26.幸せはごろごろ、どきどき
「あーん、だ」
いつもと違う色のお魚を口に入れる。白くて透き通ってるの。こないだジュースで覚えたから、色がいっぱいわかるようになった。少し赤い色も付いてるお魚を、お野菜と一緒に食べる。
んっ、口の中でぷるんと動くよ。生きてるのか心配になって出したけど、動かなかった。もう一度口に入れて、しっかり噛む。下で同じお魚を食べるにゃーから、ごろごろと音が出た。
時々聞こえるよ。一緒に寝てる時とか、ご飯を食べた時。あとは撫でた時も。にゃーの気持ちが溢れちゃうんだと思う。美味しくて気持ちよくて嬉しいと、僕も声が出ちゃうもん。
今日はオレンジのジュースだよ。酸っぱいけど甘いの。いつまでも嗅いでられる匂いで、僕はこの匂いが大好きになった。かんきつ? とか難しい種類なんだ。
両手でコップを飲んで、ゆっくり飲む。一度に飲むと無くなっちゃうから。
「なくなったら、また入れてやるぞ」
メリクはそう言って笑うけど、ジュースはお金が必要なの。受け取る時に金属ので払ってた。宿も同じだよ。だけど受け取ったところは一回しか見てない。減ったら、ご飯もお部屋も無くなるよね。
「頭がいいな。でも心配しなくても、たくさんある」
メリクはそう言って、さっきジュースを取り出した黒い穴を見せてくれた。買ったジュースも、僕の服や靴も入ってるの。見えないけど、他にもメリクの服とか入ってると思う。だってメリクも毎日違う服に着替えるから。
「全部、お金もここに入ってる。俺はイルが大好きで、一緒にいたい。だから全部俺に任せてくれ」
「うん、にゃーもいっしょ、いいの?」
「もちろんだ、イルの願いなら何でも叶えてやる」
嬉しくなった僕に、今度は赤いお魚が「あーん」された。お返しに僕も赤いお魚を差し出す。スプーンは覚えたけど、載せるのが難しいの。手で摘んでいいとメリクは手本を見せてくれた。僕の口に入った赤いお魚は、メリクの手で食べたんだよ。
ぺろりと指まで舐めて、美味しいと笑う。僕が笑ってもメリクは怒らない。嫌そうな顔もしないで、一緒に笑ってくれる。それが嬉しかった。いつも僕が笑うと逃げたり、叩いたりされたから。
赤いお魚を指で摘む。ぽたぽたと垂れちゃうから、口を開けているメリクに急いで運んだ。ぺろぺろと手を舐められて、むずむずする。にゃーが舐めたときと似てるけど、違うね。
「うにゃー!」
なぜか突然にゃーが鳴いて、見たらお皿が空になってた。全部食べたの?
「邪魔するな」
ぶつぶつ文句を言ったメリクが、にゃーの前に新しいご飯を置いてくれた。でも食べないで、メリクを睨んでる。
「にゃー、メリクとなかよし、して」
うにゃん、変な声をあげたにゃーは、しょんぼりと耳を垂らした。怒ったんじゃないよ。ずるりと椅子から降りて、にゃーと同じ高さに座った。手を伸ばして撫でる。ごろごろと音が出た。
「猫被りめ」
ぼそっとメリクが何か言ったけど、僕は意味がわからなくて首を傾けた。何でもないって笑うから、そうなのかな? と両手を伸ばす。抱っこされて、またお膝の上。
楽しくて嬉しくて、全部がキラキラして見える。その気持ちを幸せと呼ぶ。教えてもらった幸せをいっぱい胸に広げて、僕は目を閉じた。温かいお風呂も、一緒のベッドも好き。
にゃーのごろごろが聞こえてきて、メリクもドキドキと音がする。僕も何か音がするのかな。
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