09.外へ出てみないか?

 朝と夜を三回くらい終えたら、メリクがお外へ出ようと言った。怖くなる。だって、僕は「みっともない子」だから、お外へ出たらダメなんだ。誰かに見つかったらひどい目に遭うと聞いたもん。


「いたい、やだ」


 きっと痛くて怖いんだ。そう思って泣いたら、僕が手を伸ばしてないのに抱っこされた。メリクの顔はとても綺麗、髪も姿も服も。すべてが綺麗だから外へ出ても平気だと思う。でも僕は汚いんだよ? みっともないと怒られちゃう。


「どうして嫌だ? 誰かに痛いことをされたのか」


 考えて首を横に振る。まだ外へ出たことがないから、痛いことはされてない。でも外へ出たら痛いことをされるの。どう話したら、メリクに分かるかな。悩んだ僕を見て、にゃーがいっぱい鳴いた。光もちかちかしてる。皆が話してくれたのかも。


 どきどきしながら待つ僕に、メリクは指を一本出して僕の指と絡めた。


「これは約束だ。絶対にイルへ痛いことをさせない。一緒に外へ出よう」


 絶対はよく分からない。でも痛いことがなくて、一緒なら平気かな。誰かが僕にひどいことをしようとしても、メリクは助けてくれる? それともメリクがいれば、痛いことされない? じっと見つめて今度は自分の手を眺めた。


 メリクは手も綺麗、絡めた指も綺麗。でも僕の指は短いし変な色した部分がある。大きさだってこんなに違うのに、僕を見た人が「嫌だ」って言わないかな。


「こうしよう。怖かったらすぐに戻ってくる。この部屋は安全だ、それは分かるだろう?」


 頷きながら、メリクを見上げた。どうして僕とお外へ行きたいの? 何かいいことあるみたいに言う。怖かったら戻れるんだもん。少しの間、我慢してみよう。


 にこにこしながら、僕を抱っこする。にゃーは近くまで来たけど、扉のところで止まった。


「メリク、にゃーは?」


「にゃーはお留守番……は分からないか。えっと、この部屋を守る仕事だ」


「ふーん」


 よく分からない。でもにゃーはこのお部屋に残る。僕とメリクだけお外へ行く。光は一緒でもいいみたい。ゆっくり瞬きしながら、僕の近くに寄ってきた。


 扉の外は細長い部屋で、これは廊下。お屋敷にもあった歩くだけのお部屋だよ。それから階段というガタガタの道を歩いて、外へ出た。窓の外と同じ明るくて光がいっぱい! 僕のお友達の光と同じくらい明るいけど、空に一個しか浮いていなかった。あの光、大きいんだな。


「直接目で見ると眩しいぞ」


 首を傾げた僕の前で、あちこちを指さした。


「これが屋台で食べ物を売ってる、こっちは靴だな。その向こうは服だ。いっぱいあるだろ」


 指さされた方向を見て、驚いた。ご飯がいっぱいだし、靴もすごくある。あのおじさんが全部履くのかな。足がいっぱいあるのかも。服も数えられないくらいたくさん! お母さんや男の子も毎日違う服を着ていたっけ。着る人より服の方が多くなるんだね。


 初めて見る物ばかりで、僕は首が痛くなるくらい右や左を眺めた。知らない物を指で差すと、その指を掴んだメリクが教えてくれる。広い道を歩いた先で、メリクは大きなお店に入った。

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