45.知らない人はちょっと怖い
お店で、メリクは細長いお菓子を買った。僕に差し出すから受け取る。くるくる巻いた中に、白いふわふわと赤いジュースが掛かってる。
クレープというの。お店の人が教えてくれた。白いのはクリームで、巻いたくるくるは生地、赤いジュースみたいのは苺のジャムだって。
「ありがとう」
「俺も違う味のを頼むから、交換して半分ずつ食べようか」
メリクは白いクリームに黒い何かが掛かっていた。これはチョコと呼ぶんだ。手を繋いで近くの椅子に座る。長い椅子は誰が座ってもいいみたい。
「誰のいす?」
「街の人達の椅子だ。外からきた人も使っていい。ベンチと呼ぶんだ」
ベンチ……僕が座っても誰も怒らないのが不思議。隣に座ったメリクがパクパクと食べる姿を見て、真似して齧る。上から食べると赤い苺のところが、すごく甘くて美味しかった。白いふわふわのクリームも、美味しい。中もジャムが入ってる。
「よし、交代だ」
今度は黒いチョコが乗ったのを食べた。中に柔らかい食べ物が入ってる。首を傾げて指で突いたら、バナナなんだよ。僕、バナナって初めて食べた。
あとで皮のついたバナナを見に行く約束をして、全部食べ終えた。お腹がいっぱい。甘いのを食べると、手がベタベタする。広場の隅にある水を使って手を洗い、よく拭いてからにゃーを振り返った。
「にゃーのは?」
「にゃーは猫だから、甘いのは食べないな。焼いた魚を買ってやろう」
「うん、僕えらぶ」
いっぱい言葉を覚えたら、たくさん伝えることが出来る。それが嬉しいんだ。メリクは嫌な顔しないで僕に教えてくれるし、変な顔で間違ってると笑わない。だから話すのが怖くない。
手を繋いで次のお店に行ったけど、魚を焼いているのが見えなかった。メリクに両手を広げて待つ。これは抱っこの合図で、いつも叶えてくれる。
「よし、おいで」
抱っこされて、ようやくお魚が見えた。前ににゃーが食べていたのは、あの白いお魚だった。いい匂いがする。
「これ」
「分かった。親父さん、これを包んでくれ。四匹だ」
いっぱい買ったけど、ベンチでにゃーが食べたのは一匹だった。首を傾げて指で数えていたら、僕の指を一つずつ倒すメリクの声が重なる。
「まずにゃーだろ? 帰った後の夕食用にイルの分、俺の分、帰りに乗せてくれる虎の分だ」
「また、虎いるの?」
乗っけて帰ってくれるんだ。嬉しくなった声を上げると、頭を優しく撫でられた。
「こっそり影で荷物をしまったら、リボンを買いに行くぞ」
お魚を黒い穴にしまって、僕はメリクと手を繋いで歩いた。大きなお店の前を一つ、もう一つ。次のお店に入った。
「あら、可愛いお客様だこと。何をお探しですか?」
恥ずかしくなってメリクの足に隠れる。ちらっと顔を出したら、しゃがんだ女の人がいた。きらきらした飾りがついてて、ふわっといい匂いがする。
「リボンを見繕ってくれ。普段使いから特別なものまで」
メリクがズボンのポケットから金属のお金を出すと、お姉さんは僕に笑いかけた。
「こんな可愛い子なら、何色でも似合うわね。こちらにいらっしゃい」
手招きしてるのは分かるけど、ちょっと怖い。お屋敷の奥様に似てるから。動けずにいる僕をメリクが抱っこして、ようやくお店の椅子に座った。
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