Ⅶ 残滓

 桜の苗を鉢から取り出して、土に植え替えて水をやる。この作業も慣れたものだ。


 不意に風が吹いて、一斉に花吹雪が舞う。髪の毛についた花片を取ろうとして、以前も同じようなことがあったのを思い出した。


 あれは彼が亡くなる何年前だったろうか。一緒に花見を楽しんだ、しあわせな時間。

 魔女の髪についた桜を取ってくれたその手は活力にあふれていただろうか、それとも皺くちゃだったろうか。


 その時に見た——彼にもらった一本の桜。今は桜の海に埋もれてしまって、どれかわからない。もしかすると、とうに枯れてしまったのかもしれない。


 摘んだ花弁を手放すと、ひらひらと舞いながら墜落していく。


 そういえば、もうずっと弟子の部屋に行っていない。身体の腐食が進み、触れると崩れてしまいそうで怖くて。開かずの扉になってしまった。


 魔女は梢を切るための鋏を、家に取りに戻ることにした。


 地面に落ちた花びらは踏みつけられ、烙印のようにへばりついていた。

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