27.僕だけ捕まったみたい
お金を払うメリクが、ほんの少しの間だけ僕を下ろした。その途端、後ろから引っ張られる。びっくりして声も出ないまま、袋に入れられてしまった。
すっぽり僕が入っちゃうくらい大きな袋は、揺れながら動いている。
「メリク、にゃー」
こんなの知らない。まだ痛くないけど、大丈夫かな。何が起きているんだろう。お部屋にいるにゃーを抱き上げるみたいに、自分を抱っこしてみた。少しだけ怖いのが薄れる。
ゆらゆら、ぐらぐら。袋は揺れ続けて、いきなり落とされた。見えない状況で背中をぶつけて、うっと苦しくなる。怖い、痛い、誰か僕を助けて!
「止まれ」
低い響きだけど、これはメリクの声だ! うるせぇだとか騒ぐ声が聞こえて、変な音がたくさんした。怖い、ぶつかった背中が痛い。また殴られるの? 蹴られるかも。ぐっとお腹を抱えて丸まった。
ぽんと背中に触れた何かに、びくりと揺れる。と、光が入ってきた。恐る恐る顔を向けたら、泣きそうなメリクがいた。
「メリクっ」
鼻を啜った僕の、目から溢れた水が顔を濡らす。メリクはすぐに袋から僕を出してくれた。いつものように両手を伸ばす。一瞬だけ目を見開いたメリクは、すぐに抱っこしてくれた。
メリクの後ろに何か転がってる。これ、何だろう。人が寝てるの? 動かない人を放って、メリクは歩いていく。どんどん遠ざかった。
「遅くなってごめんな。イル、慣れない世界で手間取った」
次はこんな目に遭わせないと言い切って、メリクは濡れた僕の顔に頬をくっつけた。
「ああ、こんなに泣いて。涙を拭いてやろう」
痛かったり寂しかったりすると出てくる水は、涙というんだね。鼻もしっかり拭いてもらった。袋から出た景色は森みたいで、もう夜になっている。暗い道を、メリクは迷いなく歩いた。
「にゃーは?」
「宿の部屋にいる。もうすぐ着くぞ」
それならいいかな。メリクは嘘を言わない。僕に酷いこともしないから、眠ってもいい? もう我慢できないの。
「いい子だ。寝て起きたらいつも通りだよ」
ぽんぽんと背中を叩かれると、目が閉じていく。気持ちいいな。さっき痛かった部分も、もう平気になっていた。メリクが抱っこしたら、痛いのが消えたよ。だいすき。
「ありがとうな、イル」
なぜかお礼を言われて、僕も何か言わなくちゃと思いながら、眠ってしまった。ちゃんとありがとう、言えたかなぁ。
柔らかなベッドで、にゃーを抱っこして、僕はメリクに抱っこされて目が覚めた。もうお外は明るいけど、メリクはまだ起きないみたい。もう一度目を閉じたら、気持ちよくて欠伸をした。
昨日の怖くて痛いのは、夢だったのかな。もうメリクから離れないよう、ちゃんと手を繋ごう。メリクにお願いしなくちゃ。
いろいろ考えながら、僕はにゃーの柔らかな毛皮に頬を寄せた。
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