第31話 迫りくる珍イベント ③

 



 結論から言うと、三春は尊い犠牲として暴走した女子生徒たちの餌食になった。


 俺を逃すために彼女らの前に立ちはだかり、多分おそらくきっと今も脇や太ももや足の裏を、ベロンベロンに舐められまくっていることだろう。合掌。

 まぁアニメの時よりは精神が成長しているはずだから、あと数刻は泣かずに持ち堪えてくれることだろう。なんとしても三春がギャン泣きする前に事態を収束しなければ。


 ──で。


「なんで俺が先輩を背負って走る事になってるんすか……!」


 今現在、俺は天才合法ロリっ子博士こと小倉秋乃を背負いながら、武器を持って実験体のビーストを追っているのだ。

 本当にちゃんと飯食ってんのかってくらい軽い先輩を、どうして運びながら化け物の討伐に奔走することになっているのか。


 それはアニメの時と同様、この事態の収拾を図れるのが、冬香を除くとこの秋乃しかいないからである。


 大前提として逃げ出した実験体を担当していたのは秋乃だ。

 そもそもの話として、実験を行なっていた研究者として責任を持って、このギャグ回事件は秋乃が解決しなければいけない。

 しかし秋乃は天才キャラらしく体力があまりにも貧弱なため、移動手段としてこの俺が活用されているワケだ。


 ていうか俺、男の状態に戻されてるんだが。


 女の子状態じゃ戦闘面で話にならない、という理由でだ。

 わざわざ布切れを被ってまで正体を隠しながら、バケモノを追っている。


「能力を使うと学内の被害がひどいことになってしまいますから、単純に力が強い男の子状態の後輩くんに頑張ってもらわないとなんです。……ていうか僕、重くないです?」

「はァッ、ハァ! いやまぁっ、めっちゃ軽いんでそれは大丈夫ですけど!」

「タイガ、博士のおっぱいの感触はどうですか?」

「っ!? こ、こらロボっ、やめてください……!」


 秋乃と違って体力がほぼ無尽蔵なロボが隣から声をかけてきた。内容は非常に低俗なものであったが。

 これなんて答えた方がいいんだ。

 胸の感触は正直無いに等しいんだけど、ちっぱいの気になるナニかがあるのは否定できない。

 正直に答えた方がいいのか、秋乃に気を使って照れた方がいいのか。ぶっちゃけ走り続けてるせいで疲れてるのでそれどころじゃない。


「お前なんてこと聞きやがるんだよバカ……!」

「全くです。……どきどき」

「きゃっ、照れてる博士かわいい」


 本当に照れてるやつは口で擬音を言ったりしねえんだが。

 てか最低な助手を持ちましたね博士。

 少なくともロボの言葉に乗るべきではないことは理解しました。

 ここはもう話題を変えて誤魔化しちまおう。俺はちっぱいでも素晴らしいと思うが、わざわざ答えたらメスガキが調子に乗りやがる。


「てか男状態の俺がバレたらヤバくないですか!」

「顔は隠れてるから大丈夫です。学内の生徒たちもてんやわんやで余裕がないですし、早いとこ片付けて女の子に戻りましょう」


 戻るって言い方、引っかかるなぁ。

 本当の性別で言えば俺は男だぞ。

 

「タイガ、もうこの際メス堕ちして完全に女の子になっちゃいましょ。私と博士の百合ハーレムで、女の子の気持ちよさを教えてあげますよ」

「もの凄く興味を惹かれる提案だが、現状を鑑みると却下としか言いようがないな」

「あ、興味は惹かれるんだ……」


 そりゃもう命を賭してでも進みたいルートだが、今の俺の命は俺だけのものじゃないからそんな判断は出来ないんだぜ。全てが終わったらメス堕ち百合ハーレムの件よろしくな。

 

 さておき、何よりも優先すべきはあの実験体の排除だ。

 これ以上被害が拡大したら、ヒロインの攻略どころの話ではない。

 それに事故とはいえ秋乃の起こしたこの不始末を尻拭いしてやれば、彼女からの好感度も多少はどうにかなるかもしれないのだ。俺には逃げるという選択肢が存在しない。


 冬香が巻き込まれる前に、一刻も早くあのエロモンスターを何とかしなければ。


「で、今追いかけてるあの変態モンスターはどうすればいいんすか!」

「実験段階では、あのバケモノはお湯に弱かったはずです。大浴場のシャワーや風呂の水に当たれば、瀕死になってそのまま身動きが取れなくなるかと」


 仮にも人類を追い詰めてる脅威のはずなんだけど、本当にお湯なんかで動きが止まるのだろうか。不安でしょうがない。


「実験の副産物ですよ。ともかく僕たちでやるしかありません。バケモノが止まれば、次第に毒も効力が切れていきます」

「では博士、ヤツを大浴場に誘い込むとして、どうやるのですか?」

「服を脱いでください」


 急に頭がおかしくなったよ、この合法ロリお姉さん。


「あ、言葉足らずでした。あの実験体は露出している肌に対して過敏に攻撃をするんです。スカートの影響で生脚を狙われている他の生徒よりもこちらにヤツを集中させるため、余計に肌の露出を増やす必要がありまして」

「ふむ、流石は博士。人間にとってはかなり厳しいミッションを平然と課してきますね」

「はぁ……クソ、やるしかねぇか」


 ええい、この際やむを得ん──という事で逡巡することもなく、俺はワイシャツを脱いで上半身を裸にした。

 ……しかし、前を走るバケモノは食いついてくる気配もなく前進を続けている。おかしい。


「おいどうなってんだロリっ子」

「むむ。もしや露出が足りない……?」


 もしかしてズボンも脱げってのか。

 そうか、ここが地獄か……。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る