第25話 共通ルート ③


「……で、二人して超激辛ラーメンを食べて、お尻が死んでいる、と?」

「はい、そうです……」

「博士~♪」


 後日、博士こと小倉秋乃が自宅みたいに使っているあの研究室にて。

 冬香と食べる前にラーメンの辛さに慣れておこうという話になり、三春と二人で件の食べ物とバトルしたのだが、そのおかげで今日は腹痛とケツの穴がめっちゃヒリヒリしているのだ。

 ロボのメンテナンスついでに話したわけだが、ごらんのとおりセンパイには呆れられている。


「あぅ。博士、くすぐったいです」

「調整中ですから動かないでください、ロボ。……まぁ、冬香ちゃんを元気づけたいのは分かりますけどね」


 座っているロボの背中をなにやら弄りまわしながら秋乃に言われ、あの行動は間違いではなかったんだと安堵した。

 少なくとも冬香がどれほどのレベルの辛い物が好きなのかは理解できた。アイツ内臓が強靭すぎるだろ。


「三春ちゃんもキミと同じ状況?」

「えぇ、半泣きでした」

「ふむ。……彼女がお尻の痛みで半泣きになってるの、少し興奮しますね」

「しないが」


 やはりロボの生みの親だけあって、倫理観は世の人々から九十度くらいズレているようだ。

 こいつ放っておいたらヤバイ道具で女子生徒を襲いそうで怖い。信用したく無くなってきた。


「それはさておき。柏木くん、ロボとの調子はどうです?」

「調子……? えぇ、まぁ変身とか戦闘においては問題ないですけど」

「そうじゃなくて、仲良しさんかって話です」


 仲良しさんって言い方が可愛いと思った。小学生並の感想。


「最悪ですよ」

「おい」


 聞き捨てならねぇな?


「タイガったらもうダメダメです。私がいないとなんにも出来ませんから」

「重要な場面は全部俺に丸投げしてるよな? お前”はい”と”いいえ”しか言ってなかったぞ」

「状況整理をしてあげてるのは私です」

「実際に行動してるのは俺なんだよ」

「……生意気な口をきくようになりましたね」

「お前はその上から目線をそろそろ止めろ、ポンコツ」


 ……喧嘩勃発!


「このっ」

「やるかテメェっ!」


 そして取っ組み合いが始まった。この戦いにだけは負けられない──



「……つぎ研究室で暴れたら、二人ともスクラップにしますからね」

「すみませんでした先輩……」

「ごめんなさいでした博士……」


 もの凄いスピードで俺たちを制裁した先輩。俺とロボの頭の上にはタンコブが一つずつできていた。

 口は笑っているものの目が笑ってない。研究室を荒らす者を前にした時の研究者、めちゃこわいぜ。


「……ま、仲は良さそうで安心しましたよ」

「だ~いすきですよ、タイガ♡」

「俺もだよ、相棒♡」


 ぎゅっと抱擁。また喧嘩したら今度こそ殺されるため、俺たちは合図もなく一致団結した。


「そういうのいいですから。本当は二人ともお互いを信頼しあっているのは十分に分かってます。大規模作戦での映像も見てましたが、もう息もピッタリみたいですね」


 ──ッ!? 大規模作戦での映像!?

 ま、まっ、まさかあの膝枕や水分補給キスを見られていたというのか。そんなの恥ずかしすぎて今すぐ寝込んでしまいたいくらいなんだが。やばい、しぬ。


「ひん……っ」

「タイガ。戦闘中の映像の話だと思いますよ」

「っ!!!! ……はぁ、よかった」

「えっ? 何でさっき顔を赤くしたんですか?」

「何もないです」


 あれは俺たち二人だけの秘密だ。あそこまで弱音を吐いて甘えた事実は絶対に墓場まで持っていく所存。


「……ふふっ。未来での事とはいえ、人に寄り添えるロボットを作れた。僕はすごくうれしいです」


 優しく微笑む秋乃。

 クソ、白衣を着た典型的な合法ロリっ子お姉さんのくせに、けっこう可愛いじゃねぇかこの美少女め。

 はい、童貞は簡単に惚れちゃいました。先輩が無邪気な笑顔を見せたせいです、あ~あ。


「確かにそういう風に設計されましたが……でも、それだけではありません」


 正座したままロボがこっちを向く。なんですか。


「この人もまた、私に寄り添ってくれた人です。何だかんだ言って、結局逃げる選択肢を取らないお人好しなんです。猪突猛進です」


 なんかちょっとチクチク言葉が混じってた気がするけど気のせい?


「……そっか。うん、よかった」

「えっ、ちょ、秋乃先輩?」


 先輩が俺の前にたち、手を伸ばす。

 そしてそのまま──撫でられた。


「よしよし」

「……子ども扱いですね」

「違いますよ、これはお礼です」


 頭を撫で、頬っぺたを撫で、しまいには顔をぎゅっと抱きしめやがった。

 ちょっと待ってくれ。これペットに対する接し方じゃね? 猫じゃねえんだぞ。

 ていうかさりげなく胸に埋めるのやめてください。モブ出身の一般童貞なんで、そういうことされると(あれコイツ俺のこと好きなんじゃね……?)って勘違いしちゃうんですよ離して。


「ロボと仲良くしてくれて、ありがとうございます。柏木くん」

「……どういたしまして」


 やっぱりこういうのには、慣れないな。


「見事ですタイガ。好感度アップですね」

「お前ホント一回黙ってろよ」


 昨日から今日にかけて、俺は三人の少女とそれぞれひとりずつ触れ合うという、いかにも共通ルート染みた二日間を過ごしたのであった。



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好感度一覧


 三春: 8

 冬香:35

 秋乃:12

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