17.荷物があると抱っこができない

 朝のご飯と一緒に、たくさんの服と靴が届いた。お部屋が広いからいいけど、後でどうやって運ぶんだろう。


 メリクはピンク色の服を僕に被せた。やっぱり両手を上に上げてすぽんと着られるの。お腹の上辺りで、黄色い紐を結んだ。太くて幅があって、結んでも痛くない。


「うん、すごく可愛いぞ。イル」


 昨日もお風呂のお鍋……じゃなくて風呂桶で洗ったから、僕はいい匂いがしている。綺麗に洗ったら、可愛いのかも。


「ちょっと違うな。綺麗に洗っても可愛くない人もいるんだ」


 そうなの? なんだか難しい話なんだね。話さなくても通じてる気がする。メリクがそれだけ凄い人なんだと思う。ご飯を食べて、にゃーを撫でて、今日はお外へ出かけないみたい。


「おいで、イル」


「うん」


 走っていって、メリクに抱っこされる。窓の外を見せてもらった。びっくりするくらい高い。お屋敷の一番上の屋根から、下を見てる感じ。歩いてる人が小さくて、あちこちへ移動した。


「うわぁ……」


「ここは屋敷から遠い。誰かに見つかって叩かれることはないんだよ。嫌なことがあったら、必ず俺を呼ぶんだ。いいね?」


「うん、わかった」


 屋敷はなくて、叩かれない。だけど怖かったらメリクを呼ぶ。ちゃんと覚えておく。頷いた僕をたくさん撫でてくれた。


 少しするとメリクが部屋のお片付けを始めた。届いた服や靴がいっぱいだから、座るところが残ってないの。ベッドの上にも広がってるんだよ。


「これは内緒、秘密だぞ」


 内緒は知らないけど、秘密は聞いたことある。教えちゃいけないの。


 メリクの手がひらひら動いたら、そこに穴が空いた。大きくて僕が落ちちゃいそうな穴だよ。服も靴も全部、その中へ捨て始めた。


「すてちゃうの?」


「捨てないさ。でも持って歩くのは大変だろう? 昨日もそうだが、両手に荷物があると抱っこできない」


 メリクの腕を見て、うんうんと頷いた。昨日も服がいっぱいになったら、僕を抱っこしなかった。メリクの手は、こっちとそっちしかない。だからこっちに服を持って、そっちに靴を持ったらいっぱいだった。


 僕をこっちとそっちの両方の腕で抱っこするには、荷物はない方がいいんだね。穴に放り込まれた服や靴は見えなくて、真っ暗に見えた。


「よし、今夜は外で食べよう」


「うん?」


 外で食べるの? 何か捕まえるのかな。首を傾げる僕を抱っこするメリクが頬を擦り寄せた。嬉しくて僕もお返ししたけど、見回す部屋の中に荷物はなかった。全部穴へしまったみたい。


「イルはもっと肉をつけないと」


 お肉をつける? 僕の腕は細くて小さい。メリクは僕を抱っこしても平気なくらい、大きくて太い。お肉を上に乗せたら、メリクみたいになるのかも。


 期待を込めて見上げたら、メリクは笑いながら首を横に振った。


「可愛い考えだが、お肉は食べるんだ。俺もたくさん食べたから、こうしてイルを抱っこできる。大きくなろうな?」


「うん、メリク」


 大きくなったら、メリクもにゃーも僕が抱っこしてあげるね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る