怪物

「あちゃ~バレちゃった」


闇から姿を現したのは小柄な女性だった。

軽い調子で笑い飛ばす彼女は、麻央学園の制服に身を包み顔まで覆いそうなくらい長い栗色の髪が印象的である。


(あれ、あの人どっかで見たような気が……)


その容姿に既視感を覚える連斗。知り合いというレベルではないが、彼女の特徴は記憶にあるどれかのページとは一致する。


「もう少し隠れて様子を窺おうと思ってたのに、残念」


どこで遭ったのだろうか、と連斗が思案していると彼女がやれやれと肩を竦める。

怪物と遭遇していないのか?

彼女の態度は明らかに異常だった。異形の化け物が生徒を襲い喰らうという凄惨な事態に臆さず平然と笑顔を向ける様に連斗は疑念を持つ。


この非常事態に非常識な彼女の対応を訝しんだ連斗が率直に訊き返そうとする。


ドバンッ!


その直後。麻央学園の校舎に銃声が鳴る。

何の前触れも躊躇もなく優莉は狼を仕留めた例の銃を制服から取り出し発砲。呑気な彼女に物騒な返事をした。


優莉の放った弾丸は牽制ではなく、容赦なく彼女の右腕を跳ね飛ばす。


いくら怪しいからといってこの仕打ちは非道過ぎる。

流石の連斗も助けてもらった恩を捨て、優莉に侮蔑の眼差しを向ける。

だが、優莉の表情には一切の背徳感はない。それどころか周囲を警戒するように視線をあちこちに配らせていた。

そんな優莉の挙動をしばらく観察してから連斗は彼女のいた廊下を見る。


「なっ、いない!?」


少し目を離していただけだというのに彼女の姿が忽然と消えていた。


「もうっ、間髪入れずに撃つなんて失礼だと思わない? 私まだ何もしてないんだけど!」


ぷんすかと頬を膨らませながら怒る彼女が、いつの間にか連斗たちの真後ろにいた。

一体どんな手品を使ったら一瞬にして反対側に移動できるのか。

それどころか優莉に撃ち抜かれ、欠損していたはずの右腕が元に戻っている。


「なっ、なにがどうなってるんだ!?」


信じ難い光景の連続に、思わず夢だと疑ってしまう。

しかし、鼻に沁みつく火薬の臭いが現実だと教えてくれる。


「失礼? あなたのような下賤な輩に対する礼儀など端から持ち合わせてはいません」


困惑する連斗を放置して、優莉が向き直る。冷徹でも朗らかでもない、トゲトゲしい態度だ。


「えぇ、なにそれ差別? せっかく遊んであげた人間たちを見習って正々堂々と不意打ちは勘弁してあげたのに」


「――ッ!?」


たったそれだけの言葉に優莉の激情は触発される。

怪物と戦っている時でさえ眉一つ動かさず毅然としていたのに、彼女相手に優莉は明らかに怒っていた。

まるで汚物でも見るかのように眼光鋭く睥睨し、クールで表情筋の稼働が乏しかった顔は後悔と憤りで酷く歪んでいる。


(東雲さんが、キレてる!?)


只ならぬ気配に連斗は思わず息を呑む。

そんな奇矯な優莉が動いたのは、ゴクッと喉を唾液が通過したのと殆ど同じタイミングだった。

銃を右から左に持ち替え、制服から懐刀を引き抜くが早く、悠々佇む彼女へと肉薄する。


常人離れした運動性能から成される速度はまさに一瞬。連斗が走ったと認識している頃には優莉は別の動作へ移っていた。


彼女を間合いに捉えた優莉は、軸足に体重を乗せ、一息で刀を上方へ振りぬく。

所謂、切り上げというやつだろう。

ほんの僅かに銀色の接線が閃いたかと思えば、優莉は大きく後ろへ跳躍し連斗の傍にまで戻ってきていた。


(きっ、斬った!?)


彼女の胴体から離れた左腕がぶんぶん回転しながら宙を舞い、やがてボロボロと朽ちて消滅する。


「……外した」


致命的な一撃は与えたというのに優莉は忌々し気にぼやく。


意表をつく接近で優莉は胴体ごと真っ二つに裂くつもりだった。が、彼女も優莉の速度に素早く順応し斬られる直前で身を捻り左腕を犠牲に致命傷を逃れた。


「っう、あっぶなぁ! 銃だけじゃなく刀まで持ってるものだからびっくりして左腕を斬られちゃったよ」


彼女の飄々とした態度に痛みや戦慄はない。切断された断面からは一滴の血も流れておらず、それどころか――無くなったはずの左腕の断面からぐちゅぐちゅと不揃いな肉塊のようなものが溢れてきた。


肉塊はまるで生き物のようにうねうねと気持ち悪い躍動を続け、ある程度の量まで用意されると見えない糸かなにかでギュッと縫合され一つに集まり、形作る。そうやって整えられた肉塊は、段々と彼女の表皮の色へ近づき失った〝左腕〟として再築される。


(なっ、さ、再生したッ!? ば、化け物か!!)


醜怪しゅうかいな再生劇に胃液が込み上げてくるが寸前で口元を押さえ堪える。

最悪の光景ではあったが、これで彼女が人成らざる存在であることが確定した。


これなら優莉が嫌悪感を抱いていたことにも納得がいく。

おそらく彼女は怪物側。怪物と敵対していた優莉が警戒しているのだからまずその解釈で正しいと判断できる。

いままで襲ってきた獣たちと違い会話できるだけの知性や優莉の攻撃を避ける技量があるのも非常に厄介だ。

知性があるということは、怪物を指揮していた実行犯という可能性も示唆される。


「それにしても随分と大胆で潔い太刀筋じゃない。あと一歩遅れていたら危うく殺されるところだったよ」


復活した左手も合わせ、パチパチと称賛の拍手を優莉に送る。

二度も腕をやられたというのに彼女は臨戦態勢にならない。

そんな悠長な態度に、バンッと優莉はまたしても銃声で答える。


(ひ、左手で!?)


律儀に彼女と対話するつもりのない優莉は、銃を持ち替えずしてトリガーを絞る。

まさかの左手から放たれた銃弾は、正確無比に彼女の胸部へ着弾。一般の人間なら片手で射撃するのだって命中率が大幅に下がるというのに、優莉はそれを非利き手で平然とやってのけた。

驚くべき射撃技術の高さである。


敵も完璧に油断していたわけではないが、刀と銃の両刀を巧みに操り虚を突かれれば対処は間に合わない。

そう、優莉の一撃は確実にヒットしたのだが……。


「ちょっと、いい加減ノールックで銃撃つのやめてくれる?」


一度は彼女の腕を吹っ飛ばした弾丸。それが今回は胸を貫通することもできず、ポロッと床に落ちる。

防いだのではなく、純粋に貫けなかったのだ。


(どうなってるんだ! 確かに東雲さんの銃は命中したのに――全然効いてないッ!?)


撃たれたはずがピンピンしている異常事態に連斗は状況が処理できず、ただただ唖然とする。


「ねぇねぇ、せっかくこんなだっさい人間の姿になってあげてるんだからもっとちゃんと会話しようよ」


「……」


「あっ、それともあなたもしかしてコミュニケーション苦手系な人?」


「…………ッ!」


図星だったか、ほんの数センチ優莉の頬がぴくついた。

そんな僅かな変化を見逃さなかった彼女はここぞとばかりに煽りつける。


「あれれ~もしかして自覚あった感じ? ごっめ~ん、まさか嫌っている私とだけじゃなくて普段からそんなんだって知らなくてぇ~」


的確ながら安い挑発だ。

常に気丈に振る舞っている優莉が、その程度の内容で焚きつけられるはずがない。そう連斗は信じていた。


「防がれましたか……その高い再生力と霊力――あなた相当高位に悪霊ですね」


「うわっ、露骨に話を逸らしたよこの人……まぁ、いいけど」


どうやら案外気にしたらしい。あからさまに彼女を無視する優莉の態度に、「イメージ通りだなぁ」と連斗は内心頷く。


「そういうそっちも悪霊狩りで有名な死霊術師ネクロマンサーさんじゃなくて?」


おそらくこれ以上馬鹿にしたところで同じやり取りが永遠と繰り返されるだろうと悟った彼女は、優莉のペースに合わせ会話を進める。


(悪霊? 死霊術師ネクロマンサー? なんだよそれ。東雲さんがさっき訊いたことに関係しているのか?)


被害者である連斗は蚊帳の外に、二人は互いの立場を完璧に把握していた。

知らない単語が飛び交い、詳細は定かでないにしろ連斗にも両者が相容れない者同士だというのは判別できる。

それはつまり、一般人には到底及ばない領域ということだ。闇雲に割って入っても置いてかれるのは目に見ているため連斗は黙って二人を静観する。


「えぇ、そうです。私はあなた方の天敵の死霊術師ネクロマンサーです。なのであなたの悪行を決して許さない!」


「闘争心ギンギンでこっわ~い。それに悪行って、私はまだ二人に何もしてないのに酷い言い掛かりじゃない?」


ぶりっ子のようにわざとらしく身体をくねらせ、尚も優莉をおちょくる。

彼女がいくら取り繕うと剣呑な雰囲気は変わらず。いつまた争いが再開してもおかしくない冷戦状態だ。


「それに、誰かさんが施した結界のせいで……全然人間を食べれなかったし」


ゾワッ、と傍観していたはずの連斗が怖気立つ。彼女は屈託なく笑っていた。笑いながら人間を餌としていた事実を明かす。

連斗は笑顔で語る彼女に得体の知れない恐怖を覚える。


これは――狂気だ。


いままで敵でありながら気さくに接してきた彼女が突如として剥いた牙。本性や腹黒さとも称せる気迫が、連斗の精神に噛みついてきて離さない。

ここにきてようやく、彼女が脅威的な〝敵〟なのだと認識させられる。


「あと〝あなた方〟なんて品のない野獣共と一括りにするのはやめてもらえる? 私にはグレアっていう識別名があるんだから」


彼女改めグレアが漏らした狂気をしまい、軽口を挟む。

しかし、そんな姿にもう油断する連斗ではなかった。

優莉もまたグレアが明確な敵意を持ったことで身を引き締め、より一層の警戒と怒気を孕ませる。


「あなたがなんと識別されているかなんてどうでもいい。高い知性もあって随分舌が回るようですが、ならそのついでに答えてくれませんか。今回の事件の首謀者はあなたですか?」


グレアが嬉々として犯した罪を断罪してやりたい気持ちを一旦は抑え、優莉はできるだけ多くの情報を引き出そうと質問する。


「えぇ、色々酷くないそれ。いきなり銃とか刀で攻撃するわ、まともに会話する気になったらなったで罵倒に質問とかちょっと自分勝手過ぎない? そんなんじゃコミュ障なんて一生治らないよ?」


「くだらない戯言はいいから答えなさい! こんな学校全体を巻き込む大掛かりな襲撃事件を起こして一体何を企んでいるのですか!?」


「こ、こいつがあの怪物を――ッ!?」


傍から二人の会話を聞いていた連斗に戦慄が走る。

あくまで憶測混じりの推論だが、優莉は殆ど確信を得た口振りだった。

それが真実なのか、グレアの答えを固唾を呑んで待つ。


「う~ん、その質問はあながち間違いじゃないかな。私がみんなを率いて襲っているのは事実だし」


小ぶりな顎に人差し指をちょこんと当て、少し悩んだ挙句のグレアの回答は、優莉の推測を概ね肯定してくれた。


(あ、あいつが俺たちの学校を滅茶苦茶に……ッ!?)


ゾワッと全身の毛が粟立つ感覚を連斗は覚える。

グレアが平穏な学園生活を破壊した犯人と知ると、途轍もない怒りと恨みが心の隙間から湧き、連斗の顔を歪ませる。


「それは、本当ですか?」


一方で、予測が当たったというのに却って驚いた表情を優莉は浮かべる。


「さぁてね。それを信じるのはそっち次第だよ」


念を押し、優莉が確認するとグレアは飄々として今度は誤魔化す。

先程までの議論には、グレアが犯人であるか否かよりも根深く複雑な事情が含まれているようで、それはこの事件の内側にいる者だけが識る事実なのだろう。


故に優莉は追及し、グレアははぐらかした。


「それ以上はシラを切るつもりですか……」


「まぁね。懇切丁寧に目的を晒してあげる義理もないしね」


グレアも安易には情報を漏らしてはくれず、優莉も無駄だと悟り口を噤む。

両者に訪れる若干の沈黙。当然、優莉からは解消するつもりはなく、その隙にグレアの視線が隣にいる連斗に注がれた。


「あれ、そこの君……あ~やっぱりそうだ!」


ジッと連斗を注意深く観察した後、グレアが指を弾き納得する。


「あの時はありがとね! 君のおかげで色々と手間が省けたよ!」


「何を、言って……」


脈絡もなしにお礼をされ連斗は怪訝そうに眉根を寄せる。

グレアの発言からするにどこかで面識があるようで……。数秒と連斗が記憶を探ると、そこでようやく最初に感じた既視感の正体と結びつく。


学校にヴェールが降ろされ、怪物が出現した少し前。自販機で飲み物を買おうとした時に呼び止めてきた女子生徒の容姿といまのグレアがバッチリと重なる。


「そうだ、自販機の時の!?」


「おっ、思い出してくれた? ピンポンピンポ~ン大正解!」


怪物のインパクトに負けて忘れていたが、『ここの学校に純粋な人間がいるか』といった変な質問を彼女は初対面で唐突に投げかけてきた。気味悪く、逃れたい一心で深く考えもせず答えたのだが、まさか彼女がこんな大事件を企てた犯人として再会するとは――連斗は皮肉な運命を呪う。


「ほんとは視察だけのつもりだったけど、運良く君が目的の生徒の情報をくれたお陰ですぐに作戦を決行できてほんと助かったよ!」


「はっ、生徒の情報? それって、透也のこと……」


グレアの口から語られる真相に連斗は目の前が真っ暗になった。

安易に透也のことを喋ったばかりに今日の惨劇は引き起こされた事実をどう受け止めたらいいか分からずただ立ち尽くす。


「うん! それでね、実際会いに行ったんだけど彼凄かったんだよ!!」


まるで無垢な園児が思い出を語るように。弾けるような快活な調子でグレアがその人物を挙げると、絶望し最悪の事態を予感していた連斗の表情が一気に強張る。

知らぬ間に売ってしまった友人とグレアが接触したという内容に、毛穴という毛穴からぶぁと汗が吹き出し全身を冷たく濡らす。


「いきなり現れた私たちにも怯まず、他の生徒を逃がそうと勇敢に楯突いてくるものだからいじらしくなっちゃって、ついからかっちゃった」


可愛らしい口調で覆い隠した彼女の凶暴性を既に見抜いていた連斗は〝からかう〟という冗談めかした表現に脅威と悪意しか感じなかった。


「なっ、からかって何をしたんだ……その人をどうしたんだ!?」


わなわなと喉を震わせながら訊くも悍ましい真相を確かめる。


「うん、何って? 色々試したよ。まずは精神的に追い詰めようと逃がそうとした生徒を片っ端から殺して。その後は本人を死なない程度に殴ったり、蹴ったり、吹っ飛ばしたりしてね」


実験でもするかのようなワクワク感を前面に出し、処刑の過程を説明する。

グレアにとってはゲームと同じ感覚なのだろう。とてもじゃないが正気の沙汰とは思えないし、思いたくもなかった。


「で、散々痛めつけたんだけどすっごい強情で耐えちゃたから最終的には獣たちを使って腕や足を噛み千切らせたら流石に絶叫してくれたよ!」


「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


屈託のない笑顔で残虐非道な行為の数々を語られ、リアルな想像してしまった連斗は膝から崩れ、喉がはち切れん勢いで発狂する。


「俺だ……俺のせいで透也は――」


何度も地面に拳を打ちつけ、悔恨の念を吐露する連斗。いくら当たろうと気持ちが晴れることはなく、むしろグレアの被虐心をそそる結果に終わる。


「ぷっ、あっはっはっは! やっぱり人間は面白いね。たかが同胞を一人殺されたくらいでそこまで絶望し、泣いてくれるんだから。私が他の生徒を殺すとね、彼も似たような反応をしていたよ」


「たかが、一人、だと!?」


後悔してももう遅い。透也を嬲り殺したという彼女の証言に連斗は自分自身の過ちを呪うと同時に沸々と胸の奥から何かが湧いてくるのを感じた。


――彼女は本物の怪物だ!


グレアという存在の倫理観は著しく狂っている。このタイミングで笑顔の裏側に潜んでいた狂気を真の意味で理解した連斗は、彼女を本物の怪物として認める。


沸々と込み上げてきたものの正体――それは純粋な〝怒り〟だった。

友人を甚振り弄んだ彼女へと向ける殺意的な感情。

かつて、これほどまでに誰かを憎み恨んだことのない連斗は、臨界点に達した怒りを初めて経験する。


感情が溢れすぎて制御できない。脳の血液が沸騰したように熱くなって理性がちぎれ、視野は限界まで狭窄。グレアという一点のみを注視し、他の景色は情報として反映されず、どんな手段を用いてでもぶっ殺してやりたいという衝動が常に思考を駆り立てる。


あまりの怒りに狂ってしまいそうになり、全身が痙攣する連斗。そんな明確な殺意を向けられたグレアは嬉々として喜んだ。


「いいねその反応! 純粋な怒りに任せて憎しみをぶつける態度。でも、忘れないでね。今回の事件の引き金を引いたのは間違いなく君で、その責任と罪を背負い続けなくちゃいけないってことを」


「……ッ! そ、それは」


グレアの指摘にも一理あった。連斗は売った透也だけでなく、話の中で犠牲となったクラスメイト、助けを乞いながら死んだ女子生徒の顔を脳裏に浮かべる。

こんな展開予測できるはずがなかったとしても、もしもあの時正直に答えず適当にはぐらかす選択をしていたら救われた命があったかもしれない……。

そう考えると途轍もない罪悪感が胸を打ち、怒りの矛先がグレアだけでなく連斗自身にも向いてしまう。


そうやって完璧にグレア思い通りにことが運びそうになったその時。

連斗の横から優莉が糾弾する。


「ふざけないでください! 彼のどこに責任があるというのですかッ! そもそもこうなる元凶を作ったのはあなたであって、善良な生徒を巻き込み神聖な学園を穢すような輩が彼を非難する資格なんてありません!!」


彼女の下劣な行為にずっと堪えてきたものが爆発したのか、優莉は柄にもなく感情露わに叫んでいた。


「安心してください。あなたに罪はありません。全ては元凶である彼女の責任です」


「東雲さん……」


決して連斗を擁護することだけが目的ではないのだろう。それでも庇ってもらい気持ちが楽になった連斗は羨望の眼差しで感動を漏らす。

そんな彼に優莉は強い覚悟を灯した面持ちで応える。


「あなたの無念も殺された友人の未練は私が晴らしてみせます」


煮え切らない気持ちを抱えているのは優莉も同様だった。

人殺しをゲームのように楽しむ彼女に憤慨し、いますぐにでも切り刻みたい衝動を抑え、怪物に対抗することのできない連斗の想いを引き継ぐように、優莉は一歩前へ踏み出しそして――短く、端的に意思を言葉に起こす。


「あなただけは絶対に許しません!」


瞳を信念で滾らせ、目の前の害悪を葬ることだけに全神経を注ぐ。

冷静かつ実直に。胸の奥にある憤りを糧として己の力を最大限まで昂らせ、刀と銃をそれぞれ、改めて構えた優莉が堂々宣言する。


「この私がここで討ち倒しますッ!!」

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