03 竜脳の青年
軌道上の
しかし、ちょうど人が空いている時間帯だったらしく、格納庫へ向かうミコトを呼び止める者はいなかった。
格納庫内は、清掃のため出入りが許されている。
ちょうどいいから掃除もしようと、ミコトはモップを手に格納庫に入った。いつも通り点検しながら、昼間に領主が立っていたあたりまで歩く。
すると、透明な
「
盗まれたらどうするんだろう、とミコトは他人事ながら呆れた。
もっとも、
この竜脳はどんな姿をしているのだろうと、ひょいと氷の棺をのぞきこむ。
「人型か……こいつはマジで、
人間の姿の端末を持つのは、四つ星以上の竜船だ。
棺の中の眠り姫……いや、眠り王子か。
竜脳は寝ていても付近の情報を収集し、知的生命体の知識にアクセスしている。
「覆いをとって船の全体を見たいけど、まあ、それはさすがに清掃の範囲を超えてるよな」
棺から視線を外し、黒い覆いを見上げる。
砂漠から牽引してきたためか、覆いの上から鋼鉄製のロープがぐるぐる巻きついている。
その時、ぴしりと小さな音がした。
ミコトは驚いて、棺に視線を戻す。
途端に、注目を浴びるのを待っていたかのように、透明な棺は硝子の破砕音と共に砕け散った。
「え?!」
目を丸くするミコトの前で、棺の中から青年が上体を起こす。
ありえない。
こちらから何のアクションもないのに、勝手に竜脳が動くなど。
それとも、
青年が完全に立ち上がるとともに、棺の破片は床に溶けるように消える。綺麗さっぱり、そこに氷の棺などなかったかのように。
竜脳の青年は、まっすぐミコトを見る。立ち上がると、青年は案外背が高く、ミコトと同程度ある。それに、若いようにも老成しているようにも見える、不思議な佇まいだ。
その瞳は蒼天のように眩しい青色だった。
「はじめまして、竜騎士くん。君の名前は?」
「……ミコト。あいにくだが、竜騎士は廃業中でな。他をあたってくれ」
ミコトは警戒し、身構えた。
竜船の振りをしている、
「ううむ、開口一番、断られるとは。私は渡りに船ではなかったかな」
「いきなり、怪しすぎるんだよ」
「そうか。万象を見通しているというのも、不便なものだ」
竜脳の青年は、目頭に指をあて、困ったように頭を振る。
動作にあわせ、白銀の髪がさらさら舞う。女子が好きそうな姿をしやがってと、ミコトは勝手に腹を立てた。
「元どおり
「そう、つれなくしないでくれ。私は君に会いたくて出てきたのだから」
青年は、白皙の美貌に、謎めいた笑みを浮かべた。
「私の名前は、アルブム。君達、人類の言うところの
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