16.お鍋じゃなくて風呂桶?
お風呂というお鍋は気持ちよくて、いい匂いになる。ぶわっとした泡をいっぱいつけて擦ってから、たっぷりのお湯で煮るの。泡がいい匂いだから、僕もいい匂いなのかも。くんくんと匂いを確認していたら、笑ったメリクがタオルで拭いた。ふわふわで、柔らかくて気持ちいいんだ。このタオル好き。
「タオルより、俺を好きになれ」
くすくす笑いながらメリクが僕を抱っこする。今、声に出したっけ? 首を傾げたら、足下のにゃーが見えた。メリクの隣を歩いて来る。尻尾がゆらゆらと左右に動いていた。
「にゃー、煮る?」
「いや、煮ない……なるほど、そう捉えていたから変な顔をしたんだな。うーん」
僕の顔を見ながら、メリクは唸って考えてしまった。お風呂のお鍋で煮たら、にゃーもいい匂いになると思う。でもにゃーはいつも嫌な臭いしなかった。じゃあ、煮なくてもいいのかな。
「いいか、イル。あれはお風呂で鍋じゃない」
こてりと首を傾ける。お風呂にあるお鍋だよね?
「お風呂で鍋は使わないんだ。そうだな……ご飯を作る時に使うのが鍋。お風呂にあるのは風呂桶だ」
「ふろ、おけ」
繰り返したら笑顔で「そうだ」とメリクが頷く。風呂桶は誰かを煮ないんだって。温かいお湯を入れて、体を温めたり洗ったりする場所みたい。煮たらどんどん熱くなると聞いて、びっくりした。お風呂は気持ちいいけど、うんと熱くならないからお鍋じゃない。
「ひとまず、それでいいか」
なぜかメリクは困ったような顔をした。それから僕の頬に頬をぺたりと付ける。僕よりちょっとだけ冷たいかも。じっとしていたら、頭を撫でてくれた。
「おいで」
両手を上にあげたら、すぽんと着られる服が僕を包む。この服、さらさらする。不思議な感じで、摘んだり捲ったらメリクに「ダメだよ」と止められた。
「女の子なんだから、人前でスカートを捲ったらダメ」
女の子はスカート、ダメ? 知っている単語だけ拾ったら、この服はダメになった。着替えるのかも。脱ごうとしたら、そうじゃないと言われた。よく分からない。
「ああっと。そうだな、誰かの前でこうしたらダメだ」
スカートの下の方を掴んで、ばさっとされた。これは誰かの前でしたらダメ。分かる! うん、頷いたら撫でられる。大きな手だけど痛くなくて、柔らかくないけど怖くない。
「じゃあ寝ようか」
僕を抱っこしたメリクがベッドに座る。ベッドは寝るところだと知ってるよ。前は小屋の隅っこの草だったけど。今はふかふかで柔らかいベッドなの。ちくちくしないんだよ。
白いベッドに僕を寝かせて、メリクも隣で横になった。横になったのに、僕を抱っこするみたいに包む腕が温かい。飛び乗ったにゃーが隙間に入ってきた。僕のお顔の横だよ。
「邪魔だ」
メリクが叱る声を出したら、にゃーは潜っていった。僕のお腹の辺りで、くるんと丸くなる。メリクから、気に入らないって聞こえた気がするけど? じっと見上げたら、そんなことないと言われた感じ。
声は聞こえないけど、そう思ってると分かる。僕のも伝わればいいな。
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