第56話 神殺しの双剣 ールドヴィックー
軍関係者が集まる。指揮官のギビングに英雄アルトの姿もあった。
「状況を説明しろ」
エルドリッジが書類に何度も目を通す。
「宣戦布告に対し、我らからも使い魔を送りました。交渉した結果、戦場となるのはガレンホルムの丘。既に一部部隊に偵察をさせています。はい」
ギビングが地図広げられた地図の駒を指す。
「偵察部隊の報告によると敵戦力はエルフ、ゴーレム、フェンリル族、人間を含めた混合部隊です。人間だけで構成された我が国の部隊ではいささか不利かと」
「不利? 何を言っている。貴様には勝利の道しか無いはずだが?」
「もちろん勝利致します。しかし念の為、周辺国へ援軍の依頼を……」
「そんなことを許せるはずもないだろう。戦後の処理をどうするつもりだ? 弱みを握られた後、政治を行うのは我ら王族だ。貴様に政治ができるのか?」
「も、申し訳ございませんでした」
ギビングが慌てて頭を下げた。
軍人は戦闘のことしか頭に無いから困る。世の中はお前達が思うよりずっと複雑なのだ。
「まぁまぁ王様。ギビングは我が軍を勝たせようとしているだけですから」
英雄アルトが私達の間に割って入る。
英雄アルト。ギビングと共に先代王に力を見染められ、幾度と無く戦争を勝利に導いた男。その若さ故に侮ってしまいそうになるが……民が信頼を寄せるこの男を敵に回すのは流石に気を付けねば。
それに……「不利」というのも頂けない。魔王軍なる者達へ思い知らさねばならんからな。
「良かろう。エルドリッジ。我が国の防衛部隊はどの程度まで前線へ送れる?」
「は、はい……ええ。治安維持のみを念頭に置けば4割は送れましょう」
「だ、そうだ。4割……1万2000の部隊を追加すればどうだ? まだ不利か?」
「それだけあれば。しかし、よろしいのですか? 王国を手薄にしてしまっても?」
「良い。それよりも他国へ舐められないことの方が重要だ。魔法士でも好きな者を連れて行け」
「分かりました」
「その上で聞こう。どのように攻める?」
「ゴーレム兵とフェンリル族は前線部隊により分断。敵は防御と機動力を活かすつもりでしょうが、分断し個別に対処します。特にフェンリル族は取り囲んでしまえば機動力は活かせなくなります」
ギビングが駒を動かしていく。
「そして、厄介なエルフの召喚士。彼らには弓兵と魔法兵の遠距離攻撃にて召喚士本体を直接叩きます」
敵軍の駒を取り囲むように配置したところで、彼が手を止める。
「最後に、先ほどの1万2000の中から回復魔法士を3000ほどお借りしても?」
「なぜだ?」
「ガレンホルムの丘で数体のアンデッドを目撃したとの情報があります。まさか敵がアンデッドを使うとは思えませんが……念の為です。戦場へ乱入する恐れもありますから」
「なるほど。回復魔法はアンデッドに有効……武器として使うか。良いだろう」
◇◇◇
数時間の会議の末、軍人達は部屋を後にした。
「良かったのですかな? ルドヴィック様。兵力をあれほど移して」
エルドリッジが眉を持ち上げた。
「お前の言いたいことは分かるぞ。私を心配してくれているのだろう?」
「もし戦中に何かあったらと思うと……ええ」
「そのことも考えている。ゼフィルスに『アレ』を預けた」
「アレとは?」
「ふっ。そろそろ『試し切り』の準備ができた頃か。ついて来い」
部屋に待機していた魔法士に
「ここは……処刑場ではないですか」
「ああ。先日の反抗組織の一部をな。30人ほど連行した」
私達の姿を確認したゼフィルスが膝をつく。
「ルドヴィック様。これより試し切りの儀、始めさせて頂きます」
ゼフィルスが立ち上がり両腰に装備された双剣へと手をかける。
「んん? それは……」
エルドリッジが怪訝そうな顔で双剣を見つめた。
「我が国に古来より伝わる宝刀。『神殺しの双剣』クラウとソラスだ」
「ほ、宝刀!? そんな物をゼフィルスに渡しても良いのですか!?」
「構わんさ。ゼフィルスは決して私を裏切らん。そのように精神を調整してある」
私の護衛につく者には信頼のおける者を添えねばならんからな。精神支配魔法を何重にも施すのに苦労はしたが。
兵士が反抗組織の者達を解放していく。
「皆良く来てくれた。今日は君達に一仕事頼みたい」
「ルドヴィック!! よくもテオさんを……テオさんの家族まで!!」
捕まっていた者達から怒号が上がる。
はぁ……威勢の良いことだ。
「君達には宝刀の使用実験に付き合って貰う。ゼフィルス」
ゼフィルスが双剣を鞘から引き抜く。
白を貴重とした片刃の剣。刃の反対……背はギザギザとした特徴的な形状となっている。そして、それぞれに彫られた古代文字。それが伝説の装備であることを告げていた。
「やれ」
私の合図と共にゼフィルスが双剣から斬撃を繰り出す。その一撃は光の刃となって放たれた。
「お前!? テオさんにはまだ幼い子……がっ!?」
威勢よく私を罵っていた男の首が跳ね飛ばされる。それと共に他の者達から悲鳴が上がる。
「素晴らしい。離れた対象すら斬り殺すこの威力。さすが我が王家に伝わる伝説だな」
「まだこれだけではございません」
ゼフィルスが双剣の背を合わせる。すると、特徴的な装飾同士が噛み合い、1本の諸刃の剣となる。
「良いですか? 今から
ゼフィルスが大地をを蹴り、慌てふためく男達の中へと飛び込む。ゼフィルスが目の前に現れたことで男達の混乱はさらに大きくなり、皆一斉に逃げ出した。
「逃がさん!!」
ゼフィルスが両刃剣を薙ぎ払うと、30人近くいた男達は、その一撃で胴体を真っ二つにされた。
「お、おぉ……これは、なんと……」
エルドリッジが腰を抜かしたようにへたり込む。
遠くでゼフィルスが両刃剣を振るう。引き剥がすように剣を分けると、それはまた片刃の双剣へと戻った。
「どうだエルドリッジ。これがクラウとソラスの力。技を使えばどれほどの威力となるか……これでもまだ心配か?」
「い、いえいえ! 考えが至らず申し訳ございませんでした!」
これがある限り私が討たれることは無い。万が一、直接私を狙うような者がいるのであれば、その者共は絶望を味わうこととなるだろう。
我が宝刀へと視線を送る。伝説の武具は獲物を求めるかのように鈍い輝きを放った。
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