第4章 四つの力が一つの欠片に集まって

第15話 脳内データが変な風に情報処理されてしまう!!


 花火大会を無事に終えた次の日、僕は真っ昼間から賢司けんじを呼び寄せ、自宅のリビングにある木の横長のテーブルに向かい合わせとなり、二週間後の期末試験への勉強対策をしていた。


 今日は日曜日で戦士の休日だし、おまけに外は良い天気。

 陰キャにとって、絶好の勉強日和だね。


志貴野しきのさあ、それで四姉妹の誰かを選んでラブラブ的な花火デートは出来たのか?」

「いや、別に普通だよ。気長に屋台回って、四人の姉妹たちと一緒に花火を見たよ」

「あのなあ、天体観測じゃねーんだから、一緒に見たよーじゃないって」


 賢司が真顔になって僕に細くて長い指を突き立てる。 

 いつも冗談と商談? で場を和ますこの親友がこんなにも真剣なのはどうしてかな。


 姉妹と言えど、普通に女子と会話が出来るようになっただけでも奇跡だし……。


「何だよ、そんなに真っ赤な顔してまくし立てて。ヤベエプロテインでも飲んだの?」

「いや、普通はプロテインにそんなの入ってないぜ」


 世間の女の子からキャーキャー騒がれ、細マッチョというナイススタイルな持ち主、しかもイケメン。

 筋肉の重要な栄養素となる美味しくないプロテインを愛用し、日頃から筋トレに励む筋肉オタクな賢司に素朴な疑問をぶつけてみた。


 確かに楽しく鍛えて肉体改造なプロテインにそんなものが含まれていれば、地球上の筋肉ムキムキ集団はドーピング検査で引っかかり、オリンピック競技に出るのも厳しくなるだろうね。


「あのさ、俺とオリンピック関係なくね?」

「今年から全員参加になったんだよ」

「おいおい、お前さんの頭の中、大丈夫か。ここの学園の体育祭は秋だぜ」


 僕の下らないひとりごとからオリンピック関連の話となり、バトンリレーみたく体育祭の話題へと持っていく巧みさ。

 賢司はイケてる見た目だけじゃなく、会話を繋げるのも上手かった。

 これで何で意中の人が見つからないのだろう。


「そんな色恋の話もいいけどな、問題はこっちだぜ」


 わざとらしく恋愛の話題をかわす親友。

 人は誰しも知られたくない内容を一つくらいは秘めているものだ。


「フッ、コツコツとやることをあえてせずに実戦で天才肌を魅せる男、ここに見参!!」

「はいはい。ミリタリーごっこな自慢話は分かったから、ちゃんと勉強くらいやろうよ」


 自称天才肌な賢司に英単語帳を手渡し、的確なアドバイスをする。

 こんな僕らはではなく、現在進行形で表せることか。


「……ねえ、志貴野くん。こっちも一緒に勉強してるんだから少しは気にかけてよ。頭がパンクしそうだよ」

秋星あきほ、だったらいっその所、パンクしてみたらどう?」

「秋星お姉、どかーん!!」


 今日は徹夜で挑む覚悟で熱心に勉強をしている三重咲みえさき姉妹。

 まだ期間はあるのに真面目に取り組む姉妹の姿に思わず心を打たれそうになる。


 僕の見た限り、うーんと思い悩んでいる秋星は問題集を読みながらも、的確に問題が解けそうにないようだ。


 そこで美冬みふゆのキツイお言葉や、夏希なつきの回し蹴りが、秋星の枕代わりな豚のぬいぐるみに当たりそうで当たらないんだよねー。


「あー、酷いなあ。美冬、自分は勉強出来るからって出しゃばってさあ」

「あのねえ、ここの問題は基礎中の基礎よ。出来ない方がヤバいでしょ」

「あー、美冬がいじめてくるよ。助けてハルー!!」


 秋星の心からの叫びに横隣の春子はるこが穏やかな微笑みを向ける。

 姉妹では一番年下だけど、これが母性本能と言うものなのかな。


「大丈夫。ハルは秋星お姉ちゃんの味方だよ」


 四姉妹の間でもハルは誰に対しても壁を作らず、偏見さえも持たない。 

 これじゃあ、どっちが長女かも分からないよ。


「どかーん、アフロ秋星お姉、二連発!!」

「さっきから夏希は何なんだ。どっち側の味方だよ?」

「うーん、中東アジアンが石油を掘り当てて、貿易商をやるようになってからかな」

「……いつもアホだけど、無駄な知識だけはあるよね」

「てやぁー、文武両道」

「だからって、家の中で暴れないでよ」


 彼女の暴動を抑えながらも、豊富な頭脳を持った夏希ロイド相手に僕は止めるのに必死だった。

 どんな男勝りな態度でも、女の子には迂闊うかつに手は出せないから、口頭でしか注意できないけどね。


「シキノン、油断するな。強盗とは生き物である」

「いいから勉強中は黙ってて。気が散るから」

「ほおほお。気を散らすかあ。今晩は寿司だね、ハル」

「はいはーい。今日の夜ご飯はハルが腕に寄りをかけて作りまーす♪ 勿論もちろん、お兄ちゃんの分もあるからねー♪」


 そりゃごもっともだけど、一応、僕の姉妹だからね。

 この広い食卓に料理が苦手だからって菓子パンや惣菜パンをテーブルに並べたくもないし……どこの売り場のパン屋さんだよ。


「……なあ、志貴野。ちょっといいか」

「何だい、こんな場所で?」


 そこで親友が僕の耳元に小声で話しかける。

 野郎の吐息と理解してもくすぐったいキモい感覚。


「……お前、俺がいない間に美人姉妹とどんだけ親密になってんだよ」

「鬼の目にも血の涙か」

「泣いてねーし、悔しくもねーし、血も流してねーし。ちょいと嫉妬はしたけどな」

「そんなことより勉強しようよ。赤点取ったらマズイでしょ」

「何だよ、色々マズイことって?」


 赤点だったら親と離れて暮らせないと知ったら、ものの勢いで『俺の家に住まないか』とか鼻息を荒くしながら言いそうだし。

 賢司とは山手線ゲームのように、適当に話を繋げようか。


「あっ、いや、ゆで卵は栄養素が豊富だけど食べ過ぎたらねー、体にマズイからねー」

「ふーん……」


 即席のゆで卵トークに微妙な反応をしてる賢司。

 ヤベエ、会話のレパートリーが単純過ぎたか。


「ねえ、志貴野くん、平安時代って平安幕府を足利あしかが氏が倒壊させて、鎌倉時代が来たんだよね?」

「あのねえ、平安幕府とかないから。武士が政権を握るようになってから幕府ができるんだよ……」


 それに室町時代とごっちゃ混ぜになってて、このままでは、秋星の脳内データが変な風に情報処理されてしまうよ!!


「へえ、陰キャガリ勉オタク、編入試験を通過しただけあって、ちょっとは冴えてんじゃん」

「このくらい小学生でも理解できるよ」

「ううっ、志貴野くんが遠回しに私が馬鹿だって……」


 ヤベエ、小学生は禁句だったかな。

 秋星が俯いて大粒の涙をポロポロと溢す。


「ヘっ?」

「あー、お兄ちゃんが秋星お姉ちゃんを泣かせたー!!」

「秋星お姉、見事に沈没……」

「アンタ、この罪は重いわよ。この世に法律があっても死刑確定ね」


 だから正論を述べただけなのに、何でそうなるんだよー!?

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