第18話 召喚魔法

 エルフェリアへの入国にはそれほど苦労しなかった。冒険者にとって寛容かんようなようだ。新たな情報、商品、通貨を手に入れる為に必要なのかもしれない。大国たり得る理由という訳か。


 エルフェリアは遺跡と大樹が合わさったような街並みだ。街は階層毎に分かれており、東西南北の入り口から大きな階段が真っ直ぐ中央の大樹へと向かって伸びている。


 乗っていた馬車の荷台が切り離される。そして、商人が馬を休憩所へと繋ぐ。商人が近くにいるエルフ兵へと話しかけると、エルフが「岩の精霊」を召喚した。


「すごっ! ねぇヴィダル! なんか岩でできたヤツが運んでくれてる!」


 レオリアが物珍しそうに荷台から顔を出した。岩でできた人型精霊が、馬車の荷台を担いで階段を登る。


「エルフ族は召喚魔法が得意な種族なんだ」


「え、みんな使えるの?」


「確か教育課程をクリアすると段階的に使えるようになるはずだ」


 召喚魔法学院のクエスト懐かしいな。徐々に召喚魔法のスキルツリーを埋めていくのが癖になるんだ。


 特に大変なのが「召喚魔法の核」が必要な上位以上の魔法。核を持つ者しか使えないというその設定がまたくすぐられるんだよな。


 説明しながら俺は感動していた。モニターを通じて見ていたエルフの街。そこに今俺はいる。しかも、精霊召喚の魔法を目にしてるなんて。


「あ! ヴィダルが笑ってる!」


 レオリアが急に体を寄せて来る。


「なぜ寄って来る?」


「ふふふふふふ。可愛い顔だったから」


 ニヤニヤと笑うレオリアは興奮の為か、また眼の擬態魔法が解けてしまっていた。


 これは……また気付いて無いな。


 戦闘時からは到底考えられない一面に笑いが込み上げる。その両眼に手を当てて魔法をかけ直した。


「どうしたの?」


「顔が緩み過ぎだ。擬態魔法が解けていたぞ」


 レオリアの獣耳がピクリと動く。直してやろうとしたのに、その顔はさらに緩み切ってしまった。


「ああああああ! ヴィダルヴィダルヴィダルヴィダルヴィダル好き好き好き好き!! 今日は同じ部屋で寝ようね?」


 ……やはりためらいが無いな。俺のせいだが。



◇◇◇


 荷台を降りて宿屋の手配をした。その後街の中を歩いて周り、ギルドを覗き、酒場に入る。


 酒場の中はエルフだけではなく冒険者の他種族で溢れ返っていた。カウンターに座り、バーテンとして働いているエルフの男性に声をかけた。


「この国のことに付いて知りたいんだが」


「おや、この国は初めてですか?」


「初めてだよ〜」


 林檎酒りんごしゅを飲んで上機嫌のレオリアは放っておいて話を続けた。


「この国は評議会で運営されると有名だが、どうなんだ? 下々の意見まで取り入れられているのか?」


「うぅん……バーテンの私に聞かれましても……」


 バーテンが困った顔をした時。レオリアの横に座っていた男が声を上げた。


「全然ダメだよこの国はよぉ」


 それは短髪のエルフだった。学生に見えるほどの若さ。どう見ても若年層のエルフだな。その男が酔って顔を真っ赤にしながらうわごとのように呟いていた。


「いい加減にして下さいリオン。毎日毎日そうやってお客様に絡むのは」


 バーテンダーには「問題無い」と伝え、リオンと呼ばれた男へと話しかける。


「何がダメなんだ?」


「エルフは召喚魔法が得意なのは知ってるだろ? 評議会の奴らはな。それを独占してんだよ」


 ……ここでも俺の知っている世界と齟齬そごがあるな。エルフの召喚魔法は開けた技術のはずだ。元に魔法学院で召喚魔法を教わるクエストをやった事もある。


「なぜ?」


「評議会の年寄り連中はよぉ。召喚魔法を管理するとかいう名目でその技術を公にしねぇの。有益に使う方法なんていくらでもあんのに」


「つまり。召喚魔法は評議会関係者の既得権益きとくけんえき化しているということか」


「ヴィダル。既得権益って何?」


「一部の人間だけが召喚魔法の恩恵を受けられるってことさ。このリオンという男が勝手に召喚魔法の技術を使って金儲けしようとしても、できないってことだ」


 リオンが残っていた林檎酒を飲み干した。


「召喚魔法で商売するのも評議会に金払って教育を受ける必要があるし、それで商売を起こしても手数料を払わなきゃいけねぇのさ。後は軍関係ぐらいだよ召喚魔法を使えるのは」


「ふぅん。よく分かんないけど可哀想」


「何をやろうとしても許可許可許可。金金金。だからこの国は他の国よりも後れちまってんだよ。1番可哀想なのはフィオナさんだっ!!」


 リオンが机を叩く。


「フィオナとは? なぜ可哀想なんだ?」


「フィオナさんはなぁ……天才なんだよ……いっつもみんなの為に研究してんだよぉ。でもよぉ。評議会のヤツに良いように扱われてさぁ」


 天才? 研究?


 俺の頭が回っていく。この男の話だと召喚魔法は評議会に実質独占されている。ならば、その反対……若年層のエルフの中に「革新」を求める者も生まれるのではないか? 技術革新への欲望は抑圧された環境への反発から生まれてもおかしく無い。


「俺は……助手として情けねぇぜ。何もできねぇなんてよぉ」


 顔を真っ赤にしたリオンが突っ伏する。


「そのフィオナという者はどこにいる?」


「あ? 魔法学院近くに住んでるよ……でも今行っても会えねぇよ」


「なぜだ?」


「評議会で審議中なんだよ。開発した召喚魔法がよ。ヤベェシロモノだって言われて……結論が出るまで自宅に軟禁されてるみたいなもんだよ」


「その召喚魔法には『核』はあるのか?」


 『召喚魔法の核』を出した途端リオンが身を乗り出した。


「良く知ってるな! フィオナさんの作る魔法は核が必要な物ばっかだぜ」



 フィオナの作る上位召喚魔法……か。



 これは使えるかも知れないな。

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