彼女と私は同じ班だったので、同じ部屋に泊っていた。お風呂の時間がきて、大浴場に一緒に向かった時のことだ。

 脱衣所で服を脱いでいると、ほとんどの女子が恥ずかしそうにタオルで体を隠して浴場に入っている。彼女も同じように、脱衣所のおくのほうでこそこそ脱いでいた。私はというと、裸体を女子にみられることに何の抵抗もないので、タオルで自分の体を隠すこともなく、すっ裸になった。彼女がちらちらこっちをみるなり、顔を赤らめたときは私も恥ずかしくなったけど。

 私は体を洗って、大風呂につかった。彼女は相変わらず、体をタオルで隠しながら体を流している。

 彼女も大風呂に入ってきたとき、それは起きた。大風呂に浸かっていた女子全員が、「キャッ」と声を出してお湯からでたのだ。私も声こそ出さなかったが、すぐにお湯からあがった。

「なになになに? どうしたの?」

 周りの女子が心配そうな顔をする。

「なにかびりびりきたの。電気が流れたみたい………」

 私はすぐに彼女の仕業だと思った。彼女の体からお湯に感電したのだ。彼女を見ると、お湯に入れかけた足を引っ込めていた。

 しかし、ある疑問が私の頭をよぎった。彼女の電気が流れる条件って、ときめいたときなんでしょ? じゃあ、男子がいないこの場で、このタイミングで?

 彼女は私が呼びかける前に、脱衣所へ戻っていった。


 脱衣所にいくと、彼女は体をタオルで拭いているところだった。私が彼女の前に立つと、彼女は顔を私からそむけた。しかし、彼女の視線は私の方へ向いていた。

「ねえ、電気流したでしょ。なんであんなときに電気が発生したの? だれか好きな男子のことでも思い出したの?」

 私が訊くと、彼女は首をふった。

「ときめいちゃったの………」彼女は言う。

「誰に?」私は聞いた。

「あなたよ………」

 私は「え」と声にだしたつもりだったが、口が「え」の形になっただけだ。

「だってすごくきれいな体してるんだもん。ずるい、なにそのくびれ………」

 彼女は私の腰のあたりを指さした。

「スタイルよすぎ。しかも体を全然隠さないんだもん。足細すぎ………」

「ちょっとどういうこと? 褒めてんの?」

「褒めてるけど、正確には告白してる………。きれいな体。すいつきたい………」

 ストレートな言い方をすると、どうやら彼女は脱衣所で私の体をみて欲情したらしい。だから電流がお湯に感電してしまったみたい。私は、なにそれって思った。

「なにそれ」

「すごい好き………。抱きついていい?」

「だめ。私が感電しちゃうでしょ」

 そういって私は彼女に抱きついてあげた。「はう」と彼女は情けない声をだす。

「ちょっと、電気流さないなら、こうやってぎゅっとしてあげるから──いたっ」

 電気が私の体を駆け巡る。

「ごめん!」

「大丈夫」私は彼女を抱きつづける。

「電気が私に流れこんでくる。なんか気持ちいい。心が通じ合ったみたい………」

 私たちは少しの間、こうやって抱擁をしていた。すると、後ろの方から

「あー、女の子同士でいちゃついているー! えっちなのー」と誰かの声がした。


 修学旅行は無事に終わった。私たちは新しい関係になりはしなかったけど、さらに一緒に遊ぶようになった。ほんと彼女は刺激的で、電気質なのだ。

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22作品目「あの子はでんき質」 連坂唯音 @renzaka2023yuine

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