第104話 強化兵士の猛攻
——ヒューメニア領。エリュシア草原西部。
ヒューメニア軍は徐々に勢いを増し、魔王軍を押し始めていた。
「皆デモニカ様を守れ! ヒューメニア軍を迎え撃つぞ!」
フェンリル族のクシルが駆け出す。それに続けてフェンリル族精鋭部隊が前線を駆け抜ける。
「強化兵士を投入しろ!」
ヒューメニアの隊長格が叫ぶと、強化された多種族達が魔王軍へと襲いかかる。それはレオンハルトによって捕えられた者達だった。ハーピーに海竜人。ありとあらゆる種族が狂乱の叫びを上げながら魔王軍の兵達へと突撃する。
ギラついた目をした強化フェンリル族が駆け出し、クシル達の後を追った。
「我らの速度に追いつくだと!?」
「ガルルルッ!!」
2体の強化フェンリル族がクシルへと飛びかかる。
「くっ!?」
その牙がクシルを捉えた刹那——。
「
「
「グアウッ!?」
稲妻を帯びた斬撃が強化フェンリル族の首を
「はぁ……はぁ……助かりました……レオリア様……ヴィダル様」
「良く耐えたクシル。後は俺達に任せろ」
「ヴィダル様……ありがとうございます」
「魔法士はハーピーを狙え。海竜人へは複数人で対処。アンデッド兵は弓兵を守れ」
ヴィダルが、仲間達へと指示を与える。
強化兵士の投入で狼狽えた前線部隊だったか、徐々に統制を取り戻していった。
「レオリア。クシル達を引き連れ強化兵士達を殺せ。俺は
ヴィダルが合図すると、巨大な狼……ダロスレヴォルフが現れる。彼をその背に乗せる為に。
「分かったよヴィダル!」
レオリアが戦場を駆け抜ける。その姿を見たクシル達が彼女の後に続く。
彼女達を見送った後、ヴィダルはダロスレヴォルフを走らせある場所へと向かった。
◇◇◇
ヴィダルが戦場を離れて数時間後。
勇者レオンハルトは魔王を前に笑みを浮かべた。
「他の強化兵士達も前線に到達したか」
「ガアアアアア!!」
「……っ!?」
強化兵となった海竜人が、アンデッド兵を蹂躙し、その後方にいた弓兵へと向かう。
「クソっ!? クソ!! なんで止まらないんだよ!!」
焦る弓兵へ強化ハーピー兵が急降下する。
「キエエエエエエエ!!」
「うあ"ああ"あああ!?」
その鉤爪に捕えられた弓兵は、ボロ雑巾のようにズタズタに引き裂かれた。
「もはや魔王軍に逆転の目は無い」
レオンハルトの挑発には答えず、彼女は空を見上げた。
「なんだ? 絶望にでも打ちひしがれているのか?」
「
デモニカがポツリと呟く。
その言葉通り、エリュシア平原からは霧が晴れ、辺り一体が見渡せる程の晴天へと変化していた。しかし戦場での生死をかけた戦いの中、そのことに気付く兵士は他にいない。
デモニカがその両手を交差させ魔法名を告げる。
「
放たれた二対の炎の竜巻が強化兵達を飲みこうと迫る。
「させん!」
聖剣フレイブランドが眩く光り、炎の竜巻を吸収し、跡形もなく消し去ってしまう。
「無駄だと言っただろう! 私がいる限り魔王の炎は我が兵達へは届かない!!」
レオンハルトが剣を掲げ、
「魔王の炎はもはや恐るに足らん! 兵士達よ! 恐れを捨て魔王軍を討て!!」
ヒューメニア兵士達から雄叫びが上がる。勇者の立った戦場は、圧倒的なまでの士気に包まれた。通常のヒューメニア兵士達すらも魔王軍を押し初めていた。
「どうだデモニカ。貴様の仲間か破滅する様を見せつけられるのは」
「……あと数刻。それで貴様は黙るしか無くなる」
「この期に及んで負け惜しみか!」
レオンハルトが聖剣を肩に担ぐ。ゴーレム兵達を一瞬にして壊滅させた必殺の一撃を放つ為に。
「貧弱な仲間もろとも消し飛べ!」
レオンハルトが
「なんだ?」
レオンハルトが空を見上げると、そこあるのは雲一つ無い快晴の空。
太陽が辺りを照らすだけ。
しかし……。
おかしい。
レオンハルトは直感的にそう感じた。
「あれは……太陽ではない?」
レオンハルトの脳裏に転生前の記憶か蘇る。古代エルフ達が使っていた上位召喚魔法のさらに上、特位召喚魔法。それを最大威力で放つ時の
「まさか!? 霧は球体を隠す為に……!?」
「今頃気付いても無駄です」
声の方を見ると、そこには銀髪のエルフ。
ヴィダルと共にダロスレヴォルフを駆り、前線へと出ていたフィオナ……彼女が今まさに特位召喚魔法を発動しようとしていた。
「やめろぉぉぉ!!」
レオンハルトが発動を止めようと剣を構えた瞬間。
フィオナが魔法名を告げた。
「
直後。
空に浮かぶ光球が弾け飛び、ヒューメニア兵達の頭上に大量の妖精が現れた。
「妖精達よ。正気を失った戦士達を喰らい尽くしなさい」
女の声で命令が下されると、妖精達がウネリをあげて強化兵士達へと向かっていく。
「グギャアアアアアアアアアッ!?」
強化兵士達へとまとわりついた妖精達が、その肉体を喰らっていく。正気を失っているとはいえ、己の肉体を失う苦痛に耐えきれず断末魔を上げた。
「レオンハルト。ここから先にお前の勝ち筋は無い。諦めろ」
ヴィダルが告げると、レオンハルトは怒りの形相で睨み付ける。
「何を言っている。貴様達は後悔の末殺して……」
「いや、もう
ヴィダルが空を指す。そこでは複数の使い魔が空を飛びかい魔法陣を描いていた。
そして、使い魔達から少女の声が響き渡った。
『
「な、なんだと!?」
「ナルガイン達を
「ぐっ……貴様らぁ……!!」
レオンハルトはその聖剣を握りしめた。
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