復活の厄災編

第65話 魔神竜封印の遺跡

 魔王国建国宣言より2週間。


 

 ——エルフの国エルフェリア。フィオナの執務室。



「すまないな。色々と手伝って貰って」


「何も悪いことはありません。私達は同じ血族。いつでも私を頼って下さい」


 フィオナが薄らと笑みを浮かべる。


「それにしても、ヴィダルはこの1週間書庫に籠って何をしていたのですか?」


「4大国の歴史を調べていた。エルフェリアの書庫は世界最大。ここには知識が詰まっている」


「ふふ。勤勉なのは大変良いことですね。それで、何か分かりましたか?」


 思えばこの世界に来てから歴史をしっかりと学んだのは初めてだった。そして、見えて来た。



 この世界は……俺の知っている「エリュシア・サーガ」の遥か未来の世界だということ。



 技術レベルは時を止めたかのように進歩していないが、年号や発生した出来事、事件は俺の知っている世界の後ということであれば辻褄が合う。


「驚いたのはヒューメニアとハーピオンが幾度となく争っていたことだよ。あんな大国同士がぶつかっていたとはな。そして、その度にハーピー達が連れ去られたと記されていた」


 断崖に国を構えるハーピオンとの戦では領地を奪うことができない。だからこそヒューメニアは兵士のハーピー自体を戦果として連れ去っていたのだろうな。


 ……何の為かは想像したくもないが。


「ですが近年はぶつかることも無くなっています。外からでは友好的に接しているように見えますね」


「遺恨というのはそう簡単に消えはしないさ」



 ……これを利用しない手は無い。



「俺が次にやることは決まったよ」


「何ですか?」


「ヒューメニアとハーピオンの同盟を防ぐこと」


「同盟……ですか」


「4大国で同盟を組む可能性が高いのはその2つだけだ。メリーコーブが体制を立て直すにはまだ時間がかかるからな」


 建国宣言をして2週間。これから各大国の密偵が送り込まれるだろう。


 そうなればいずれ分かる。エルフェリアとの関係や経済圏の話も。そうなった時、大国同士が同盟を組むことも十分に考えられる。


 しかし、今回歴史を学んで良かった。


「この2カ国にくさびを打ち込む情報を俺は持っている」


「情報?」


「フィオナは知らなかったな。俺達がエルフェリアへと入る前に目にしているんだ。ヒューメニア人がを買い付ける所をな」


 ハーピオンの歴史をかんがみて、未だにヒューメニアが人身売買など行っていると知れば……その感情は一気にマイナスとなる。


「それをハーピオン側へと暴露するということですね」


「ああ。あの商売は相当繰り返されていた。仕入れ先が無くなれば新たな奴隷を探しに行くだろうな」


 ハーピオンにこの情報をリークすれば密偵を送り裏を取るはず。そうすれば……いや、完全に同盟を防ぐにはこの情報だけではまだ弱いか?



 もっと他に方法は無いか? ……直接両者がぶつかるような……。



 その時、ノックの音が部屋に響いた。



「失礼します」


 見ると、評議会の女性だった。確か……ベレニルと言ったか。


「どうしたのです?」


「フィオナ様。先日より発生しているナイヤ遺跡の件で」



 ナイヤ遺跡?



 ……。



 その名を今聞くとは。



「今はヴィダル——大切な客人を応対中ですよ? その話は後に……」


「いや、いい。聞かせてくれ」


「……!? ヴィダルが聞きたいと言っているのです。早く言いなさい!」


 突然フィオナが態度を変えたことに戸惑った様子で、ベレニルは書類に目を通した。


「せ、先日よりナイヤ遺跡で不可思議な現象が発生しております」


「不可思議な現象とはなんですか?」


「遺跡周囲のモンスターの凶暴化。また、遺跡よりが発生しているとの話が」


「現象の発生はいつからだ? きっかけはあるか?」


「え、ええ。先日が数人、遺跡に出入りする所が目撃されています。状況から考えてその後かと」


 人の出入りがあった……か。しかし、今気になるのは現象の方。黒い霧が出ているということは



 ナイヤ遺跡で封印されている存在を利用するか?

 


 これで後始末の段取りだけできれば……。



 考えてみるか。



◇◇◇


 フィオナの執務室に設置された黒板に戦闘予測を書き込んでいく。


「この攻撃はこれで対応して……2人は最終局面まで温存したとすると……だが、ブレス攻撃はどう防ぐ?」


「どうしたのですか? 先程から独り言ばかり」


「……フィオナ。以前から研究していた2は完成したか?」


「え? はい。先日ついに……混沌世界との接続方法を発見しましたから」


 完成させた?


 それなら問題の攻撃方法に対処できるな。


「よし!」


「きゃっ!?」


 喜びのあまりフィオナの肩を掴むと、彼女は頬を赤く染めた。


「良くやったぞフィオナ!」


「え、あ、は、はい……!」


 フィオナの顔が急激に緩んでいく。


「どうした?」


「あ、いえ……そ、それで何かあったのですか?」


を使ってハーピオンとヒューメニアに亀裂を走らせる方法を思い付いた」


「遺跡を使って?」


「そうだ、そこでフィオナに頼みたいことがある」


 今回は2つの国をめなければならない。俺だけでは時間が足りないだろう。


「フィオナはエルフェリア大使としてハーピオンへ接触してくれ。イリアスを連れて行くといい。あの子には擬態魔法ディスガイズを習得させた」


「イリアスですか……」


 フィオナが露骨に嫌そうな顔をした。


「そう嫌な顔をするな。フィオナのその両眼のままではハーピオンと接触できない。あくまで評議員として接触して欲しいからな」


「貴方が言うなら……連れて行きましょう」


「よし。話す内容や交渉技術は俺が教えよう」


「ヴィダルはどうされるのですか?」


「俺はヒューメニアへ向かう。としてな。今は俺が奴なのだから」


「そこまでするなんて……あの遺跡には何が眠っているの?」


。文献を調べてみるといい。その存在が記されているはずだ」



 俺達が進む為なら使える物はなんでも使ってやる。



 エリュシア・サーガの「」すらも。

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