Ⅵ 死屍 

 首の長い花瓶に水を注ぐと、こぽぽ、と間抜けな音が鳴った。


 花瓶を携え、魔女は弟子の部屋を訪れる。


 人が住んでいる気配はない。部屋の主はベッドの上で、眠るように死んでいた。とうの昔に肉は腐り落ち、真っ白な骨を晒して。


 窓辺にあった桜の枝を、持ってきた花瓶に挿し替える。



「あなたが死んで、三度目の春よ」



 囁くように言って、一度キッチンに向かった。ティーセットとガラス瓶を用意して、再び部屋に戻る。


 小瓶に封された薬汁が、ちゃぷんと音を立てた。


 ベッドの傍らのテーブルにトレイを載せて、ひとつだけ置かれた椅子に座る。紅茶を二杯淹れて、片方をベッド側に、もう片方にはガラス瓶の液体を注いでから自身の前に置く。



「今日、庭先で真っ赤なスイートピーが咲いたわ。すごくいい香りがするの。二年前に植えたものだから、あなたは見たことが——」



 ひとしきりお喋りしてから、お茶を一気に飲み干した。喉が内から引き裂かれ、心臓が裏返るような痛みが走る。


 だが苦しいのはほんの一瞬で、すぐに毒は効かなくなる。



「……いい加減、私も地獄で眠りたいわ」



 弟子と一緒に不貞寝しようと、魔女は勢いよくベッドに飛び込む。その拍子に弟子のどこかの骨が吹っ飛んで、手つかずのティーカップの中に入って飛沫を上げた。

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