44.同じ黒の髪の人がいっぱい
虎と移動したら、熊より速かった。でも熊より休憩がいっぱい。速いけど疲れちゃうのかな。水を飲む虎の背中を撫でた。気持ち良かったみたいで、ごろんと寝転がる。
その上に抱きついたら、ふわふわしている。両手を広げて撫でる僕を、大きな前足が抱っこした。温かくて眠くなりそう。
「少し休憩を伸ばすから、寝ていいぞ」
メリクの声に頷いて、僕は大きく息を吐き出した。目の蓋が落ちてきて、ぺたんとくっ付く。風がそよそよと吹いて、葉っぱがざわっと音を立てる。気持ちいいな。
少ししたら、ぱちりと目が覚めた。僕が起き上がると、メリクが手を伸ばす。抱っこしてもらい、起きた虎の上に乗せてもらった。
「出かけるぞ」
隣を大きなにゃーが走る。虎も勢いよく駆け出した。さっきより速いみたい。森の中はきらきらした光が溢れていた。木漏れ日と呼ぶの。メリクと話していたら、虎がゆっくり歩き出した。
また休憩なのかも、と思ったら……崖の上だった。その下に家がたくさんある。虎から降りて覗いた僕を、後ろからにゃーが引っ張った。
「うん、後ろいく」
落ちないか、心配してくれたの。すごく高くて、僕が数えられないくらい並んでも届かない。だから落ちたら登れないよね。吸い込まれそうだから、這って後ろへ戻った。
「イルは賢い。いい子だ」
上手に下がれたと褒められる。なんだか嬉しい。胸がじわじわして、痒い感じだった。
「虎はここでお別れになる。手を振って挨拶しようか」
「うん、ありがとう。またね」
虎はちらちらと振り返りながら、森の中へ帰っていった。あの森に住んでるみたい。また会えるといいな。街へ降りるのは、メリクがしてくれた。僕を抱っこして、いきなり飛んだの。鳥の羽もないのに、ゆっくり降りたんだよ。にゃーも真似していた。
「これは内緒だ、しぃ」
指を一本立てて口に当てる。それからしぃと声に出した。この仕草は知ってる。秘密の時に使うの。内緒も秘密と同じなんだね。僕、ちゃんと内緒にできるよ。
振り返って上を見れば、さっきまで僕達がいた崖がある。お日様に届くくらい高く見えた。帰りは登るの大変そう。メリクに抱っこされ、僕はスカートの裾を直した。
女の子だから、スカートの中を見せたらいけない。今日は赤い服で、お膝まであるの。靴も同じ赤だった。
「髪がもう少し伸びたら、リボンも付けよう。きっと似合うぞ。そうだ、街でリボンを買おうか」
リボンは髪に結ぶ紐みたい。説明されたリボンは、僕が知らない紐だった。首を傾げる僕に、街へ入ったメリクが指差す。
「ほら、あれがリボンだ」
女の人の髪の毛に、ピンク色の太い紐があった。なんで髪の毛に付けるんだろう。不思議だけど、そこで気づいた。
「あの人、黒い髪」
僕達と同じ色だ。大きいにゃーが隣で「にゃん」と鳴いた。そうだよって言われた気がする。メリクも頷くから、嬉しくなった。
右を歩いている人も、左で立ち止まった人も、皆が黒い髪をしている。本当に黒い髪の人がいっぱいの場所があった。僕は自分の髪を手で触り、にっこり笑う。
「これ、へんな色、違う」
汚くて変な色、お屋敷の男の子がよく口にしたけど、僕の色は変じゃない。いっぱいいる。仲間がいるんだよ。
「そうだな。俺も同じ色だ」
メリクと同じで、この街の人と同じ。良かった。メリクはいい匂いがするお店の方へ歩き出した。
***********************
本日公開の新作です。
【もふもふに愛玩される世界があってもいい】
獣人ばかりの世界で、ひ弱な人は愛玩動物でした_( _*´ ꒳ `*)_
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます