第34話 攻略イベント ②
「……」
「……っ」
いかん、黙ってしまった。こういう空気って良くないよな。
なんか友達の友達と遊んでいる時に、共通の友達がいなくなったときみたいな気まずさに近い。おかしいな、ルームメイトのはずなのにな。
ただ今回に関しては主に三春が間を取り持つように動いてくれていたから、彼女がいなくなってこうなるのは当然と言えば当然だった。
こんなんじゃダメだ、行動しないと。
「あそこのお店、うまかったな」
「そうね」
……。
「ま、また行きたいな~♡」
「えぇ、そうね」
……。
……あれ?
おかしい、間が持たない。
相槌は打ってくれるんだけど話が広がらない。きついぜコレは。
「あ、門限が来る前に帰らないとな。急がないとバスが──」
「ねぇ柏木くん」
「ハイッ!」
話を遮るように声を掛けられ、思わず肩が跳ねた。
なんだか緊張して目を合わせることが出来ない。
俺は少し先にある街灯を眺めながら、彼女に話の続きを促した。
「ど、どした」
「わたしに優しくするのは……未来のため?」
「っ!」
急な冬香の発言に対し、俺は肩だけじゃなく心臓までもが飛び跳ねてしまった。
胃がキリキリし始めている。
事情を話したとはいえ、こんなことを言われてしまうほど俺はあからさまな行動をしていたのか。
「そ、それは……」
「話していたものね、未来を救いたいって」
冬香の顔を見れない。
彼女の声音は非常に落ち着いたものではあるが、逆に言えば俺の思惑を悟っている可能性もあるということでもある。
「例えば……そうね、物語のヒロインといったところかしら。自分で言うのは恥ずかしいけれど、未来を変えるために必死な貴方が時間を割いてまで構うってことは、わたしもその中の一人ってこと。……なのかな」
「……そうだ。分かりやすく言うなら、だけど」
無意味な補足。的を得た発言に狼狽して、咄嗟に否定ではなく肯定をした。
俺はキミを物語のヒロインとして見ています、という最低な告白をしてしまった。
言われるならどんな言葉だろうか。
人間として見ていないのか、かな。それとも気持ち悪いとか?
どちらにせよ、一歩離れたところから見ているという発言は、彼女の意志を無視した上から目線でしかない。
キミを思っての事じゃなく、世界のためにわざわざお前に構ってやってるんだ、なんてセリフと何ら変わりないのだ。ピンチだぞこれは。
「大丈夫よ」
「……?」
何が。
「うん、分かってる。柏木くんが本気なのは、わたしも理解している。あの戦いぶりを見たら誰だってそう思うわ」
「ふ、冬香……?」
「心配いらないわ。協力するから、何でもいって? あなたを死にそうになるまで追い詰めたのだから、それくらいの贖罪はさせてほしいの」
「ちょ、待てって……!」
こちらの方へ体を向け、もはや押し倒すほどの勢いで俺に迫ってくる冬香。
揺れた黒髪から香る柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
近い。
顔が近い。
この距離感のバグの原因は何だ?
俺はそこまで冬香を追い詰めていたのか。
「こうして気を遣ってくれなくても、言ってくれたらわたしは柏木くんを好きになる。いいえ、大勢の生徒を救ってくれた貴方には本当に強い好意を抱いているわ。頼って。危険なことをするつもりならわたしが代わりにやってあげる。そうね、もし肉体的接触が必要なら、今すぐ服のボタンを外すわ」
「お、おい」
「どうすれば未来を救えるの? 一緒に戦えばいい? あなたの女になればいい? この場で今すぐ自決をすればいい?」
「待てっ、落ち着けって!」
彼女の両肩を掴んで自分から離し、怒鳴るように声を荒げた。
冬香は一瞬だけビクつく。怖がらせてしまっただろうか。
でも俺のだって怖い。冬香の変貌ぶりにはつい鳥肌が立ってしまったほどだ。
情けないが今すぐロボか山田に相談したい。
だが、そんな猶予は存在しない。
「……ハァ」
──弱音を吐いている暇はないと切り替え、俺はまっすぐ冬香の顔を見つめた。
「急にどうしたんだよ。……不快にさせたのなら、謝る」
「……違う。そうじゃない。全てわたしが悪いの」
冬香が俯き、パサリと黒髪が前に流れる。表情が読めなくなってしまった。
ただ、声音からは彼女の痛みが伝わってくる。
三春がいるから平然な姿を振る舞っていたのだと、瞬時に理解できてしまった。
百合尊いだとかいつものようなくだらない事すら考えられず、目の前にいる今にも崩れ落ちそうな少女の弱さを、肌で感じ取ることができてしまった。
まいった。このままだと攻略なんて夢のまた夢だ。
何か方法を見つけなければ──。
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