第70話 魔神竜の目覚め ーヴィダルー
手筈通りハーピオンの部隊が遺跡へと乗り込んで来た。ハーピー達の攻撃を皮切りに先程から激しい戦闘が繰り広げられている。
「魔法士は対空攻撃へ専念しろ! 武器を持つ者は魔法士を守れ!」
ヒューメニア兵の隊長に呼応して皆が陣形を作った。
魔法士が「
「ギャッ!?」
空中のハーピー兵に電撃が直撃し、兵士が墜落する。その堕ちた所を見計らい、ヒューメニア兵達が槍を突き刺していく。
「ハーピーは生命力が強い! 必ず仕留めたか確認しろ!」
「死ねぇ!!」
兵士が一心不乱に槍を突き刺す。なんとか逃れようとしたハーピーだったが、やがて力尽きた。
「よ、よし。このまま押して……」
一瞬の隙を突いて別のハーピーが魔法士へと突撃する。そして、その脚の爪で両肩を掴むと、魔法士を掴んだまま空中へと飛び上がった。
「クソっ!? 離せ!?」
「お望み通り離してやるよクソ人間!!」
両肩を掴まれたままもがく魔法士へと向かって、ハーピー兵が
「
「ぐあああぁぁぁっ!?」
空中を落下する魔法士にハーピーの鉤爪が斬撃を放つ。その一撃一撃が肉を削ぎ、骨を断ち、みるみるうちに肉塊へと変えていく。そして、魔法士は人間の原型を保てぬまま地面へと叩きつけられた。
「貴様ぁ! 良くもガンダルを!!」
怒り狂った兵士が飛び立つハーピーへと
「疾風切り!!」
「ィギャアアアア!?」
片翼を跳ね飛ばされたハーピーは墜落し、もがきながら止めを刺される。
至る所で行われる戦闘は地獄の様相を
「これが……戦闘……」
「マリア様。眼を背けてはなりません。今、現実から眼を背けることは死を意味します」
「わ、分かっておりますわ……」
マリアは震える体を抱きながら戦闘へ意識を向ける。
……兵達に守られているとはいえ、目の前で人を死ぬ所を見るのは初めてだろう。王族とはいえ普通の少女と同じか。
「ヴィダル。僕はまだ動かなくていい?」
グレンボロウ兵に擬態したレオリアが耳打ちして来る。
「そろそろライラが動く。彼女が殺されぬよう守れ」
「分かったよ。でもヴィダルが危なそうだったら駆けつけるからね」
「ああ。それで構わない」
レオリアが駆け出す先には俺が精神支配をかけたライラがフラフラと奥の石碑へと向かっていた。
さて、後は……。
出口を塞ぐハーピオンの部隊。
そこには隊長クラスと思われる者が1人。あの装飾の装備に携えた槍。明らかに異彩を放っている。他のハーピー達から「リイゼル」と呼ばれる彼女は、その美貌に似合わずかなりの手練れだと見える。
そして、そんな彼女の隣には……フィオナとイリアス達。
これで準備は整ったな。
そんな中、リイゼルの視線がライラへ向けられる。
「石碑に向かう兵士がいるぞ!」
「えぇ!? でもリイゼル様ぁ!? アタシら手一杯ですよぉ〜」
「……もういい。私が行く!!」
他のハーピーが動けぬと悟ったリイゼルは槍を構えた。
「
技名を叫んだ彼女は舞い上がり、ライラを狙う。
まだレオリアの力を出す時ではないな。
リイゼルの直線上へと走り、彼女の瞳を見据える。
「どけぇぇぇ貴様ぁぁぁ!!」
だが。
「戦闘中ならば惑う瞬間もある!」
大地を蹴り、突撃する彼女へと飛び込む。
「なっ!?」
面食らったリイゼルの瞳を目掛けて魔法名を告げる——。
「
彼女の瞳へと送る。
「な、なんだ!? 体が……勝手に!?」
リイゼルの放っていた神風突が強制解除され、バランスを崩したリイゼルは大地へと叩きつけられた。
「ぐっ!?」
「い、今です! リイゼルを捕えなさい!」
リイゼルが倒れた瞬間、マリアが兵士達へと指示を出す。
「まだです。マリア様は後へ」
マリアを後ろへ控えさせる。
「舐めるなぁ!!!」
一瞬の内にリイゼルが体勢を立て直し、槍を構え直す。
「
「ぐわぁぁぁ!?」
彼女を捕らえようとした兵士達に風穴が開く。
「兵士達が!? 何故ですリイゼルさん! 何故私達を襲うのですか!?」
「何を戯けたことを言っている! お前の兵士が封印を解こうとしているではないか!?」
「兵士が……?」
戦闘に意識を奪われていたマリアが、ついに石碑の存在に気付く。
「あれは……ライラ!? やめなさい!」
……もう遅い。魔神竜の封印が解かれる。
マリアの叫びは支配された女兵士には届かない。
彼女が石碑へと手を翳し、封印解除の言葉を述べていく。
「イマ、フウインノクラヤミカラメザメヨ。ナンジノナハ、マジンリュウ。コノセカイヲフタタビハカイノクラヤミヘ」
「させるかぁぁぁぁ!!」
リイゼルが槍を構え突撃する。
しかし。
その槍先は、双剣を持つグレンボロウ兵士……レオリアに防がれた。
「貴様!? あの兵士が何をやろうとしているのか分かっているのか!?」
「分かってるよぉ? ふふふふ……邪魔なんかさせないって」
「
「無駄無駄」
リイゼルの放つ乱撃をレオリアが双剣クラウソラスでいなしていく。並の武器なら叩き折られてもおかしくない上位技を防がれたことでリイゼルが驚愕の顔を浮かべる。
「その双剣……その技術。貴様何者だ!?」
「そんなことどうでもいいでしょ。時間切れ〜」
ライラが両手を広げ、魔神竜封印解除、その最後の1カケラを口にする。
魔神竜の、名を。
「メザメヨ。マジンリュウ、バルギラス」
その言葉と共に、石碑が砕け散る。
次の瞬間。
巨大な手が石碑の場所から現れる。
「き、巨大な……手だと……女王様……私は……」
リイゼルが力無くその武具を落とす。
「あれが、魔神竜……」
マリアがその眼を見開く。
グオォォォォォォォオオオオオォォォオ!!
大地を揺るがすほどの雄叫びと共に……。
魔神竜が目覚めた。
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