第29話 迫りくる珍イベント ①



 ──突然だが、輝く翼のアルレイドというアニメには、本編とはまるで関係ない話が何話か存在する。


 二クールもあるアニメなのだからそれくらいをやる余裕があるのは分かるが、問題はその話がこの世界で実際に起きていたかどうか、という部分である。


 アニメの原作となった博士の資料が手元にないため、あのギャグ回やほのぼの回がアニメ制作側の意図なのか元から資料にあったのか、皆目見当がつかない。

 ロボに聞いても「それは知らない」とのことだった。助手だったロボとはいえ、博士の記した情報のすべてを所持しているわけではないらしい。


 では何が問題なのか。


 ──当のギャグ回が「エロ」のゴリ押しだということが、何よりも問題なのだ。


 ちょうどその話は大規模戦闘が終わってから数日後に発生する。

 つまり今日か明日か明後日か、だ。


(それ、どういう内容なんです?)


 午前中の訓練が終了し、購買に向かう途中でロボが話しかけてきた。

 いいだろう、この際だから教えてやる。アルレイドのギャグ回の恐ろしさをな。


(まず実験用に捕まえてた小型のビーストが逃走する)

(あんまり問題なさそうです)

(その実験体は毒を持っていて、喰らったやつは全身が痺れる)

(まぁ痺れて動けなくなる姿は多少えっちかもしれませんね)

(しばらく経つと毒を喰らった人間は性欲が爆発する)

(急にバカ)


 こんな感じですわ。


(ちなみにアニメだと、主人公の三春が同級生に太ももや脇を舐められまくって泣いてた)

(それ制作側の趣味が出てません?)


 俺もそう思う。アニメ観たやつみんなそう思ってたと思う。やけに作画枚数が多くてヌルッヌルに描写されてたしな。エロアニメかと。


(放送コードに引っかかるから直接的なエロ描写をしなかっただけで、もしアレが現実に起きるものだとしたら相当ヤバイんだよ……)

(脇と太ももを舐め回すのも、ぶっちゃけ放送していいものか疑わしいですけどね)


 あのギャグ回を乗り切らないと、おちおち学園生活も送れやしない。

 ていうかアニメと違って、まだ精神的に救われてない冬香とかが巻き込まれたら本格的に詰む。対処は早急に、だ。


(ちなみにアニメだと誰が解決していたんですか?)

(冬香……)

(困りましたね……)


 そう、アニメと同じような活躍を、精神が不安定な今の冬香に解決を求めるのは、あまりにも酷なのだ。俺たちだけで何とかするしかない。

 ……あ。でもそういえば。


(もう一人いたんだよ、冬香のサポートしてたの。ちょくちょく出番のある研究者っぽいキャラの女の子。……名前なんだっけな)

(現状から推察すると、それたぶん博士ですね)


 あの人そんなことしてたのか。見た目とかだいぶ違ったけど。


(百合に挟まるヤツは極刑! とか言ってるお方ですよ。その出来事が実際にあったと仮定する場合、博士は冬香を目立たせるために自分をほぼモブみたいなサブキャラとして、資料に書き記した可能性があります)

(天才のくせに自尊心低いんだよな……)

(博士は謙虚ですから。天才キャラが誰もかれも『私は天才だフハハーッ!!』って言いながら白衣を翻すと思ったら大間違いです)


 秋乃先輩、想像以上に慎ましやかなおひとだったらしい。天才だからって変な先入観で見るのはよくないね。

 さて、とりあえずギャグ回についてだが、まず実験用のバケモノを脱走させなければそれで済む話だ。

 簡単に食えるメシ買ったら、実験室に行って様子を見てくるか。



「あっ、柏木さん」



 あっ! やせいのミハルが あらわれた!


 なんかよく分からないとこで好感度が下がったり上がったりする謎の美少女くん、今はキミの相手をしている場合ではない──なんて言えるはずもなく。


「こ、こんにちは♡」


 努めて普通に対応する。

 女状態だし、正直油断してたからハートも出てきちゃった♡

 昨日の今日ということもあって、三春とのコミュニケーションはやはり緊張してしまう。どきどき。


「柏木さん、これからお昼?」

「ま、まぁ」

「それなら一緒に食べよ。冬香さんの事で、ちょっと話したかったんだ」

「わかった、食堂でいいかな」

「うんっ」


 はぁ~~~? めちゃくちゃ笑顔なんですけど、なにこの子かわいい。


「……えへへ」


 おいおいおい死んだわ俺。なに無邪気な笑顔晒しちゃってんの?

 なに。何だよ三春ちゃん、お前ちょろインか? もしかしてお前俺のことが好きなのか? 俺もだ……。


(また童貞特有の勘違いですか、芸がないですね)

(芸じゃないんだよ)

(本気なんですか?)

(仲良くなれなさそうだったかわいい女の子が、自分に対して心を開くようなったって感じたときの男子の気持ち、お前にはわからないよな。悪かった)

(謎の上から目線……困った童貞さんですね)


 うるせぇなブリキ野郎がよ。

 お前なんか処女って概念すら無ぇだろうが、鉄の塊め。


(どうやら戦争がお望みのようで)

(やるかポンコツ?)

(あまり調子に乗らない方がいいですよ、生殺与奪の権は私が握ってるんですから)

(俺が追放されて困るのはお前だぜ。やれるもんならやってみろ)


 心の中で不穏な空気が流れ始める。

 俺とコイツはもはやバッチバチの対立関係だ。


(モテていると勘違いして判断力が鈍っているようですね)

(最近相手にされなくて拗ねてんのか? かわいいやつだな)

(私とキスしてた映像、三春に見せてもいいですか?)

(ふふふ、お嬢さん。一旦ボクとお話をしようか)


 冷静に考えたら俺の方が圧倒的に立場が弱かった。羞恥ネタで揺するの勘弁してください。


(すみませんでした……)

(それよりギャグ回の事どーするんですか。食堂行ったら研究室には向かえませんよ)

(だって断れないだろ!?)

(ごめんなさい。急にキレないで)


 どうしようもなくそのまま三春に連れられること数分。

 俺は食堂に到着し、カレーを注文してついに席にまで座ってしまった。もう逃げられないねぇ。

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