10.まずはイルの服を買おう
お日様色の粒をいくつか手の中で転がし、メリクはお店の人と交渉を始めた。内容は理解できないので、大人しく膝の上で待つ。この机の中、きらきらする輪や色のついた石が入ってる。これ、お母さんが着けてたのに似ていた。
お店の人が頷いて、金の粒と交換で色の違う金属をくれた。形も全然違うね。受け取ったメリクが僕を抱っこして歩き出す。お店の人が手を振ってくれたので、そっと……小さく振ってみた。笑ってもう一度手を振っている。僕は嬉しくなった。
「まずはイルの服を買おう」
「なんで?」
僕はもう服着ているよ。首を傾げた僕の頬を撫でたメリクは、うーんと声を上げた。困ってる時の声っぽい。変なこと聞いたのかな。
「今の服も悪くないが、もっと似合う可愛い服があるぞ」
「かわいいって、なぁに?」
「……そうだな。あの子を見てどう思う?」
「きれい」
僕が知ってるのは綺麗か、汚いか。メリクが尋ねた子は、赤い服を着ていた。茶色い毛はくるりと丸くなってて、お空の色の目が大きい。汚くないから、綺麗。
「綺麗と可愛いは同じ時に使う」
「じゃあ、メリクもかわいい?」
僕にとって綺麗な人はメリクだよ。だから同じように使えるなら、メリクは綺麗で可愛い。途端にメリクが「ちょっと違った、訂正する」と言い出した。訂正って何だろう。
「子どもとか女性……えっと女の人に可愛いを使う」
「メリクはだめ?」
「ちょっと違うかな」
メリクは可愛いが嫌みたい。汚くない子どもで女の人だから、さっきの赤い服の子は可愛い。いつも他の人が使った言葉や、光が教えてくれた言葉を使ってきた。これからはメリクも教えてくれるんだね。頷いたら、ほっとした顔になった。
「イルがもっと可愛くなるために、服を買おう」
「僕はかわいい、ちがう」
首を横に振ったら、怒ったような困ったような顔になってしまった。ごめんなさい、僕がいけないんだね。そのまま黙ったメリクが服の並んだ場所で足を止める。下ろされてしまい、怖くなって足にしがみ付いた。もう要らなくなったの?
「この子に似合う服を、これで買えるだけ揃えてくれ」
「承知いたしました」
お店の人は大喜びで服をいっぱい抱えてくる。大きさがどうとか話して、僕の背中に服を当てた。されるままになりながら、しがみ付いた足を離さないようにする。メリクはまた僕を抱っこする手を伸ばした。良かった。僕も両手を伸ばして抱っこしてもらう。
「これに着替えようか」
「うん」
怖いから言われた通りに頷いた。また下ろされて要らないになるのが怖い。お店の奥にある小さくて狭いお部屋で、両手を上げて今の服を脱いだ。すぐに新しい服を着る。前の服は土の色だったけど、今度はお空の色だ。キラキラした絵が入ってて、嬉しくなった。このキラキラ、メリクの目の色と同じだよ。
「これ、メリクとおなじ」
「ん? ああ、金色だな」
きんいろ……初めて聞いた。覚えておこう。頷いた僕は綺麗な服を着て、また抱っこされた。お店の人が「良くお似合いです、可愛いお子様ですね」と褒める。僕に言ったのかな?
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