エルフェリア内乱編

第17話 エルフの国へ

 ——ルノア村がデモニカの物となってから2週間後。


 畑へと目を向けると、カイルが他の者へ指示を出していた。村の獣人達は皆良く働き協力し合っている。その姿はエリュシア・サーガで見た獣人達の姿に近く、それを見るだけで安心感を覚えた。デモニカへの信仰という要素は加わってはいるが。


 川沿いを歩きながらエルフェリアの征服計画へのことを考える。


 エルフの国「エルフェリア」は評議会により運営される国だ。ゲームから多少の変化はあろうとも、そこは変わらないだろう。となると、この村のように1人の支配者を打倒するだけでは俺達の物にはできないな。


 ……ううん。どうした物か。


「ヴィダル〜!」


 考え事をしていると、急に聞き慣れた声がして後ろから抱きつかれた。


「レオリアか。盗賊の後始末は終わったか?」


「うん! ちゃんとアジトを見つけて火を放って来たよ!」


「生き残りはいたか?」


「いなかったよ。周囲の匂いも馬車を襲った奴らのしか無かったし」


「愚問だったな。すまん」


 レオリアが頭を差し出して来るのでそのみどりの髪を撫でる。


「ふふ。好きだよヴィダル」


「ためらいが無いな」


「そんな物もう無いし〜」


 罪悪感は抱くが、レオリアが嬉しそうにしている姿を見ると少しだけ救われるな。


「ね、ヴィダル?」


 レオリアが赤い瞳で覗き込んで来る。


「考え込んでたでしょ?」


「よく分かったな」


「そんな匂いがしたからね。うんうん唸ってても仕方ないよ。この村の時も中に飛び込んでから色々考えたでしょ?」


「……まぁな」


「ほら、だからエルフェリアに先に入り込んじゃおうよ」


 確かに一理、ある。相手が大国だからと言って慎重になり過ぎてもいけないな。自由に動く為に秘密裏に村を手に入れたというのに。


 それを活かせていないな。レオリアに教えられるとは。


 そろそろ、動くか。



◇◇◇


 翌朝。


 冒険者へ扮した俺達は村へ来た行商人の馬車に乗せて貰い、エルフェリアを目指した。


擬態魔法ディスガイズって便利だよね。こうやってみると前の僕と全然変わんないもん」


 レオリアは剣に反射した顔を見つめ、普通の眼になったことを何度も確かめていた。


「ね、デモニカ様に貰ったの見せてよ! 赤い綺麗なヤツ」


「赤い? これのことか?」


 懐から赤い宝玉を取り出す。


「そうそう。いいなぁ〜僕も欲しいなぁ」


 レオリアは俺の膝に頭を乗せ、ウットリした表情で宝玉を覗き込んだ。


「これはデモニカ様の所へ人を導く為の物だ。俺達血族の者が使うアイテムでは無い」


「そうなの? 魔王軍のスカウト用ってこと?」


「そうだ」


「ふ〜ん。でもヴィダルの側近は僕だけだからね!」


 彼女が頬を膨らませる。


「俺の直属部下はレオリアだけだ。次に引き入れるとすれば、俺と同列の幹部になる」


「それって、僕は幹部になれないってこと?」


「いや、レオリアの戦闘力は俺に絶対的に必要な物だからな。俺のエゴだ。すまない」


 レオリアが頬を染めながら耳を小刻みに動かした。


「ふ、ふ、ふふふふふふふふふふふふ……」


 レオリア……顔を崩しているせいで眼の擬態が解けてしまっている……。


 それとなく擬態魔法をかけ直した。


「エルフェリアまでは2日程度。あくまで冒険者として入り込む。まずは社会構成の確認だ」


「アレでしょ? を見つけて、それを大きくするのが僕達の役目って言ってたよね。歪みが無かったらどうしよう」


「必ずある」


 レオリアが瞳を丸くした。


「なんでそう思うの?」


「勘だよ」


「えぇ〜? ヴィダルらしく無いなぁ」


 彼女は不思議そうな顔をしていたが、俺にそれ以上の答えが無いと諦めたのか、剣の手入れを始めた。


 獣人達の件でハッキリと分かった。人が生きるという中には必ず支配する者とされる者……虐げる者と虐げられる者が生まれる。それはこの世界でも例外では無い。


 エルフは長寿の一族。それはまず間違い無い。ということは、権力は老人へと集約し、若年層が虐げられる側となっているだろう。そこに必ず歪みがある。


「ふっ」


「どうしたの?」


「いや、ちょっと思う所があってな」



 老人が支配している国……か。

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