43.綺麗な金色のお守りをもらった
種を蒔いた土に、お水をかけるの。雨が降らなければ、毎日あげてもいいんだって。僕が喉乾くのと同じなのかな。
メリクのくれた変な器は、水差しという。これを傾けるとお水が出て、平らに持つと止まった。足さないのにお水が出るの、不思議だね。
一つずつお水をあげて、水差しを玄関の横にある箱に入れた。ここは水差し用のお家、時々精霊も入り込んでる。木の箱は蓋がなくて、今は水差ししか入っていないけど、いずれは傘やスコップもしまうんだよ。
「お疲れさん、イルは偉いな」
「えらい?」
「そう。きちんと忘れずに水をやっただろう? 大人でも忘れる人がいるからな。すごく偉いし、頑張ってる」
前は何をしても怒られて、しなくても殴られた。今はお手伝いができて、ダメになっても許してもらえる。楽しいな。
僕が昔を思い出すと、メリクが悲しそうな顔をする。だから思い出すのを減らすことにした。僕はメリクに笑っててほしいから。
「さて、黒い髪の人を探しに行こうか」
「お出かけ? でも……」
種に誰がお水をあげるのかな。芽が出る前に枯れちゃうかも。外へ目を向ける僕を抱っこしたメリクが、空を指差した。
「ほら、見てごらん。あの山の上に黒い雲があるだろう? 明日は雨が降る。だから出かけても平気だ」
「あしたの雨、すごい」
明日の雨が分かるなんて、凄い。僕も覚えておこう。一番低い木の向こうに見える山に、黒い雲が出たら雨。風景ごと覚えた。次は僕が見つけて教えたいな。
「イル、これを付けてごらん」
「うわぁ」
綺麗な石をキラキラする金属が囲んでる。綺麗だな。この綺麗な石は金色? 金属が金色だけど、似てるのに色が違う。
「こっちはシトリンという宝石だ。金に似ているが、透き通っている。それに少しだけオレンジだな」
「うん。これをつけるの?」
「ああ、身に付けてくれ。お守りと言って、イルを助ける手助けになる」
金属の紐が付いたシトリンを、僕の首にかけた。しゃらんといい音がする。
「これは精霊と同じで、よその人に見えない。だから安心していいぞ」
取られないよう服の中に入れようとしたら、メリクが見えないと教えてくれた。僕とメリク、にゃーは見える。あと精霊も見えているんだって。家族だけ見えるのかも。
「こないだみたいに知らない人が抱っこしたり、袋に入れられたり、怖かったらすぐに呼んでくれ。この石を握って呼ぶんだ」
「うん」
メリクって呼ぶんだよね。心で問いかけると、よく出来たと頭を撫でられた。今日は明日のために早く休んで、朝からお出かけする。雨が降る前に森を出るんだ。
一緒にご飯を食べてお風呂して、大きなにゃーとメリクに挟まれてベッドで眠る。温かくて嬉しくて、わくわくした。明日、どんな場所に行くんだろう。黒い髪の人は僕を嫌ったりしないといいな。それから……種のために雨が降りますように。
いっぱいお願いをしながら目を閉じて、朝は大急ぎで準備をした。
「さあ、行こう」
メリクが赤い扉を開くと、そこには初めて見る動物がいた。根っこが生えてないから、動物だよね。にゃーに似てる。大きくて黒と黄色の模様があるの。
「この虎に移動を頼もう」
「とら……」
僕はお座りした虎に近づいて、そっと撫でてみた。柔らかい毛皮はにゃーに似ている。
「ありがとう」
来てくれてありがとう、それとお願いします。
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