第7話 スイカ割り

 さて、俺はナイフと鈍器、バリア破りを得たのでかなりの優勢になった。満を持してさいたま市へ足を踏み入れる。

 さっそく寄って来たチンピラが情報収集の第一号、兼、被験者。攻撃してくるからナイフを使い、頬の辺りを切らせて貰った。

(おーおー、ナイフが使えるじゃねーか)

 やはり柄のしっくり具合は伊達じゃなかったらしい。こうなったら背中の釘バットは単なるバックアップだ。

 俺は片っ端からチンピラを脅しまくって『あおいマンション』の経営者を探した。もちろん一味と思われるヤツは、情報を得たのちナイフで静かに殺していく。幾ら末端組織とはいえ、ひとり、またひとりと身内が消されていく恐怖を味わえアホンダラ。

 俺は脂で切れ味が悪くなったナイフを拭き、または交換しながら、そんな事を十数人分繰り返した。前回の俺の活躍を聞き、わざわざ挑戦してくる奴も居るから鬱陶しい。その間には、ピコピコという妙な音も聞こえてくる。どこかの幹部発見というやつだ。単にフラフラ出歩いている様子だったので逃がしても良かったが、巨悪の中間職くらいの人間だろうし、ついでに始末しておく。


 そうやって辿り着いたアジトでは、自動小銃で武装した男たちが待ち構えていた。その自動小銃は婆さんが手渡してきたのと少々違うバージョンなれど、基本は同じだ。

(へっ、あの婆さんがタダで寄越すようなモンを、後生大事に抱えてらぁ)

 とはいえ、自動小銃は自動小銃。たぶん一個のマガジンで三十発ほど飛んでくる。そうすると俺が無事では済まないし、全部避けても発砲音で俺の存在が早々にバレる。だがまぁアジトに踏み込んだ途端、バリアが破れてピコピコ言うから全くの隠密行動は無理だ。しかし銃声がしなければ、俺の現在地を少々カモフラージュする事は出来る。

 俺はアジトの外で警備している男にそっと近づき、ナイフで咽喉を掻き切った。お陰で一発も撃たせずに終わる。その死体から、AK-47もどきを入手させて貰った。

 ここから先は、バリアを破っては背後や頭上に忍び寄り、咽喉を頂くの繰り返し。ナイフでそこそこ敵方の始末が終わったところで、自動小銃の試し撃ちもしてみた。弾はきちんと出た上、相手にも当たってくれたから、めでたく『使える武器』の仲間入りだ。ただしこの銃は少々命中精度が低いので、弾数でカバーしなければ。


 バリアが破られたアジトはパニック状態だった。中には俺が居ないのに影か何かに怯えて銃を連発するヤツもおり、心の中でハハハと笑う。

 まぁその自動小銃で、ボスの取り巻きは一斉に処分させて貰った。普段バリアに守られてぬくぬくしており、幹部連中からは防弾チョッキを着ようなんていう発想すら失せている。この時代なら良い素材があるだろうに。まぁあったとしても、バリアが最強としたい商人は決して売るものか。ザマぁねぇなと思いつつ、自動小銃のマガジンを交換した。


 さて、残るはボスのみ。見た感じ普通そうなヤツだったので、人間とは判らないモンだ。俺はピコピコ音を立てながら、銃口をボスの額にくっ付けた。どんな命中精度でも、これなら絶対に当たってくれる。

「おい、『あおいマンション』みたいな子供、何人飼ってんだ?」

「あ、あ、アレは商売じゃなく、上から命令されて……仕方なく! 仕方なく一人だけ! もともと売春は俺の本業じゃないんだ!」

 俺は『上』という組織の名前を聞き出し、脳に刻む。それから銃口を当て直した。

「……お前さんの本業は何になる? あの子供にも射ってたクスリか?」

「そ、そうだ! 俺を解放するなら、今までの売り上げは全部アンタにやるよ……!」

「要らねぇ。むしろ、こっちから三十発くれてやる。子供へ薬を射ったお礼に、カミサマから喜びのヘッドショットってやつだ」

「おい、お前キリスト教の信者だろ? こんな事やっていいのかよ!?」

「じゃあそれらしく祈ってやるよ。In nomine Patris, et Filii, et Spiritus Sancti. Amen!」

 俺がぎゅっとトリガーを引けば、夏の海辺のスイカ割りという風情になった。

 さぁ、お次は『上』に取り掛かろう。


 その『上』は、本格的な売春組織だった。俺は売春させられている奴は被害者の可能性があったので殺さず、その売り上げをハネに来た奴から情報をぶん取り始末していく。そうすると刺客みたいなのが襲ってきたりするのだが、それも結局は俺の情報源だ。絞れるだけ絞ってから咽喉をすぱりと切る。


 辿り着いてみると『上』のボスは性格の悪そうな顔をしたババアだった。命乞いの時には雇われママの振りをしたが、周囲の警戒が半端じゃなかったのですぐに嘘だと判明。

 このボスがピコピコ音に失禁しながら述べたのは、下位組織に自動販売機か公衆便所感覚の売春ボックスを試作しろという命令をした――それのみだ。ただ、そこまで酷い状態で売春させているとは思わなかったと。その事に関しては、ここで飼っている売春婦が身奇麗だから納得できる。

「でもまぁ、説明不足と管理不行き届きって事だよなぁ~」

「ちょっと待ってよ! 私はそんな……!」

「あー、最後に質問。お前さんたちクズは、バリアの為に必死こいて稼いでんのか?」

「バリアは単なる防備に決まってるじゃない! この世界じゃ経費みたいなもんよ!」

「じゃあ売春経営の目的は、ふっつーに利益の追求ってやつなんだな」

「だから何だっての!?」

「返答によっちゃあ、武器屋の婆さんたちとその店も潰さなきゃだった。Amen」

 せっかく作った釘バットの出番も作りたかったので、俺は背中からソイツを取り出し振り下ろす。スイカ割り再びだ。

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