第69話 ナイヤ遺跡 ー王女マリアー
アルフレド様とヒューメニアを出発して3日。護衛の兵士や学者を連れたナイヤ遺跡調査部隊は無事に目的地へと到着した。
アルフレド様の言ったとおり、遺跡周辺には凶暴化したモンスター達で溢れていた。
ヒューメニア兵とグレンボロウの部隊がモンスターを蹴散らし、私達は遺跡の入り口へと入る。
至る所から漏れ出る黒い霧へと向けて手を翳し、魔法名を告げる。
「
神殿内から漏れ出ていた黒い霧が一瞬にして消え去っていく。
「これから調査を開始致しますわ。霧が再発した時は言いなさい」
アルフレド様と遺跡へ入ろうとした時、視線を感じた。
「どうしましたマリア様?」
「誰かに監視されているような気がしませんか?」
「周辺にはモンスター達が蠢いております。心配ならば見張りを置いていったほうが良いかと」
モンスター? 少し違う気がするのだけど……どちらにせよ見張りを置く他無いか。
「我らの兵も残して行きましょう」
アルフレド様がグレンボロウ兵士へと指示をする。兵達が遺跡周囲へと散って行く中、女性の兵士だけはアルフレド様へ寄り添うように側についていた。
「その方は?」
「ああ。この子は私の護衛でしてね。中に連れて行くことを許可頂きたい」
「いえ、見張りに人員を割いて貰っているのですから、許可など……」
「それは良かった」
アルフレド様が爽やかに笑う。
私達は見張り達を残し、神殿の中へと入った。
通路を進むと一際広い部屋へと出た。光を灯すと、その壁一面には壁画と古代文字が描かれていた。
そして、中央に大きな石碑。そこにも何か文字が刻まれている。
部屋の中へ入ろうとするとアルフレド様が私の行く手を遮った。
「マリア様。ここから先は危険です。我らに任せて姫様は部屋の外で待機を」
「私はヒューメニアに危険を及ぼすか否かの判断を下す為にここに来たのです。私以外の誰がその判断をできるのですか? その責任を取れる者は?」
アルフレド様が驚いたような顔をする。
「失礼、ご自身の役割を把握されているようで感心致しました」
「魔王国という脅威が現れた今、いつまでも子供のままではいられませんわ」
「脅威がその精神を引き上げたということか。我らにとってどのような存在となるか……」
「え?」
「いえ、なんでもありません」
一瞬彼の声が冷たい物になった気がしたが、それを確かめようとした時には先ほどの雰囲気へと戻っていた。
「さぁ。ぼぅっとしている暇はありませんわ。学者達は壁画と古代文字の解読。兵士達も内部調査を手伝うように」
学者達が一斉に部屋の内部へと散っていき、調査を開始した。
◇◇◇
ほどなくして、1人の学者が駆け寄って来た。
「マリア様、アルフレド様。壁画の内容が判明しました」
「本当ですか!? ここに封印されている物の正体を早く」
「は、はい! こちらへどうぞ」
アルフレド様と、学者について行く。案内されたのは1つの壁画。そこで学者が説明を始めた。
「この壁画はそれぞれが1つの物語を紡いでおります。姫様にも分かるように解説を致しますね」
「頼みますわ」
「まず、この世界は創世の神が作りました。そして、神の
学者と共に次の壁画へと移動する。そこには暗雲に包まれた世界と、禍々しい竜が描かれていた。
「創世の神と対となる存在。終焉の魔神が現れたのです。魔神は竜の姿となり、我らの世界を破壊し尽くそうと暴れました」
次の壁画には、4本の武器が描かれていた。
「我らの中から生まれた4人の勇者。彼らが4本の聖剣をもって魔神竜を封印したと描かれております」
「聖剣について他に情報は無いだろうか?」
アルフレド様が4本の剣のを表した壁画をなぞる。
「聖剣……いえ、これ以上はございません」
「そうか。すまなかったね。話の腰を折って」
「その魔神竜がここに封印されているのですか?」
私の質問に対し、学者は深く頷く。
「はい。その名は『魔神竜バルギラス』。その絶大な魔力を持って世界を破壊する者という意味だそうです」
「な、なんということですの……その話が本当であれば、これはヒューメニアだけの問題ではありません。直ちにこの遺跡の封鎖を……」
「そこまでだ!!」
突然、聞き覚えのある声がして振り返る。
入り口には……ハーピオンのリイゼル様が立っていた。大量のハーピー兵を連れて。
「王女自らが
リイゼル様が顔を歪める。
魔神竜を? 一体何を言っているの?
「ち、ちょっと待って下さい! 貴方が何を言っているのか分かりませんわ」
「問答無用! 攻撃を開始しろ!」
ハーピーの戦士達が一斉に兵士達へと襲いかかる。
「ぐああああっ!?」
ハーピーの持つ鋭利な
「や、やめなさい!」
「マリア様。ここかは迎え撃つ他ないかと。ハーピオンが魔神竜の力を狙っているのかもしれません」
アルフレド様が耳打ちしてくる。
「ハーピオンが?」
「確証はありませんが……そうでなければ彼女達がここに現れたことの説明がつきません」
「しかし……」
「迷っていれば最悪の結末になるかもしれません。今、貴方しかヒューメニアの民を守れる者はいないのですよ?」
ヒューメニアの民を?
「ハーピオンとの確執と魔神竜の脅威。より国を脅かすのはどちらでしょうか?」
……確かにそうだ。
万が一のことが起きた場合、何の罪も無い民が危機に晒されてしまう。
それに、そうなればアレクも……ダメ、あの子は私が守らなくては。
「私が、私がやらないと……」
「そうです。貴方しかできません」
「学者達は後方へ! 兵士達はハーピー兵を迎え撃ちなさい!」
兵士達が雄叫びを上げ、ハーピー達へと斬りかかる。
「それでこそ誇り高きヒューメニアの姫です」
そう言うアルフレド様は、口調とは裏腹にゾッとするほど冷たい顔をしていた。
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