第23話 共通ルート ①
とりあえず彼女たちを寝かせたあと俺は退出し、博士こと秋乃の様子を見に行ったのだが──
(秋乃は落ち着いてたな。さすが先輩だ)
(えぇ、博士のメンタルは鋼ですから。ふんすっ)
(何でお前が自慢げなんだよ)
今現在はアレがあった翌日のお昼で、俺は購買で手に入れたアンパンを胃袋に詰めながら、屋上のベンチで暖かな風に当たっている。
あんな大規模戦闘の後という事もあって、今日から一週間は授業もないため、なんというか手持ち無沙汰だ。
ちなみにちゃんと女の子には変身してます。
──三春も冬香も未だに眠ったままだ。
秋乃は三年生ということもあって、大規模な戦闘が終わったあとの後処理に追われている。
生徒がやる事ではないと思うのだが、秋乃ほど天才で優秀だとそうも言っていられないらしい。先生に片付けを手伝わされるクラス委員長みたいだと感じた。
(この状況で攻略とか無茶だろ。難易度が高すぎるわ)
(冬香に関しては、高いのは好感度ではなく罪悪感でしたね)
その通りだ。
アレは俺への関心が強まったのではなく、自分が与えた条件のせいで俺が無茶をしたと思い込んで、自責の念に駆られてしまっている。
やっぱりああいった本格的な失意の状態にあるヒロインへの対処は、俺ではなくて本当の主人公たる三春に任せた方がいいんじゃなかろうか。
(冬香のことを三春に任せるのは、得策ではないと思います)
(え、何でだ?)
(見て分かる通り、三春は一週目の天衣無縫な主人公然とした明るい彼女ではありません。あぁなっている以上、冬香だけでなく三春のメンタルケアもする必要があるかと)
無茶ぶりにも程があるんだよなぁ……。
そんなに言うならアドバイスも言って、どうぞ。
(まずは冬香からいくべきだと思います。タイガに対しての罪悪感が高いのは事実ですが、それと同じくらい『生徒のみんなを守ってくれた』あなたに対して、恩義や好感を抱いているのも確かなはずですから)
(守った、って……怪我人出てるんだぞ?)
(鈍感なヒトですねアナタは)
鈍感ですまんな。
お前がいなきゃ俺はダメダメなんだ。
(昨日の会話の時点で十分わかったでしょう。あの戦いでタイガと同じレベルの重傷者や、ましてや死傷者が一人も出なかった時点で、冬香から課されたミッションは達成してるんです)
(そうなのか?)
(間違いありません。冬香自身も多少の怪我人が出たことに関しては問題にしていないでしょう)
いいですか、とロボは一拍置いて。
(大事なのは冬香を許すことだけではなく、罪悪感やあのシリアスな雰囲気を吹っ飛ばす、なんかでっかいイベントを起こすことなんです)
(なんかでっかいイベント、って言われてもな)
(そこは前回の……というかアニメの主人公だった三春を参考にしましょう。作戦立案タイム、スタートです)
そしてついに、ロボの言葉に相槌を打つだけだった俺に、思考のターンが回ってきた。逡巡の時間だ。
ふむ。
今までアニメやゲームなどの作品で得た経験から考えると、多少バカっぽいことをして冬香を笑わせるのがいい、という結論自体は出ている。
しっかしその肝心なイベントそのものが思いつかないんだな、これが。
輝く翼のアルレイドからの情報は、冬香は辛い食べ物が好きというものくらいだ。
そもそもアニメだとあの大規模戦闘中に、三春は冬香をしっかり落としきっているから、あのあとやっていた冬香とのデートとか誕生日イベントはあまり参考にならない。
そう、日常の中でクソ落ち込んだ冬香の心を解きほぐすイベントはやっていないのだ。ここがこの俺、柏木大河のオリジナリティの試しどころさんか……!
「……ぁっ、あの、柏木……くん」
──なんと綿密な作戦を考える前に、屋上に
いつの間に目を覚ましていたのだろうか。まさかこんなに早くヒロインと接敵するとは。エンカウントのタイミングが読めなさすぎるぜ。
「ぅ……え、えと、わたし……っ」
「おはよ♡」
「えっ? ……ぁ、え、えぇ。おはよう」
ええい、こうなりゃ当たって砕けろだ。途中でハートが出ようと知ったことじゃない。
エロゲでルートに入ったヒロインを攻略するとき、狼狽しまくる主人公なんてのは居ねぇんだ。
こう、なんか主人公らしく余裕たっぷりな雰囲気で、うま~い具合にこの場を切り抜けてやるぜ。
「冬香も昼メシか?」
「一応……簡単なお弁当は、持ってるけど。……二つ」
やばいよ弁当二個持ってるじゃん。
さっきの話しかけ方からしても、明らかに冬香から頑張って俺を誘おうとしてた雰囲気だ。
俺は黙っておいて、冬香に勇気を出させるべきだったのか?
わからん。なんも分からん。もしかして既にミスっているのか。
自分で言葉を生み出すの大変だから、選択肢くん出てきてお願い……。
(→ はい
いいえ)
(参考にならない選択肢だな……)
この状況に置いてロボットちゃんは頼れないようだ。
やっぱり俺だけで何とかするしかない。
「昼、一緒に食べないか。ちょうど冬香と話したかったんだ」
「わたし、と……?」
少し横にずれることで、ベンチにもう一人座れるスペースを作った。今更だけど屋上にベンチがあるって変な学校だな。もはやこのイベントのために用意されてたまである。
「……うん。と、となり、失礼するわね」
「どうぞ♡」
何だこの語尾!? 邪魔くさいよォ……。
「……なに、食べてるの?」
「アンパン」
「そ、そう……」
結局このパンもどうするべきか分からず、食べかけを手に持ったままだ。
「……栄養、偏っちゃうわ。このお弁当、あげる」
「いいのか?」
「た、食べてもらうつもりで作ったから」
「へへ、ありがとな。嬉しいよ」
「喜ぶほどのものでも、ないと思うけれど……」
「冬香の手料理は初めてだし、実は前から食べたいと思ってたんだ。頂くよ」
「っ! ……えぇ、どうぞ」
うおぉぉぉ照れてるのか、それとも引かれてるのか全然分かんねぇぜ! こわい!!
しかしもう俺は自分を信じて突っ走るだけだ、勝負だクール系メインヒロインさん!
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