第21話 攻略の始まり ①
『まずはヒロインからの好感度を、改めて全員確認しましょう』
親友との通話を切ってから少し経って。
ペンダントに変身して俺の首へ舞い戻った相棒の一言で、これからの俺の行動方針が決定された。
そのまま人気のない夜の廊下を歩いて彼女と話しつつ、一旦自室へと戻ることにした。
まずは改めて好感度の確認だ。
廊下を歩きながらスマホを取り出して、アプリを起動してみる。
三春:10
冬香:35
秋乃: 2
……うん。
(一応いっしょに戦ったわけだから、三春の好感度はまぁ分かる)
(そうですね、妥当です)
(秋乃に関しても研究室で話して以来会ってないし、俺の素性を考えれば低いのは当然だ)
(仲間というより知り合いって感じですね)
(……冬香はコレどうなってんだ?)
さっそくこの好感度計測アプリが壊れているんじゃないかと疑いたくなる程度には、俺に対する冬香からの好感度が意味不明だった。
安代田冬香はアニメだと、メインヒロインとして主人公の三春とイチャコラしていて、この世界でもレズっ気が多そうなのは見て明らかだった。TSした俺の乳とか揉みやがるし。
それにルームメイトとはいえ俺の正体は男で、なおかつ学園に裏口入学してきた不審な人物だ。もっと警戒されていて当然のはずなのだが。
多少、彼女と打ち解けた自覚はある。
だがそれはまともに会話が出来るようになったというだけの話で──なにより。
(あの大規模戦闘で怪我人を出してるんだよな……)
(そういえば『怪我人を出したら学園から追い出すぞ~』って言ってましたね、あの人)
(だから追放されるかどうかの瀬戸際なのに、なんだって他の二人よりも好感度が高いんだ……?)
(もしかすると、タイガや私の意識がない時の彼女の言動も好感度の計算に入っているのかもしれません。とにかくほら、もう部屋の前ですし気合を入れていきましょう)
ロボに言われてハッとする。気が付けば俺と冬香がシェアする自室の前にまで到着していた。
なんとかうまく立ち回れるよう、まずいやらしい喋り方にならないよう気を付けなきゃ。
「よしっ♡ ……ん゛んっ! ……よしっ」
これで大丈夫。さぁいこう。
「ただいま」
「──っ!」
「……あれ、三春?」
扉を開けて中に入ると、そこには机に突っ伏して眠っている冬香と、彼女の肩にブランケットを被せようとしている三春の姿があった。
「……柏木さん? ……うそ、起きたの」
「え、えぇ、まぁ」
「──あぁ、よかった。本当に」
「あっ、三春っ!」
心底安堵したように深く息を吐いた三春は、緊張の糸が途切れたかのように倒れこんでしまった。
幸いベッドに倒れたから怪我はなかったものの、その様子から彼女がどれほど疲弊しているのかは、十二分に理解できる。
てかめっちゃビックリしちゃった。目の前で人がぶっ倒れたのは初めてだ。
「だっ、大丈夫か……?」
「うん……あたしは、平気。ちょっと疲れちゃっただけだから」
そういう彼女の瞼の下にはクマが出来ている。かなり寝不足だったようだ。
「……冬香さんは、この三日間付きっ切りで柏木さんの容態を見ていたの。戦闘明けなのに、食事も取らずに、ずっと」
「えっ」
俺の想像以上に、冬香がめちゃめちゃヒロイン指数が高い行いをされてらっしゃった。
「このままだと冬香さんも倒れちゃうと思ったから、なんとか説得してあたしが部屋に帰してね」
「……こうして眠るまで、冬香を見ていてくれたのか」
「まぁ。……あはは、柏木さんが起きたんなら、もう大丈夫だね」
……やってしまった。
本当なら目を覚ました段階で部屋に戻って、冬香に会いに行くべきだったのだ。
まさか冬香がそこまで俺を心配してくれていて、そんな彼女を支えるために三春が頑張っていてくれたなんて。
(山田さんとの話し合いは今後に関わることでした。仕方ありません)
(それは……そうだが……いや、今は三春のことだな)
かぶりを振って彼女の方へ向き直った。自分の行動を顧みて後悔している時間はない。
「部屋、戻らないと……あぇ、柏木さん?」
「もう動くのも大変だろ。そこが冬香のベッドだし、そのまま三春が使うといい」
「でも……」
「冬香のことは任せてくれ。……話はあとでしよう」
しっかりとベッドに寝かせて毛布を被せながらそう囁くと、三春はコクリと頷いたあと眠気に逆らえず、そのまま夢の中へと落ちていった。
……にしても。
(うおっ、寝顔まで美少女とか……美しすぎる……)
(あの、寝てる女の子を襲ったら私でも擁護できませんよ?)
(そんなつもりは微塵もないんだが、こうしてみるとこの女学園の生徒、顔が良い人類が多すぎると思って……はぁ、アニメみたいな冬香との百合百合が見たい。シリアスなの辛い)
(百合狂いの美少女好きオタクの側面は隠してくれると助かります)
わりぃ、おれ主人公じゃなくてモブ出身の一般オタクだから……。
(今は主役のふるまいを求めてるんですよ、バカ)
(シンプルに罵倒された)
罵倒というかお叱りですわ。すいませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます