第22話 攻略の始まり ②


 よし、三春はもう大丈夫だ。

 それでは気を取り直して。


「冬香を俺のベッドに運んで……っと」


 机で寝たら腰を痛くしたりと諸々よろしくないので、反対側にある俺のベッドに彼女を運ぶ。


 わっ、わ、ちょっと重い。

 というか肉付きスゴイ。


 アニメの時は分からなかったし、大浴場でも常に目を閉じてたから知らなかったけど、冬香ってかなりスタイル良くてムチムチなんだな。

 締まるところは締まってるけど胸や太もものボリュームがヤバイ。

 お姫様抱っこしてると、体全体の柔らかさが伝わってくる。


(……タイガ?)

(すまん、分かってる。本能で少し反応しただけなんだ)


 相棒に怒られないよう触ってはいけない部分を気をつけつつ、しっかり彼女を抱き上げた。

 気を取り直して、冬香を俺のベッドに寝かせる。

 晴れた日はほぼ毎日布団を干してるし、この女学園に来てからは徹底して禁欲もしてるから、変なニオイはしないはずだ。


「……んっ、ぅ」


 やば、起きそうじゃん。そんなに匂いますか……?


(タイガ、ここは恐らく大切な会話イベントです。選択肢に注意してください)

(俺の会話で選択肢は出てこねぇんだよ)


 ゲーマーロボの言葉は無視しつつゆっくり彼女を寝かせて布団をかけると、それが逆効果だったのか冬香はうっすらと目を開けてしまった。お目覚めの時間だ。



「……ぁ」

「……へへっ。ど、どうも♡」



 緊張してハートマークでちゃった……♡


「──はっ、あぁ……ッ!」

「うぉっ」


 えっ、えっ。


「ぁあっ、か、柏木、くん……ッ!」


 やばいやばいやばいやばい、急に冬香が抱き着いてきた。

 俺の巨乳に顔を挟むような感じで、背中に腕を回してくっ付いてきやがった。


(こまったこまったこまったこまった)

(落ち着いてください童貞。付きっ切りで看病するほど心配していたのだから、抱擁くらい当然です)

(まて、三春と一緒に隠れたことはあったけど、女の子から抱き着かれるのは初めてなんだよ……っ!)

(はい、深呼吸、深呼吸)


 すぅ、はぁ。

 すぅ、はぁ。

 これでよし。……いまの、冬香の髪の匂いを嗅いだ感じにならない? 大丈夫かな……。


「っ、ごっ……ごめんっ、なさい、柏木くん……っ!」

「えっ……あ、謝る事ないだろ。むしろ生徒のみんなを怪我させてしまって、申し訳ない……」

「ちがっ、違うのっ」


 半泣きで縋り付いてくる冬香に、俺は困惑しかできない。

 流石に目の前で泣いてる女に興奮するほど、現実が見えていないわけではない。

 

「わたしっ、無茶苦茶なこと言った。怪我人を出さなければ、見逃すとかっ、意味わかんないこと言ってた……!」


 そうだろうか。少なくとも俺はそうは思わない。

 冬香から見ればアレくらいは言っていい状況であり、俺からしても不法侵入者でしかない俺を学園に置いてくれる条件を出してくれただけで、冬香には大いに感謝したいほどだ。


「落ち着けって。あの時お前は、当然のことを──」

「そんなわけない! ぁ、あんなの、貴方が死んでいい理由にはならないわ!」


 冬香の迫真具合にたじろいでしまう。

 どうやら俺の想像以上に、この少女は自分への責任感が強すぎるようだ。


「見つけた時っが、ガレキの山からあなたを見つけたときっ、自分を殺したくなった……! うぅっう、腕が、曲がってはいけない方向にひしゃげてて! 両足が砕けててっ、血だらけでっ……み、右眼だって──うぷっ」


 そのまま冬香はえづきを繰り返したものの、三春に聞いた通りここ数日何も食べてないせいで、何も出てこない。

 激しく咳き込んだ冬香の背中をさすり、なんとか落ち着けようと努力したが、彼女の贖罪はまだまだ止まらなさそうだ。


「みつかるのがもう少し遅かったら、あなたは──ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……! あなたに何もかも背負わせ過ぎてしまった……わたしっ、自分が情けない……っ」

「冬香、俺は大丈夫だから、落ち着いて……」


 気の利いたセリフが出てこない。

 こういう時にヒロインをどうにかできる世の主人公たち、マジで尊敬する。


(タイガ、今の冬香は)

(……そうだな、話せる状態じゃない。また後にしよう)


 ということで、冬香の懺悔を聞くだけ聞いて、彼女が泣き疲れて眠るまで俺は相手をし続けたのであった。



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