18.スプーンを覚えたよ
お外で食べると聞いて、何かを捕まえるのかと思った。にゃーは狩りが上手で、よく高いところの果物を持ってくる。それ以外にも捕まえた動物を貰ったことがあった。食べ方が分からなくて困っていたら、もう捕まえて来なかったけど。
パンは動かなくて、死んでると思って埋めようとしたんだ。にゃーが食べてみせたから、食べ物だと思って齧った。あれは柔らかくて好き。
「ご飯を作る、専門の店があるんだ」
僕が首を傾げたら、メリクはきちんと話してくれた。いつもそう、まるで僕が考えてることが伝わるみたいだ。それが嬉しいと思う。話さなくても伝わるなら、間違いが減るでしょう? 僕は言葉をあまりたくさん知らないから、間違えて使ったら困るもん。
「いい子だ。イル」
笑うメリクが嬉しくて僕も笑う。にゃーはベッドが空いたら上で眠ってしまった。ご飯だよと呼んでも起きなくて、そのまま置いて出掛ける。これがお留守番、だよね?
「にゃーのごはん、ない?」
「いや。買って帰ろう」
にゃーのご飯は買って帰る。僕とメリクはお外で食べるんだね。僕を抱っこしたメリクは、明るくて騒がしいお店を選んだ。奥の席に座ってメリクが話すのを見ている。僕の知らない名前をいっぱい並べて、注文をしたんだって。
ご飯が届くまで、僕はメリクのお膝できょろきょろしていた。ご飯を食べるお店は、いっぱい人が入ってる。飲み物や食べ物がたくさん並んだ机で、皆が騒がしく食べていた。
にゃーは静かだし、大きな音を立てると叩かれるから。僕もいつも静かにしていた。メリクはご飯の時も僕に話をする。ここは食べてる時に声を出しても叩かれないみたいだ。
「お待たせ」
お店の人がご飯を運んできた。大きな体の女の人は、いくつもお皿を持ってきたよ。凄いなぁ。目の前に並んだお皿は、いい匂いがして湯気が出ている。きっと熱いご飯だね。
「ありがと」
小さな声でお礼を言うと、笑ってくれた。
「随分可愛い子だね。気をつけなよ」
「ああ、分かってる。助かった、ありがとうな」
メリクもお礼を言ってる。熱いご飯を別のお皿に移して、近くまで運ばれてきた。それを覗いていると、メリクは木で出来た棒を僕に持たせる。先っぽが丸くて、くるんとしてるんだよ。
「真似してみろ、こうだ」
メリクは先の丸い木の棒をご飯に刺した。持ち上げると、ご飯が付いてる。それを口へ運んでぱくり。あれはあーんと同じだ。
「出来そうか?」
「うん」
手に握った棒をスープの中に刺す。それから持ち上げて……あれ? 僕の棒にはご飯が付かない。首を傾げたら、メリクの手が僕の手を上から握った。棒を掴んだ僕の手を、メリクが動かす。
刺すところまで同じだけど、持ち上げるときに少し横に向けた。ご飯が付いてる! 嬉しくなって振り返ったら、頭を撫でられた。
「あーん」
口に運んでぱくり。湯気がちょっとのスープは痛くない。いろんな味がした。
「これはスプーンだ。便利だろ」
便利は知らないけど、スプーンは覚える。先の丸い棒がスプーンで、刺したら斜めに持ち上げるの。口に入れたスープで、すごく嬉しくなった。もう一度刺して、ゆっくり持ち上げて……振り返る。
「あーん」
驚いた顔をしたメリクだけど、すぐに食べてくれた。いっぱい頬をくっつけて撫でて、メリクは優しく笑う。それが嬉しい僕は、またスプーンをスープへ刺した。
「俺が食べさせてやろう」
メリクも自分のスプーンでご飯を僕に運ぶ。僕はメリクに運ぶんだ。交互に食べていたら、知らない人が近づいてきた。
「随分、可愛い子を連れてるなぁ。あんたの子かい?」
大きな体の男の人は、がばっと太い腕を僕へ伸ばした。
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